キノコの恩返し
一仕事したので休憩がてら干し肉噛りながら空を見上げる。
本日はマーリンガンの言う三日目だ。
もし本当に来るのだとしたら、そろそろ来る頃なのだが。
「それにしても本当に来るのかな、キノコ」
今のところ一向に来る気配が感じられない。
隣でドルチェットも干し肉を噛み千切りながら言う。
「だいたい飛んでくるってなんだ?」
「さぁ?」
「だいたいそのキノコが飛ぶとして、どうやって自分達の居場所を観測してるんだ。だいたい動き回ってんだぞ?」
「それねー」
そもそもキノコが空を飛ぶってなんだ。
いくら此処がブリオンの中の世界のようだっていったって、ファンシー過ぎるのもほどがある。
どこぞのメリー○ピンズの傘のように風に乗ってくるのかと想像した時、今まで無風だったのに突風に見舞われた。
「わ!」
「なんだこの風!?」
バサバサと音が聞こえ、反射的に空を見上げると巨大なドラゴンの影を発見した。
その瞬間、俺は叫んだ。
「どらごん!!!!!!!!???」
念願のドラゴンに会えて一気にテンションが上がった俺とは裏腹に、クレイ達が焦りの声をあげていた。
「なんでこんなところに!?」
「みんな、戦闘準備!!」
クレイの指示のもとみんなが武器を取り出す中、俺は上空のドラゴンを見上げたまま「ん?」と首を傾げた。
なんだろう、この変な既視感。
「んんー??」
なんとなく千里眼を発動して観察したその瞬間、マーリンガンの通信の内容が脳裏をよぎった。
「みんなちょっと待って!!」
慌ててみんなに制止を呼び掛けると同時に、すぐ近くにドラゴンが着地した。
「………」
俺が止めてしまったことでどうしれば良いのか困惑したまま目の前のドラゴンと向き合った。
そのドラゴンは今までに見たことの無い形をしていた。
いや、違うな。ドラゴンのような形をしているけれど、これはドラゴンではない。
何を根拠にと言われてもわからないけど、ドラゴンではないと俺の勘が言っている。
そう、むしろどっちがといえば菌糸類的な───
「おい!ディラ!」
クレイの制止を聞かずにドラゴンに近寄ると、ドラゴンはゆっくりと翼を閉じて首をもたげてこちらに顔を向けた。
始めて見る筈なのに、何故かコレを知ってる気がする。
「!」
そのドラゴンには目がなかった。
いや違う、正確には顔すらない。それなのに何故か俺を見ている感覚がした。
チリリとドラゴンの首もとが光を放つ。
なんだろうと視線を向けると、その首もとに見たことのあるものがぶら下がっていた。
「……キノコリアン??」
キュッ、と、ドラゴンが音を出した。
「マジかァーーーー!!!」
何でドラゴンにという疑問はさておき、まさかの再開に嬉しくてキノコリアンに飛び付いた。
「キノコリアーーーーン!!!!」
そんな俺の様子を見て警戒を解いたクレイが、困惑しながら訊ねてくる。
「おい、ディラ、このドラゴン知ってるのか?」
キノコリアンから腕を離してみんなに向き直った。
「ていうか、クレイも知ってると思うよ。もしかしたらみんなも知っているとは思うけど」
いやそんなこと無いだろとクレイは否定してくる。
「そんなドラゴン、見たこと無いぞ」
「そもそもドラゴンなんか見たこと無い」
口々に否定するみんなに俺は無言で後ろに控えるキノコリアン指差す。
「こいつ、俺がみんなとパーティー組むことになった町で連れ回していたペットの歩きキノコ」
しん、と数瞬時が止まった。
そして、爆発した。
「はぁーーーーー????」
「何がどうなってそうなった???」
「おいちゃんと説明しろ!!!」
「そうですよ!!!」
ドルチェットとクレイにがっくんがっくんと揺さぶられながら俺は必死に答える。
「わからんです、いやマジでわからん、なんでだろ??でもどう見ても俺があげたアクセサリーなんだよ」
俺の自作したアクセサリーは世界に一つしかない。
もし万が一似たようなものがこの世界に売っていたとして、それをわざわざキノコにあげる奴なんかいないだろう。
