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ゲシュタルト崩壊中

 


 歩きがてら、道に転がっている石を拾った。

 ビタミンCが入っている飴によく似た、黄色い石だ。

 しかしこれは飴ではない。


「硫黄かぁ…」


 硫黄といえば火薬のイメージが出てくるが、あいにく爆発系はスキルでなんとかできるので、別に無くても困らない。

 だけど、その内何かの役に立つかな、と一応拾っておいたのだ。

 そのついでにいつもの石を撒いておいた。

 別にトレードのつもりはない。


 石をばら蒔きながら歩いて街へ歩いていると、アスティベラードが声をかけてきた。


「そのばらまいている石、あとどのくらい残っておるのだ?」


 普段はさりげなく後ろを歩いているときに投げていたが、今回は更に後ろをアスティベラード達が着いてきていたので気になったようだった。


「んー、どのくらい…」


 なんといえばいいか、と少し考え、見せた方が早いかと鞄から石の入った袋を取り出した。


「これが入れてる袋なんだけど」


 石を入れているのは掌に収まるほどの小袋だ。それが中の石で適度に膨らんで、それなりにずっしりとしている。

 その袋を見てアスティベラードとノクターンが感想を述べた。


「なんだ、あと少しで無くなりそうではないか」

「見た感じ、あと二掴み程ですかね…。小さな袋に入れ替えたのですか…?」

「と思うじゃん?」


 二人が頭にハテナを浮かべた。


「実はこれ、最初に渡されたサイズと変わらないんだよね

 え」


 こんなに小さい袋、すぐになるなるだろうに。


「なんかさ、撒いても撒いてもなんでか減らないんだよね。ひっくり返しても出てはこないのに、掴んでも掴んでも袋のそこに触れないんだよ」


 実際思い切り手を突っ込んでも触れるのは石だけだ。

 きっと鞄と同じ構造なんだろうと思う。

 だとしたらどんだけ石を詰め込んだんだろうな。正直怖い。

 そんな袋にアスティベラードが興味を持ったらしい。


「私も撒いてみてよいか?」


「いいよ」と、アスティベラードに袋を渡した。

 どうせ撒くなら複数で撒いた方がいい感じがする。

 それでは早速、とアスティベラードが袋に手を入れようとして、「む?」と変な声を出した。


「どうしたの?」

「手が入らん」

「え、そんなわけ無くない?」


 明らかにアスティベラードの方が手が小さいのにと覗き込むも、暗くてよく見えない。


「奥の方が狭まっておってな、指先しか入らん」

「ええー、なにそれ」


 一応ノクターンにもやって貰ったが、アスティベラードと同じように手が入らなかった。

 後ろで騒いでいたから他のみんなが、なんだなんだと集まってくるので、それぞれ試したけど、みんなダメだった。

 その結果を受けてジルハが一言。


「ディラさん専用、て、事ですかね」

「ええー……」


 こんなことを専用にされてもなぁ。


「今までお前が撒いていたんだから特に問題はないだろ?」


 ドルチェットの正論である。


「それもそうだけどね」

「もしかしたら、ディラさんでなければいけない理由があるんじゃないですか?」

「あー、なるほど…??」


 マーリンガンの事だから、神具保持者だからっていう理由なのかもしれない。


「……それなら納得するけど、せめて何なのかの説明くらいは───」


「欲しかったなっ!!」と力一杯に投げた石はキラキラと光ながら落ちていった。





「お、見えた」


 先導していたクレイが声をあげる。


「あの街だ。ついたぞ」


 クレイに続いて丘を登りきると、前方に霞掛かった街が見え始めた。

 赤を貴重とした、まるでジブリの中にでも入ってしまったかのようなアジアンチックな街並みだった。


 しかし、クレイに言い聞かされた街に滞在している際の注意点を思い出す。


 その一、遊女には近付かない。

 ここ、ゲドゥーラ街は温泉街と同時に遊郭街でもある。

 ゆえにあちこちで客引きがされており、掴まったらアウトで、徹底的に搾り取られるらしい。

 見も心も懐も、だ。


 一応遊郭が集まっている場所は避けるが、客引きは何処にでも現れるから頑張って回避してくれ、とクレイは言うが怖すぎるだろう。

 てっきり箱根とかを思い浮かべたのに、のほほんとした情景は一瞬にして消え失せた。

 歌舞伎町らへんの気持ちで過ごした方がいいのか。


 その二は、知らない人から食べ物を貰わない。

 よからぬものが入っていたり、食べた瞬間に高額請求されたりするんだと。さすがに治安が悪すぎる。


 その三、酔っ払いばっかりだから、絡まれる前に逃げろ。

 ある意味身も心も開放的になるからか、朝から酒浸りになる者も多く、わりと感情的に絡んでくる輩が多いのだそうだ。


 ビナーよりも地獄やんけ。と言えば、ある意味な、とクレイは苦笑いしていた。

 とにかくこの三つさえ守っていれば楽しく過ごせる良い街らしい。

 うーん、良い街がゲシュタルト崩壊するな。


 クレイの習って街へと入る。

 元々無法者ばかりのこの街は身分証明は必要ないらしく、身元を確認されなかった。

 てっきり人間が多いからされるのかと思っていたから驚いた。


「ここって、教会の干渉って無いの?」

「無いな」


 意外だった。

 しかしその理由は実に下らないものだった。


「ここらはまともな人間が少ないから、教会も手が出しにくい地域なんだ。だから空賊やら売買屋が堂々と出歩けるんだ。もちろん手配犯もな」

「へぇー、つまりは目をつけられている俺にとっては天国ってことか」

「そういうこと」


 治安悪いのに天国とかワケわからんけどな。


 きらびやかな遊女達の楽園を傍目に、俺達は早速宿を取った。


「いやぁー、それにしても凄かったな」


 客引きが。


「あんなにも群がって来るとは思わなかった、あまりにも客引きが多くて客引き通しで喧嘩になったから助かったけど」


 そうクレイがゲンナリするほどである。

 通りからは結構な距離を取っていたはずだけど、何故標的にされたのだろうか。


「客が少ないとか?」

「そんなこたぁ無いだろ」

「うーん、そうかぁ」


 とはいえ、もう絶対にあの通りには近付かない。

 本当は装飾とかをじっくり見たかったけどね、残念。


「さて、早速だがお金を稼ごうか」

「おー!!」


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