乱用可能なら弓職が無双してた
アスティベラードとノクターンの二人で宿を引き払い、俺達は窓から脱出。
忘れ物と称してドルチェットとジルハのもう使わない私物を部屋に隠してきたので、これで少しは時間が稼げるはずだ。
そのままコソコソと街の外へと移動完了して、無事にアスティベラード達と合流できた。
さて、クレイと俺を繋ぐ案は決定されたわけだが、問題はその二人と誰を繋ぐのか、だ。
「で?二人を繋ぐ杭は自分と?」
「……ほら、ドルチェットの耐久性ってクレイの次にあるじゃん。ジルハは先に着地して安全を確保して欲しいし」
「ふーん、まぁ良いけどよ」
レベルや耐久性、応用力の総合でドルチェットに決まった。
何かあったとしても、人間ロケットもどきとクレイの盾と俺の矢の反動なんかでなんとかできると判断した結果でもある。
結局ごり押し解決とか突っ込むのはナシだ。
「とりあえずどのくらい飛ばせば良いの?」
場合によっては溜めを使わなければならない。
「うーん、そうですね…」
ジルハが考え込んだ。
「僕らの追跡可能範囲がだいたい20キロ程なので」
「20キロ????」
聞き間違いかと思った。
「30キロ程だと結構時間を稼げるかと思います」
「それでも時間を稼ぐくらいしかできないのかよ」
クレイに突っ込みを入れられていた。
いやそれにしたって、能力おかしい。
困惑する一同にジルハは何を思ったかワタワタを弁明をはじめた。
「あ、あくまでも彼らは、ですからね。僕はそこまでじゃないので」
「嗅覚だけで迷宮看破した奴がよくいうわ」
アスティベラードの言葉に全力で頷いた。
「ジルハいなかったら時間切れもあり得たのだ。自信を持て」
アスティベラードに言われて、ジルハは心なしか照れているように見える。
アスティベラードって褒めるときはド直球なんだよな。
それと同時に思った。
前から思ってたけど、自己肯定感低くないか?
なにかあったんだろうか。
いや、話を戻そう。
しかし───
「30キロかぁ。溜めでもあと10キロ足りないなぁ。
仕方がない。弓変えよう」
「その言い方だと、20キロはいけると聞こえるが」
クレイの言葉に頷いた。
「うん、まぁ、一応」
「お前、やっぱりバケモンだよ」
「褒めてるのそれ?」
「褒め言葉だ」
褒められているらしい。
長遠距離狙撃用弓、春燕。
これは30キロオーバーの飛距離を出したい時に使う特殊弓のひとつだ。
正確な着弾点を狙いにくいのと、近距離(20キロ以内の発射)での取り回し攻撃ができないという弱点があるけれど、その代わりこういった人間ロケットでの長距離移動では大変重宝される弓なのだ。
ちなみにその上、50キロ台の大白鳥というアホみたいにデカイ弓もあるのだが、あれはもはや高過ぎてただのロケット(矢)発射台だと思ってる。
千里眼で安全確認をする。
「よし、行けそうだ」
「先にジルハ頼む!」
クレイの指示のもと、応用の利くジルハを先に飛ばし、次にロエテム装備形態のノクターンを飛ばす。
実は前回の人間ロケットにて、人間も装備形態にすれば良いと学んだので、あらかじめロエテムにおんぶされる形で固定してから飛ばすことにした。
ちょっとだけ心配だったけど、普通に飛んでいった。
か細い悲鳴は上げていたけど。
次にアスティベラード。
「では待っておる」
子猫形態のクロイノを鞄に収納してから飛んでいく。
毎回思うけど、アスティベラードは楽しそうに飛んでいく。
多分だけど、絶叫系大好き人間なのかもしれない。
「はぁーっ、きっつー…」
ここらで結構息が切れてきた。
思ったよりもしんどいなこれ。
春燕でこの疲労具合なら、大白鳥は一発射つ毎にダウンするんじゃないだろうか。
運営は一体何を考えてるんだろうか。
「おい、大丈夫か?」
「顔色わるいぞお前」
予想以上に消耗している俺の様子でクレイとドルチェットが声をかけてきた。
「大丈夫、だけど、結構きついかも」
「すまん、あと一発だ。踏ん張ってくれ」
「うーい…」
返事はしたものの、とはいえ結構スキル消費による疲労がキてる。
おかしいな、戦闘でもここまでではないのに。
発動しているスキルだって、【人間ロケット】【弓矢改造/長距離狙撃用弓“春燕”】【衝撃受け流し】【千里眼】【隠密】くらいしかやってない。
そりゃ目的地到達までの調整をミリ単位でするのに気力は使うけどさ。
ああ、でもそうか。と、何となく疲労の“理由”が思い付いた。
乱用できないように運営があえてそう作った可能性もあるのか。
じゃなかったら手の届かない所からやりたい放題できるもんな。納得納得。
「ディラ、いけそうか?」
あれこれ考えていると、いつの間にかクレイが準備を済ませていた。
しかも俺の準備もほぼ終わっていた。
おかしいな。何かされたって記憶がないんだけど。
そういうスキルか??
「あ、うん。大丈夫」
再び人間ロケットのスキルを発動してドルチェットに指定した。
最後の一発だ。頑張ろう。
クレイが最後にロープの設定を済ませるのを確認し、俺は春燕を構えた。
「じゃあ行くよ」
正直怖いけど、頑張るしかない。
覚悟を決めて矢を撃ち放った。
結果としては、何故か盾でサーフィンのような形状で飛ぶことになったのだが、あまりにも安定していたため、これからはこの作戦で飛ぶことを決めたのであった。
「結構離れたなぁー……」
無事に到着し、疲労で倒れた状態で飛んできた方向を見た。
肉眼では絶対に見えない距離だ。
千里眼でようやく確認できる程度である。
「これで安心じゃないか??」
クレイがジルハにそう言うが。
「だといいんですけど…」
それでもジルハは不安そうだった。
まぁ確かに。追跡可能範囲が20キロで、そこから10キロしか離れてないならまだ不安か。
……10キロはデカイな。“しか”ではないか。
「それじゃあ、さっさと離れよう。今のうちに距離を稼げば多分大丈夫だろう」
クレイが倒れ付している俺に視線を向けた。
「ディラは回復するまではグラーイで運ばれてくれ。お疲れ」
「うぇーい…」
最後の一発で体力を使い果たした俺は、荷物のようにグラーイに乗せられたのだった。
仕事は終わった。
回復するまで寝ることにしよう。