「キノコは、成長するとドラゴンになるのか?」
さすがに情報過多だったのだろう。
とうとうアスティベラードが意味不明な質問をしてきたので。
「わからんけど、なってるからなれるんじゃない?」
と、俺は考えるのを止めてノリで答えた。
いくら考えたところで知らんものは知らないのだ。
何せマーリンガンが知らないのだ。俺が知っている訳がない。
そんなわけで、訳がわからないながらもドラゴン=キノコリアンという方程式が確定し、味方があることが証明されたので冷静に話し合いが始まった。
「そんで?来たはいいけどよ、こんなでかいのどうすんだ」
「そもそも何を食べるのかもわからんし」
「うーん…」
クレイの意見には俺も同意だ。
「どうしよう」
するとキノコリアンは羽を広げて背中を向けてこちらを見た。
なんだろう。
「もしかして…、乗ってくださいと…言っているのでは…?」
え、とノクターンの方を見る。
突然見られたノクターンの声が徐々に小さくなる。
「その…そんな感じがしただけです……」
「でも一理あるかも」
「本気か?」
とクレイが言うけど、俺はノクターンの案を推してみようと思った。
「もし違ったら、なんかこういう素振りするでしょ」
物は試しと背中に乗ってみる事にした。
鞄から頭だけ出ているグラーイが不安そうにこちらに視線を寄越すが、何かあってもダメージを受けるのは俺なので付き合ってほしい。
「じゃあ失礼しまーす」
そろりと足を乗せるとなんとも言えない感触が靴越しに伝わってきた。
例えるならば巨大なバランスボールのような感じだ。
もう一歩踏み出すと、不安定だった感触が少し固くなり、もう一歩踏み出すと丁度よくなった。
もしかしてキノコリアン、身体の固さとかを調整できるのか。キノコだから???
「おーい!どんな感じだ?」
下からクレイの声が飛んでくる。
「全然大丈夫っぽーい!むしろ乗りやすくしてくれてる!」
そう答えれば、じゃあとクレイが登ってくる。
良さげな所に座ってみると、不思議と安定した。
さっきまで固かったのが、今度はクッションの上にいるみたいだ。なんだこの不思議生物。あ、キノコリアンか。
そうこうしている内にみんな登ってきた。
「なんか変な感じだな」
「同意」
最後、アスティベラードもノクターンの手を借りながら登ってきた。
「ふむ、クロイノの感触とも違うな」
アスティベラードが座ると、キノコリアンが顔をこっちに向けて「みんな乗った?」と確認してくる。
その際、再びキュキュッ!と鳴いた。
やっぱり鳴き声だったのかそれ。
「お?」
何もなかったところからトゲのようなものが生えてくる。
思わず立ち掛けたが、そのトゲは獣毛のように柔らかく、さわり心地が良い。
それらが座った自分達の方ほどに迄成長すると、キノコリアンは大きく羽を広げて上を見上げた。
周囲の空気が変わっていく。
「みんな!しっかり毛に掴まれ!」
クレイに言われて慌てて毛を掴むと、無風だったはずなのに何処からともなく風がやって来た。
ぐん、と、キノコリアンが姿勢を低くしたその瞬間、ひときわ強く風が吹き荒ぶいて、一気にキノコリアンは上空へと飛び立った。
あまりの風に目をつぶっている間も、キノコリアンはぐんぐんと高度を上げていく。
ようやっと上昇が止まった時に俺は目を開くと、目の前には素晴らしい光景が広がっていた。
魔界入りした時に乗った飛行挺よりも高い位置から眺める世界は、前後を巨大な山脈に挟まれたものだった。
前方は空気の霞でよく見えないけれど、遥か遠くに世界樹らしき影が見えた。
あれが、俺の最終目的地。
息を吸い込み、声を上げた。
「行くぞォォーーーー!!!!!」
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ここまで読んでいただき
ありがとうございました。
次の章の書き溜めをしますので、
少々お待ちください。