パーティーに誘われました
「クレイさん。どーぞどーぞ」
お座りくださいと置いていた荷物を退かして席を開けると、ありがとうと言いながらクレイが席に座った。
ついでに鳥の塩焼きも進めた。
取り皿に取った肉をクレイが頬張り、スッゲー美味いと感想を漏らしていた。
美味い美味いとピリ辛の豆の煮物を食べていると、クレイが、そう言えば、と話し出す。
「冒険者登録は上手くいったのか?」
「お陰さまで」
クレイが新たに注文した肉が運ばれてくる。ジュウジュウと肉汁が滴るスペアリブに、ヨダレが止まらない。
クレイ取り分けられたそれを食べながら、クレイが更に質問してきた。
「お前さん、武器は弓なのか」
「よく見てますね。畳んでいるのに」
椅子の上に置かれた物体は、閉じた弓。
大きさは1/3程になり、パッと見ではただ細長い棒状の物体に見える。
「オレも前は弓を使っていたからな。ちょっとドジって片目やっちまって、武器を盾に変えたんだ」
片方の色がくすんだ方の瞳を指差す。
手元で矢が折れて、矢じりに仕込んでいた何かしらの毒なんかが目に入ってしまったとかなんだろうか。
それなら仕方ないだろうが、ディラは内心「うわぁ」となっていた。絶対に痛いだろうに。
さりげなく話題を変えようと視線を滑らし、先ほどのクレイの言葉を思い出した。
「ていうか、盾だったんすかそれ」
そのガントレットみたいなのが盾だったらしい。
仕込み盾なのかと見ていると、クレイがガントレットを撫でる。
「そうそう。人気のない武器だが、使い勝手はかなり良い」
「へぇ」
ブリオンに純粋な盾職は居なかったからな。盾持ちは基本もう片方に剣や槍を持ってる──とそこまで考えて唐突に割り込んできた先輩の姿。
いや待て、一人いたな。とんでもない化け物が。
確か最後に会ったときはレベル90番台に乗っていた気がする。
芋づる式で様々な化け物が脳裏に浮かび上がっているのを、クレイの言葉が掻き消した。
「そういやパーティーとかは決まっているのか?」
「まだっすね」
まだ目的がドラゴンツアー以外に思い付かない。
「良ければ組まないか?」
とんだ棚ぼたで、思わずフォークを落とし掛けた。
マジで?
「ドラゴンツアー?」
「違ぇわ、なにその恐ろしいツアー」
どうやらこの世界のドラゴンの位置付けは“恐ろしい”になるらしい。
おかしいな。ワクワクすると思うんだけど。
「低レベル者で組んでドクガオオカミ退治に行くんだよ。中にはレベルリセットしたやつも混じっているから色々練習になると思ってな。お前さん登録したてって事はレベル1だろ?分からないことがあったら教えてやるからさ。どうだ?」
「二人で行くんすか?」
「いや、他にも声掛けてる。最大人数八人ってあるからな」
「へえ」
すごい。まさかこんなにもすぐに仲間みたいなのができるとは。
テンションが上がり、ディラは早速了承した。
憧れの異世界生活の第一歩である。
「じゃあよろしくお願いします」
「よっしゃ!じゃあ、明日の朝くらいに噴水前な」
「入ってすぐの広場の?」
「そうそうそう」
噴水っつーか、マーライオンみたいな奴だったけど。
「じゃあ、明日なディラ!それと、敬語しなくて大丈夫だからな!」
そう言ってクレイは机に食べた分のお金を置いて帰っていった。
やっとファンタジーみたいになってきた。
そうだよな。こんな異世界にきて盗賊生活とかやってらんないよな。
「よーし!明日から頑張ろう!」
翌日、クレイに言われた通りの時間に入り口近くの噴水へと向かった。
この世界で初めての仲間はどんなのだろうかとわくわくが止まらない。
途中、急いでいる風の男と肩がぶつかって吹っ飛ばされ掛けたけど、それを差し引いてもいい気分だった。
スキップ混じりに目的の噴水広場へと到着すると、早速ディラはクレイを探し始めた。
「何処にいるんだろう」
朝方の噴水前は思ったよりも人が多かった。
見つかるだろうかと少し不安だったが、目を凝らして端から端まで流し見ると、変わった形のガントレットを着けた緑髪を見つけた。
クレイだ。
すぐさま直行すると、到着する寸前にクレイが気付いて振り反った。
「よ!ディラ!時間通りだな!」
「おはよーございます」
「お前、けっこー律儀だな」
「挨拶は基本って口酸っぱく言われたもんで」
ナッツ村のおばあちゃんに。
元気かなと思いを馳せていると、クレイが「なるほどな」と頷いていた。
ところで、と、ディラは思考の海から帰還して辺りを見回した。
「他の人はまだ来てないんですか?」
「いや、いるぞ」
ほら、と、クレイがある方向を指差す。
「まずあそこにいる二人だ」