ホラーな通信手段
部屋の扉を開けると、ドルチェットがベッドに寝転がってムスッとしていた。
これはふて寝、でいいんだろうか。
ドルチェットの機嫌を伺うように、クレイが話し掛ける。
「ドルチェット、もうアレは燃やしたから」
アレとは手紙の事である。燃やした、という単語に反応してドルチェットがクレイを見る。
「燃やした」
「ほら、これ証拠」
俺が燃えカスを見せるとようやく信じてくれたのか、よっと飛び起きたドルチェットがやって来た。
「で、文鎮は?」
ドルチェットに“文鎮”と聞かれて何だろうと少し考え、ペーパーウェイトのあの石だと思い出した。
「それならジルハに渡した」
来る途中で、貸してと言われたので渡したのだ。
確かに元はドルチェットのものだから、俺が持っていたところで仕方のないものだ。
俺がそう答えたので、ドルチェットがジルハを見る。
ジルハはさらっと言った。
「捨てたよ、もちろん」
「えっ」
あんな気軽に貸してと言われて渡したら、普通に捨てられていたらしい。
なぜ?
「捨てたの?なんで?」
「いやだって、あれ追跡用の香付いてましたし」
「……へぇ」
アホかと思ったら、賢さも見せてくるこわい。
「ジルハ」
ドルチェットがジルハに声をかける。
「サーチしろ、今すぐ」
「…………分かったよ」
ジルハの体がざわついて部分獣化して目をつぶる。
「なに?」
静かに、とドルチェットがジェスチャーをする。
ジルハの耳があちこちに動き、ドルチェットが窓から街を見やる。
しばらくしてからジルハが口を開いた。
「5人。付き入れて10」
「勢揃いかよ、暇人め」
と言うことは、ドルチェットって六人兄妹なのか。
というか仲間判定していない身内に対してサーチができるとは知らなかった。
「クレイ、さっさと稼いでこの町から出た方がいい。宿もな」
「ドルチェットの兄たちって、しつこいから。しかも一組はこの宿内にいるし」
獣化を解いたジルハが下を指差した。
近くない?
「どうする?」
クレイに訊ねると。クレイは少し考える。
「まずディラは狙われてるし、たぶん顔は割れてるよな。ドルチェットとジルハの顔も割れてるし」
「あ、そうか」
相手はドルチェットの身内だ。
しかも箱に置かれたってことはバレてるかもしれないのか。
「正直奴らにみんなの顔を覚えられたくねぇ。アスティベラード達とか特にな」
「そうだよな。命が狙われてるんだ───」
「キモいから」
ドルチェット曰く、キモいかって理由らしい。
パンとクレイが手を叩く。
「わかった!じゃあいつも通り三組に別れて行動しよう」
いつも通りとは、俺とクレイ。アスティベラードとノクターンとロエテム。ドルチェットとジルハのチームである。
「トクルは一時的にドルチェット達と行動だから、何かあれば知らせられる」
ただ…、とクレイが言い淀む。
「問題はオレ達の連絡手段がないことか」
「それなー」
基本的に連絡方法が一方通行なのだ。
もう一つの連絡方法であるクロイノも子猫のまま寝ている。
本人は大丈夫だといっているけれど心配だ。
「マーリンガンのこの通信機がみんなにも使えればいいのにね」
「確かにそうだな」
子機とか無いのかと鞄を探ったけど無かった。残念。
するとアスティベラードが提案をしてきた。
「ロエテムをそちらに付けるか?ディラは顔が割れているから戦力は必要であろう」
「いや、女性二人だとなにかと危ないからロエテムはそっちに付いていた方がいい」
「そうだよ」
「しかし…」
うーん三人でと悩んでいると、ロエテムが手首を外した。
「えっ」
何事かと思っていると、ノクターンが説明をしてくれた。
「一方通行ですが…、これでロエテムからディラさん達に連絡を取ることができる…と…」
「それは凄いけど…」
見た目ホラーなんだよなぁ。でもありがたく受け取っておく。
一応動作確認をしたところ、特に問題なく動いた。
「ちょっとさ、試したいことがあるんだけど良いかな?」
ついでに俺からアスティベラードへと伝える方法を考えた結果、ロエテムの指を使って書いた文字をそのまま伝えるという、背中文字方法が採用された。
あとはどうやって持ち歩くか、だけど。
「とりま腰に下げとくか?」
クレイがとんでもないことを言い出した。だけど、それが一番気づきやすいっていうのも事実。
悪趣味なアクセサリーと見てくれればいいけど…。
「とにかく稼げるだけ稼いで、さっさと出るぞ」
「アスティベラードは次の宿を下見してくれるか?あの変身する奴を使えばトラブルは少なくなるだろう」
「うむ!」
「分かりました…」
そして、と今度はドルチェットを見る。
「ドルチェットはその間の陽動を頼む。ジルハはなるだけ回避を」
「了解です」
「気に食わないが、仕方ねぇ。さっさと稼いでこい」
「任せろい!」