トラウマをごり押し解決させてくる
宿へ戻ると、先に部屋に到着していたドルチェットが憤っていた。
「くそっ!やらかした…っ!」
「……ほんとにね」
そんなドルチェットをジルハはやや冷めた目で見ていた。
確かにジルハをパシっている間に接触されたんだ。
なんで焼き串を我慢できなかったのか。
空腹に負けたのか。
見た目に反して大食いだもんなドルチェット。
「ドルチェット」
クレイがドルチェットに声をかける。
「あれはドルチェットの兄、で、良いんだよな?髪の色がだいぶ違うが」
「確かに。真っ赤だったね」
顔はドルチェットそっくりだったけど、髪の色は全く別物だった。
ここの世界は異なる髪の色の人を両親に持った場合、血が強い方の色が出るらしい。
だからきっとドルチェットのような青銀の髪なのかと思ったけど。
そんな疑問にドルチェットは答える。
「ああ…、うちは体内魔力の総量で色が変わるらしいんだよ。
大抵男が赤色、女が灰色」
灰色…と呟きながらドルチェットの髪を見る。
灰色とは異なる綺麗な銀だと思う。
でもこれ言ったらなんでか殴られそうだから言わないけど。
ドルチェットは座り直し、ため息をついた。
「あれは下から二番目の兄、ネビオーロだ。返答をしてこなかったから直接やって来たんだと。兄達の中でも特にせっかちな野郎でな、単独行動してきたんだろうな」
あいつ特にバカだし、ってドルチェットが言った。
ドルチェットに罵声を浴びせていた男を思い出してみた。
バカかはわからないけど、コンビニにたむろして、すぐに絡んできそうな奴っぽい感じは確かにした。
「でも、とりあえずは巻けたし。一応は大丈夫なんじゃない?」
あんな濃度の煙幕で追えるのなんかそうそう居ない。
だけど、いえ、とジルハが首を横に振った。
「接触されてしまったのですぐに場所を特定されてしまいますね。僕らの現在の匂いを使い魔が覚えてしまったので」
「使い魔??」
「……僕みたいなのです」
「え」
ジルハって使い魔なの?
ブリオンでいう使い魔とはだいぶ形態が違うので変な感じだ。
いや、でもジルハは獣人だし、狼になれるからちがくはないのか?
「ジルハみたいなのが他にも居るってことか?」
クレイにジルハが頷く。
「そんな感じです。しかも僕よりもずっと優秀なので、恐らく今夜中にでも…」
「マジかぁ」
一回の接触でアウトなのか。
「そんじゃあすぐにでも逃げんとな」
「でも普通に逃げたんじゃすぐに追跡されるよね。ジルハと同じなら鼻が凄く利くから」
「ならどうする?それぞれ香でも振り掛けるか?」
す、とクレイが手を上げた
「じゃあ、普通じゃない速度での逃亡ならどうよ?」
「へ?」
クレイの提案は、俺のスキルである“人間ロケット”による高速離脱をする、というものだった。
つまりは、人間ロケット大移動、第二弾である。
「第二弾???マジ???クレイお前、俺がどんなになったか覚えてないの????」
「覚えてるからの第二弾」
嘘だろお前と、ドン引きしている俺にクレイは淡々と説明をはじめた。
「前回のあれはきっと結び方とか良くなかったんだ。だから、改善する」
「どーやってスキルを改善するんだよ」
これに関しては譲る気はない。
本当に死ぬかと思ったんだ。
クレイはおもむろに紙を取り出すと、そこにさらりと人間ロケットの図を描いた。
絵がうまいのが逆にムカつく。
「前は前方に結んだから回転し始めた。こんな感じだな」
図にされて、なんでああなったのかが何となく分かった。
見るからにプロペラの構造だったのだ。
そこでクレイは棒人間から伸びる線を、お腹側ではなく、背中から上向きに伸びるように描いた。
「だから、今回はこう、縦にしようと思うんだけどどうだろう?」
「……」
想像して、バンジージャンプ失敗映像のようなものが脳裏に再生された。
「普通に地面に頭から突っ込むことになりそう」
「だめか」
「俺の身体能力だけに頼ろうとしないで」
信頼してくれるのは結構だけど、どんなにスキルでガチガチにしたところで無理なもんは無理なのだ。
そんな中、アスティベラードが思い付いたらしい。
「…………いっそのことクレイも一緒に括ったらどうだ?」
頭上にはてなが浮かぶ。
「どういうこと?」
「要は飛ぶ間風の影響でダメになるのであろう?」
「うん」
「いっそのことクレイもディラと同じように生身で飛ぶことで前方に盾を出して中和すればいけるのではないか?」
再び想像してみた。
いける気はするけど、果たしてとんでも速度で移動中に設置できるのか。
一応クレイに確認を取る。
「空中で盾出せるの?」
「自分を中心に半径2メートルなら出せるし、何故かその範囲だけはある程度動かせるから…まぁ、うん」
「うーん…」
できると、断言してないのが気になるけど。
クレイは少し考えて覚悟を決めたようだ。
「…やってみる価値はある。とりあえず高レベルの耐久性とタンカーの頑丈さがあれば何かあっても大丈夫だろう?」
「適当すぎてこわいなぁー…」
結局はお互いのレベルと耐久性に掛かっているらしい。
ごり押しにもほどがあるだろう。