たわけ者
本当に二人きりになった。
どうしよう…、なんだか気まずい……。と思いつつ、ウサギの形に切ったリンゴをアスティベラードがたべている間に近くの椅子に腰掛ける。
「何か、言いたいことがあるのではないか?」
「…………その……」
チラリとアスティベラードを見る。なんでか目の奥がジンとしてきた。
一瞬迷い、口を開いた。
「なんで、あんなことしたの…」
「あんなこと、とは?」
アスティベラードが先を促す。
「俺を庇って…、」
思い出されるあの時のこと。飛び散る赤に眩暈がした。
思わず拳に力が入る。
アスティベラードの背中に残った酷い傷痕は、スクアドが言うには生涯残るらしい。
「──、なんであんなことを……」
「ふん」
なんだそんなことかと言いたげに鼻で笑うアスティベラードだけど、俺は今でも思い出す度に怒りで震える。
死んでいたかもしれない、しかも俺が原因で。
「頼むから、もう俺なんかのために、あんな危険なことをしないでくれ!!」
絞り出すようになんとか言い切ると、「ディラ」と、アスティベラードが手招きをした。
なんだと近寄ると、肩を掴まれ引き寄せられた。物凄い力で危うくぶつかるところだった。
「このたわけ者」
「……え?????」
アスティベラードが手を離し、ゆっくりながらも腕組みをして胸を張った。
「ぎゃいのぎゃいの騒ぐでないわ!貴様を庇おうが庇わまいが、そんなのは私の勝手であろう。指図をするでない!」
耳を貫くアスティベラードの喝。
久しぶりの大声に呆気に取られた。
「そもそも、気が付けば体が動いておった」
「そ、そうなの…??」
「ああ」
そしてビシリと人差し指を突きつけられる。
「あと貴様、今聞き捨てならない言葉を抜かしたな?俺なんか、だと??貴様、自らを卑下しおったな!?なんだそれは??それは思いがけず庇った私を愚弄するのか???」
「いいえ違います!!」
思わず敬語になり。ついでに背筋が伸びた。
こんなに怒ったアスティベラードは始めてだ。
「ふん!私とて暗殺は慣れているゆえ、何も対策していなかったわけではない」
ん?暗殺は慣れている???
「きちんとクロイノが盾になってくれよったわ。……が、まさかクロイノごと斬れるものとは想定外でな…」
「……」
盾になることは予定内だった、て事なのか。
思えばクロイノは物体を飲み込むことが出来るから、本来ならノーダメージでやり過ごせた。それが“何故か”できなかった。という感じらしい。
「とすれば、だ。私はクロイノを間に挟んだからこれで済んだが、恐らく貴様は真っ二つだったろう。それをこの被害で済ませられた、ということはだ…」
キラリとアスティベラードの目が光る。
「私に対して言うべき事があろう?」
「…ハッ」
アスティベラードが素晴らしいどや顔を見せる。
そのどや顔に早々に察した俺は深々と頭を下げた。
「助けていただきありがとうございました!!」
「ふむ!そう、それでよいのだ!」
満足げに微笑むアスティベラード。でもこれだけは言っておきたい。
「でもお願いですからこれっきりでお願いします!」
「うむ、気を付けるとしよう。互いにな!」
という感じで気まずい感覚はアスティベラードの喝によって見事に吹っ飛んだのだった。
それはそれとして、アスティベラード以外のみんなで“クソ勇者を見つけ出してぶん殴り隊”は結成済みです。
「ふむ。ちとふらつくが問題はない」
アスティベラードは翌日には歩けるまでに回復し、ご飯もモリモリ食べていた。やっぱりレベルが高いと回復力も上がるっぽい。
一方俺は、街の方へ赴いてまだ復旧作業に当たっていた。俺のスキルのお陰で復旧作業が上がり、埋まったモノを掘り返しては弔っている。
といってもほとんど炭化した何か、だけど。
額の汗を拭いながら世界樹の方向を見る。
こんなのはもう終わりにしないと。
「ただいま」
村に戻ると、クレイとウロが次の行き先を地図を見ながら話し合っていた。
「おお、おかえり」
「何話してるの?」
「安全な道を教えて貰ってるんだ。やっぱり現地を知っている方の意見は良いな」
「ははっ、当たり前だ。とはいえ、ちょっと今までとルートが変わっているから、手直し中だがな」
この数日で仲良くなったらしい。
「みんなは?」
「ノクターンはそこ」
クレイの示す方向を向くと、壁を背もたれにノクターンがスクアドにお下がりの教本を貰って勉強に励んでいた。
「ドルチェット達は広場で、子供達と遊んでる。ジルハはその見守りだ」
「とりあえず、ある程度の道筋は決まったから、明日には出られるぞ。とりあえずはアスティベラードの状態しだいだけど」
「わかった。スクアドに伝えてくる」
アスティベラードが寝かされている部屋に行くと、スクアドが検診をしていた。
「あの、スクアド。アスティベラードはもう動けそうですか?」
「なに?もう出るのか?」
「もし、大丈夫なら、って感じですけど」
ふむ…、とスクアドが少しだけ考えた。
「本当ならもう少し安静にさせたいところだがな」
「もう平気だ。なんの問題ない」
アスティベラードをチラリと見るスクアドが少しだけため息を吐いた。
「まぁ本人もこの通りだし一応は問題はない。ないが、無理は絶対に禁物だがな」
「了解であります!」
一週間程は無理をさせないという条件でスクアドの許可が下りた。
万が一にと俺はスクアドからアスティベラードの後遺症関係の事を聞かされた。
大丈夫かな、俺に託して。
不安だったけど、必死にメモして後でノクターンにも共有させようと決意した。
「出立は朝か?」
「あ、聞いてないです…。聞いてきますか?」
「そうしてくれ。時間があるのなら色々用意しておけるからな」
なんの用意だろう。
気にはなるけど、先にクレイに聞いてくるのが先だと思い部屋を出た。