プルチアの勘と五方向からの一斉捜索の成果
見事な赤髪だった。
だけど、先端に向けて色素が薄くなり、黄色のグラデーションが掛かっている。
顔つきは、ドルチェットに激似していた。
髪型以外は本気でドルチェット。双子レベルの激似具合。
間違いない、ドルチェット兄の一人だ。
なんでバレた!?っていうか、追い付くの早すぎ────
「見つけたぜィ!!!」
ハッと我に返り、慌てて【受け流し】【身体強化】【防御力強化】のスキルを発動した瞬間、階段下の建物の屋根に突っ込んだ。
「ディラ!!」
慌てたようなクレイの声が降ってくる。
「大丈夫!!!無事!!! ───!!?」
反射的にエクスカリバーで防御姿勢を取ると、間髪いれずに凄い衝撃がエクスカリバー越しに伝わった。
普通の細身の通常剣なのに一撃一撃が重く、何よりも。
速い…っ!!
まさしく猛攻だった。
ドルチェットに似た太刀筋のおかげで剣筋の予測がついたけど、ドルチェットはパワータイプなのに対して目の前のこの人は速度特化なのかドルチェットの二倍、いや、三倍の速度で攻撃を繰り出してくる。
まるで高速剣を常に出されている感覚だ。
単純な剣の技術なら功太よりも上。
一応レベル差があるのかそこまで驚異ではないが、それでも逃げる隙がなく防戦一方になってしまっている。
上のクレイも心配だけど、と、フェイントを掛けてきた攻撃捌いたところで、ドルチェットの兄、黄色グラデが舌打ちをした。
「なんだよ…。臆病モンの弓やろーだからラクショーとか思ってたのに硬ってェーなクソ!!」
「うっ!!」
蹴りをエクスカリバーで防ぎ、少しだけ距離が取れた。
今のうちにクレイの元へと向かうかと思案する。
「この盗賊がよォー。うちの宝を横から掠め取って、さぞかしチョーシ乗ってンなぁー?」
この言葉で思わず聞き返してしまった。
「…宝?なんのこと?」
「惚けんなっつーの」
黄色グラデがエクスカリバーを剣で示した。
「その神具のことだよ、わかってンだろォ??」
「は?」
何言ってんだこいつ、と、そんなことを思っていると、突然黄色グラデが何かを察したのか嫌な笑みを浮かべる。
「ははーん?もしかして知らなかった的な?」
「……なにが?」
まだ俺が知らないことがあるのかよ。
もういっそのことルールブックでもガイドブックでも俺にくれ、マジで。
「お前が我が物顔で使っているその弓なァー、元々はレッドジュエル家に授けられるはずのものだったんだ。
なのにポッと出のてめェが突然盗んでしまったから、こっちは面子が丸つぶれなんだよ…。
わかるかァ??つまりは盗んだモンはさっさと返せ、ッつー訳…」
ぐっ、と金色グラデの足に力が入るのを感知。
「───だッッッ!!!!」
屋根の破片を剣で弾き飛ばしてきた。
顔面に真っ直ぐに飛んでくるそれをエクスカリバーで叩き落とした次の瞬間、目の前には銀色に輝く切っ先が───
「ッッ!!!」
反射的に反らした鼻先数ミリを鋭い刃が通過する。
こっわ。なんだよこいつ、さっきから首とか顔ばっかり狙いやがって。
金色グラデが、ニヤリと笑う。
何かすると予感したのと、ビリリとした予感のような痺れが身体を縦に走るのは、ほぼ同時だった。
「ぐっ!」
無理やり体勢を崩しつつ横へと回避すれば、今までいた場所の地面が切り裂かれていた。
ゾッとした。
あいつ、突き切った状態で剣を反転させて、引く動作で地面ごと俺を斬りに来やがった。
「こっわぁ…。なんだよ今の動き…」
念の為に千里眼を発動させておいた。
話しには聞いていたけど、レッドジュエルの剣士はそこらの剣士よりも強いことは十分に理解した。
「……ふーん、鼻を二つに分けてやろうと思ったのに…、やるじゃーん」
面白くなさげだが、しかし半分は面白いおもちゃを見付けたような目をしていた。
ドルチェットもそうだけど、好戦的というか、戦いを楽しむのはレッドジュエル家の特性のようだ。
ということは、このままだとヒートアップしていくのはまずい。
何がまずいって、俺にとってここの地形は戦いにくい。
相手との距離が近すぎるし、手加減ができない。
「!」
あちこちから遠吠えが木霊してくる。
ジルハの声じゃない。
「へッ、お前終わったなァ」
金色グラデの後ろから人がやってきた。
赤毛の男と、色は違うがジルハを大人にしたような男だ。
それが二組。
片方は見たことのある容姿だ。
確か、ネビオーロだったか。
「なんだよプルチア。珍しく手間取ってるじゃねーか」
「ねー。めっずらしぃじゃーん」
片方は間延びした話し方をする黒混じりの赤い髪の男。
タレ目だけど、確実にドルチェットの身内だと分かる。
ドンと、後ろからも音がして確認した。
現れたのは不機嫌そうなドルチェットの顔を固定したような大男だった。
もちろんこっちも赤髪、紫のメッシュが入っている。
続々と集まってくる兄たちに冷や汗が流れ始めた。
まずい。しかもジルハのような人たちが、なんだなんだと集まりつつある野次馬に邪魔されないように囲っていた。
……どうする?巻こうと思えばまけれるが、さすがに無傷で巻ける気がしないぞ。
絶対に彼らは俺を逃がすまいと全力で妨害してくるだろうが、それに対して俺は丸腰のままだと難しい。
「あ、おっせーよ大兄貴!!」
「迷子にでもなったのー?サンジョヴェーゼ」
サンジョヴェーゼと、呼ばれた一番最後にやってきた男を俺は見た。同じく赤髪だったが、そいつは青のインナーカラーがはいっていた。
その男がなんとなくヤバそうな雰囲気を感じる。
やりあえば間違いなく矢を射たなくてはならなくなる気がするし、ぜったいに結構な規模で町を破壊しちゃう。
「……よくやった。このまま捕らえる」
歯噛みした。
せっかくアスティベラードがゆっくり傷を治す事ができると思ったのに…。
サンジョヴェーゼが剣の柄に手を伸ばし、俺も応戦しようと弓矢生成を発動しようとした。
その時、ドン!!と階段のすぐ横に狼が落ちてきた。
クレイに襲い掛かっていったやつだ。
「ディラ!!!!」
近くの屋根の上からクレイが呼び掛ける。
「跳べ!!!」
言いきるや、クレイが階段のように盾を配置していった。
すかさず俺はクレイの盾を使って離脱を試みる。
「逃がすかよォ!!!」
金色グラデが逃がすまいと剣を投げてくるが、それを回避しながら跳躍。そのままクレイの盾を使って上へと脱出した。
すぐにクレイは盾を消して一緒に逃げようとすると、下方から家屋が破壊された。
クレイと俺が驚き振り替える。
「うわ、ドルチェットの兄も斬撃飛ばせるのか」
「一般人はスキルとか無いんじゃないの??素???」
その直後、サンジョヴェーゼが飛び上がってきた。