出立準備
明日の昼頃に出発予定になるらしい。それを早速スクアドに伝えると立ち上がった。
「わかった、それまでに準備していよう。楽しみにしていてくれ」
本当に何の準備だろうか。
気になるけれど、きっと教えてはくれないんだろうな。
そう思っていると、あ、と言いながらスクアドがこちらを向いた。
「そういえば先ほどウロが探していたぞ」
「本当ですか?分かりました。すぐに行きます!」
もう行くのかと言いたげなアスティベラードに心が痛むけど、まずはウロ優先だ。一人で退屈なのは同情するけどね。
「またあとでね」
「うむ…」
きっと俺が行ったあとにノクターンが入れ替わりで戻ってくると思うからそれまで頑張ってくれ。
どこにいるのかと思ったら、所在を聞いたケンタウロスに此処に居ると川に案内された。
そこにはウロだけではなくクレイもいて、二人して川の様子を見ているようだった。
「来ました」
声を掛けると二人がこちらを振り向く。
「おお!待ってたぞ!こっちに来い!」
呼ばれるままに行くと、川を見ろと言われて見た。
川底が見えていた川はこの3日であっという間に水位な戻りつつあり、明日にも溢れるのではないかと思うほどになっていた。
その川を見ながらウロが言う。
「恐らくこのまま溜まれば明日以降は今使っている橋が沈む。既に船の手配はしているが、君達の予定に合わせてルートを変更することは出来るがどうする?」
つまりは明日にでも出発しなければ橋は沈むのが確定していて、渡れはするけど危険ということらしい。
けれど事前にお願いしていた船が到着するのも明日なので、今ならルートを選べると。
「うーん、アスティベラードの事を考えると船だよねぇ」
スクアドにたっぷりと釘を刺されているのだ。絶対に無理は禁物。
「ディラ、ちょっと」
「ん?」
クレイに呼ばれて行く。
するとクレイは地図を取り出し、とある場所を示した。
此処よりもずっと下流で、それでいて町なんかが近くに無い辺境な場所だった。
その地図を開いたまま、クレイが俺に説明を始める。
「…実は向こう岸の方に採っておきたいものがある。しかも此処から下流の方でかなり距離があるから、アスティベラードの負担を考えるなら…」
「じゃあ、やっぱり船?」
「そっちのが都合がいい」
じゃあそれで、と話が纏まった。
「せっかくだから船で行きます」と、クレイが言えば、ウロがわかったと承諾した。
さて、戻ったら皆に伝えて旅支度をしないとな。
翌日、川へ行くとワニ頭の魔族が待っていた。
なんの種族なんだろう。リザードマンとは違う感じもするけど。
「やぁ!グゥ!今回はありがとう!」
ウロがグゥと呼んだ魔族と抱擁を交わしている。
どんな種族かわからないけど、見たかんじ良い種族そうだ。
「あの方は此処よりも上流に住むグランガチ族です」
いつの間にかやって来たサイが教えてくれた。
その後ろにはスクアドもいる。
「グランガチ族?」
「川の専門家で、どんな流れでも渡してくれます」
「へぇー、色んな種族がいるんですね」
ブリオンには居なかったから、興味深い。
ウロがこちらを向き、彼を紹介する。
「この人が向こうまで渡してくれる。いこの辺りで一番の船渡しだ。安心して良いぞ」
「何から何まで、ありがとうございます」
クレイがそう言うと、ウロは「いいや」と首を横に振った。
「私達は礼をしているに過ぎん。君らが、今回の聖戦を突破してくれたからこそ我らはこうしてまだ生きている。君達が必死に戦ってくれたから、今がある。礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう」
深く頭を下げるウロに追従してサイも頭を下げた。
「ありがとうついでに、一つ良いか?」
二人が頭を上げ、にかりと笑う。
「どうかこれからも世界を救ってやってくれ」
その言葉に俺は胸を張った。
「もちろんです」
全員船に乗り込み、後は繋いでいるロープをほどくだけという時に、スクアドが大きな包みを差し出した。
「ほれ、これ持っていけ」
両手で受け取るとズッシリと重たい。
「なんですかこれ」
スクアドがニヤリとする。
「魔力回復薬だ」
「なんだと!?」
少しだけ中を覗き見ると、赤い宝石みたいなのがたくさん入っている。
一つ摘まんで光に翳すと綺麗に煌めいた。
「ほあー…、綺麗…」
「それはニンジンゴを煮詰めて砂糖で固めて飴のようにしたものだ。保存が効くし、これを一粒食べるだけでも結構な量回復できる。彼女には必要だろ?」
スクアドの視線はノクターンへと向けられていた。
残念ながらノクターンはアスティベラードに集中して気が付いていなかったけど。
「ありがとうございます。ちゃんと渡しますね」
ふ、と小さくスクアドは笑みを浮かべてウロの後ろへと下がった。
「また来いよワンド達、いつだって歓迎する」
「お気をつけて」
「無理はするなよ」