表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/200

たわけ者


 本当に二人きりになった。

 どうしよう…、なんだか気まずい……。と思いつつ、ウサギの形に切ったリンゴをアスティベラードがたべている間に近くの椅子に腰掛ける。


「何か、言いたいことがあるのではないか?」

「…………その……」


 チラリとアスティベラードを見る。なんでか目の奥がジンとしてきた。

 一瞬迷い、口を開いた。


「なんで、あんなことしたの…」

「あんなこと、とは?」


 アスティベラードが先を促す。


「俺を庇って…、」


 思い出されるあの時のこと。飛び散る赤に眩暈がした。

 思わず拳に力が入る。

 アスティベラードの背中に残った酷い傷痕は、スクアドが言うには生涯残るらしい。


「──、なんであんなことを……」

「ふん」


 なんだそんなことかと言いたげに鼻で笑うアスティベラードだけど、俺は今でも思い出す度に怒りで震える。

 死んでいたかもしれない、しかも俺が原因で。


「頼むから、もう俺なんかのために、あんな危険なことをしないでくれ!!」


 絞り出すようになんとか言い切ると、「ディラ」と、アスティベラードが手招きをした。

 なんだと近寄ると、肩を掴まれ引き寄せられた。物凄い力で危うくぶつかるところだった。


「このたわけ者」

「……え?????」


 アスティベラードが手を離し、ゆっくりながらも腕組みをして胸を張った。


「ぎゃいのぎゃいの騒ぐでないわ!貴様を庇おうが庇わまいが、そんなのは私の勝手であろう。指図をするでない!」


 耳を貫くアスティベラードの(かつ)

 久しぶりの大声に呆気に取られた。


「そもそも、気が付けば体が動いておった」

「そ、そうなの…??」

「ああ」


 そしてビシリと人差し指を突きつけられる。


「あと貴様、今聞き捨てならない言葉を抜かしたな?俺なんか、だと??貴様、自らを卑下しおったな!?なんだそれは??それは思いがけず庇った私を愚弄するのか???」

「いいえ違います!!」


 思わず敬語になり。ついでに背筋が伸びた。

 こんなに怒ったアスティベラードは始めてだ。


「ふん!私とて暗殺は慣れているゆえ、何も対策していなかったわけではない」


 ん?暗殺は慣れている???


「きちんとクロイノが盾になってくれよったわ。……が、まさかクロイノごと斬れるものとは想定外でな…」

「……」


 盾になることは予定内だった、て事なのか。

 思えばクロイノは物体を飲み込むことが出来るから、本来ならノーダメージでやり過ごせた。それが“何故か”できなかった。という感じらしい。


「とすれば、だ。私はクロイノを間に挟んだからこれで済んだが、恐らく貴様は真っ二つだったろう。それをこの被害で済ませられた、ということはだ…」


 キラリとアスティベラードの目が光る。


「私に対して言うべき事があろう?」

「…ハッ」


 アスティベラードが素晴らしいどや顔を見せる。

 そのどや顔に早々に察した俺は深々と頭を下げた。


「助けていただきありがとうございました!!」

「ふむ!そう、それでよいのだ!」


 満足げに微笑むアスティベラード。でもこれだけは言っておきたい。


「でもお願いですからこれっきりでお願いします!」

「うむ、気を付けるとしよう。互いにな!」


 という感じで気まずい感覚はアスティベラードの喝によって見事に吹っ飛んだのだった。

 それはそれとして、アスティベラード以外のみんなで“クソ勇者を見つけ出してぶん殴り隊”は結成済みです。






「ふむ。ちとふらつくが問題はない」


 アスティベラードは翌日には歩けるまでに回復し、ご飯もモリモリ食べていた。やっぱりレベルが高いと回復力も上がるっぽい。


 一方俺は、街の方へ赴いてまだ復旧作業に当たっていた。俺のスキルのお陰で復旧作業が上がり、埋まったモノを掘り返しては弔っている。


 といってもほとんど炭化した何か、だけど。

 額の汗を拭いながら世界樹の方向を見る。

 こんなのはもう終わりにしないと。






「ただいま」


 村に戻ると、クレイとウロが次の行き先を地図を見ながら話し合っていた。


「おお、おかえり」

「何話してるの?」

「安全な道を教えて貰ってるんだ。やっぱり現地を知っている方の意見は良いな」

「ははっ、当たり前だ。とはいえ、ちょっと今までとルートが変わっているから、手直し中だがな」


 この数日で仲良くなったらしい。


「みんなは?」

「ノクターンはそこ」


 クレイの示す方向を向くと、壁を背もたれにノクターンがスクアドにお下がりの教本を貰って勉強に励んでいた。


「ドルチェット達は広場で、子供達と遊んでる。ジルハはその見守りだ」


「とりあえず、ある程度の道筋は決まったから、明日には出られるぞ。とりあえずはアスティベラードの状態しだいだけど」

「わかった。スクアドに伝えてくる」



 アスティベラードが寝かされている部屋に行くと、スクアドが検診をしていた。


「あの、スクアド。アスティベラードはもう動けそうですか?」

「なに?もう出るのか?」

「もし、大丈夫なら、って感じですけど」


 ふむ…、とスクアドが少しだけ考えた。


「本当ならもう少し安静にさせたいところだがな」

「もう平気だ。なんの問題ない」


 アスティベラードをチラリと見るスクアドが少しだけため息を吐いた。


「まぁ本人もこの通りだし一応は問題はない。ないが、無理は絶対に禁物だがな」

「了解であります!」




 一週間程は無理をさせないという条件でスクアドの許可が下りた。

 万が一にと俺はスクアドからアスティベラードの後遺症関係の事を聞かされた。

 大丈夫かな、俺に託して。

 不安だったけど、必死にメモして後でノクターンにも共有させようと決意した。


「出立は朝か?」

「あ、聞いてないです…。聞いてきますか?」

「そうしてくれ。時間があるのなら色々用意しておけるからな」


 なんの用意だろう。

 気にはなるけど、先にクレイに聞いてくるのが先だと思い部屋を出た。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