川下りしました
ぎ、と小さく音を立てて船が動き始めた。
船が動く。揺れはそこまでなく、このまま目的地の近くまで下るらしい。
川の流れは思いの外早く、あっという間に三人の姿が見えなくなってしまった。
滞在中ずっと行動を共にしていたから、少し寂しく感じる。
「いい人達だったね」
「お世話になりっぱなしだったな」
「いつか恩返ししたい」
「だな」
そんなことをクレイと言い合いながら、先程もらった飴を小袋に詰めてみんなに分配した。
これで何かあってもノクターンは爆即で復活ができるし、万が一ノクターンの飴が無くなっても俺達の一人から補充すれば良い。
リスクは分配するに限る。
「ふぁあぁぁ……」
相変わらず肌寒いが、良い天気なのと水の音で思わずアクビが出てしまった。
船は結構な速度で水面を滑っていく。
それでもクレイの目指している場所はかなり下流で、到着まではまだ掛かるとの事。
それぞれすぐに動ける範囲で暇潰しをしていると、突然着信音が鳴り響く。マーリンガンから通信だ。
「なんじゃ?この音」
聞き慣れてないグゥが困惑してキョロキョロしているのを「大丈夫です。犯人俺です気にしないでください」と宣言してからマーリンガンの通信に出た。
「マーリンガンどうしたの?」
ねぇ、ディラくん。と、なにやらいつもと様子の違うマーリンガンだった。
一体どうしたんだろう。
『あの、ちょぉーっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?』
「なに?」
少し間を置いてマーリンガンが訊ねる。
『君ってさぁ、キノコの知り合いとかいる?』
………聞き間違いかな?と、もう一度聞き直した。
「ごめん、良く聞こえなかった。なんだって?」
『だから、キノコ』
「マーリンガン、ボケた?」
『張っ倒すぞ』
さすがにボケたわけでは無さそうとはいえ、なぜ俺が食べ物と知り合いなのだと思うのだろうか。
もしかして俺の記憶にあるゲーム一覧にキノコの知り合い居たかなと検索を掛け、配管工ゲームくらいしかなかった。
でも結局あれは知り合いじゃないから違うな。
「いやいないです」
『えええー、おかしいなぁー、知り合いだって聞いたよ?贈り物もされたって』
「ええー…、わからないー…」
俺そんなファンシーな行動した記憶無い。
本気で俺が知らないと察したマーリンガンが咳払いをした。
『まぁ、とにかく!そのキノコがお礼がしたいからって飛んでいったよ。3日くらいで着くらしいから、ちょっと待ってて』
「ん?飛んでった?」
『それじゃ!』
「まってマーリンガン、飛んだってどういう──」
慌てて聞き返したが、すでに通信が切れていた。
なんなんだよもう。
「キノコの知り合いとか飛んだとか、なんだよ」
訳がわからないけど、マーリンガンが嘘をつくとは思えない。
「ねぇ、クレイ。目的のところまでどのくらい掛かる?」
「んー、ちょうど3日くらいだ」
「じゃあ丁度だね」
「それにしてもキノコってなんだ?」
一応みんなも会話を聞いてくれていたらしい。
「さぁ?なんなんだろうね」
とにかくも3日経てばキノコの意味が分かるだろう。
それにしてもナッツ村から此処まで3日か、移動速度早くないか?
ようやっと目的地近くの岸へと着岸した。
お世話になりましたと、クレイがグゥにお礼としてお金を握らせてた。
一応ウロからも貰っていたらしいけど、実に快適だったからチップというやつだ。
こんな下流まで来て貰ってなんだけど、帰りどうするのかと思ったら普通に船で上流に戻っていった。
どういう原理なんだろう。エンジンはなかったはずだけど。
「アスティベラード、傷痛くない?」
「もう大丈夫だ。ディラこそ腕は平気か?」
「うん、なんか皮が向けてもとの色に戻った」
アスティベラードにそう言いながら、つい先日水ぶくれになってしまっていた火傷場所を見せた。
赤みはすっかり引いており、代わりに茶色に変色していた皮が剥けていた。
「ほう、綺麗に剥けておるな」
「ね、日焼けしたみたいだね」
まさか火傷箇所が脱皮するとは思わなかった。
水ぶくれまでになった火傷の治り方を初めて知った。
思わず日焼けに例えたけど、アスティベラードとノクターンはピンときていないようだ。
アスティベラード自体地黒だから、もしかしたら日焼けしても皮剥けずに黒くなるだけとかなのだろう。
「なぁー、クレイ。ところで何を取りに行くんだ?」
黙って歩くのに飽きたドルチェットが前方を歩くクレイに訊ねた。
クレイは地図と周囲に視線を向けながらドルチェットの問いに答えた。
「ああ、金の成る木だ」
「あ?」
カネ、という果実が成る木なんだろうか。
俺は知らないけどみんなは知ってるのかなと様子を盗み見ると、みんなも良くわからないような顔をしていた。
「見てのお楽しみってやつだ」
なんだかはぐらかされたような気もするけど、そういうことにしておこう。