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頭が理解してても体が拒絶するやつ

 お風呂から上がり、ケンタウロスに貸してもらった服に着替えて一休みしようと扉を開けたらクレイが起きていた。


「クレイ!もう起きて大丈夫なの!?」


 机一杯に並べられた料理を一心不乱に頬張っていたクレイは、声を掛けたことで、ようやく俺が帰ってきたことに気が付いたようだったようだ。

 勢い良く顔をこちらに向けて嬉しそうにしている。


「ふぉう!ぐっふりねははああな!」


 真面目なクレイにしては珍しくモゴモゴしながら返答してきた。が、あまりにも口に物を含んでいたので何を言っていたのか全く聞き取れなかった。

 仕方がないのでクレイが呑み込むのを待っていると、それを察したクレイは全力で口を動かし、口一杯のものを飲み込んでから再び話し始めた。


「お前こそ大丈夫か?」

「俺?うん、単なる魔力切れだったし」


 はじめての魔力切れでしんどかったけど、終わってみればそれ程でもなかったような気もする。


「いや、じゃなくて腕」


 腕、とクレイが俺の腕を指差した。

 そっちか。そう言えば魔力切れ中はクレイは寝ていたから知らないな。


「あー、これ?ちょっと火傷したけどもう痛くないし、へーきへーき」

「なら良いんだが」


 隣に腰掛けて用意されたご飯を眺める。うまそうだ。

 ふとニンジンゴの盛られていたボウルを見ると、少量残っていた。さすがに食べきれなかったようだ。

 あれ?なんで俺の時はこのニンジンゴだけだったんだろう。

 近くにあったパンのような物を食べてみた。美味い。

 きっと早朝から大変だったから忘れられたのだろう。


「あ」


 そう言えばとクレイに訊ねてみた。


「ジルハは?」

「手伝いに行った。街で何にも出来なかったからとかなんとか言ってたけど」

「えー、気にしなくていいのに」


 人間、得手不得手はあるもんだ。

 特にジルハは狼人間だ。誰も文句を言うまいに。


「ドルチェットは?ドルチェットも手伝い?」

「ドルチェット?まだ見てないぞ」


 あれ?と思った。

 ドルチェットならお風呂上がりですぐにここに来そうなもんだろうに。


「そうなの?早めに上がったのに、どこ行ったんだろう」

「ちなみにノクターンはそこで寝てるから静かにな」

「おっと、りょーかい」


 ようやっとちゃんとしたところで寝られたようで良かった良かった。

 一応ノクターンの顔色を見やると、昼見たときよりも顔色は良くなっていた。きっとニンジンゴジュースを大量に飲まされたに違いない。かわいそうに。


「そういえば勝手に食べちゃってるけど、いいんだよね?」

「おう。此処に出されたのは全部オレ達用らしいから、好きなだけ食べていいってさ」

「やりー」


 それではと、油の滴るお肉に手を伸ばしたのであった。





 ある程度お腹が満たされ、とりあえず目星を付けていた場所へ足を運べば、予想通りにドルチェットがいた。


「ここに居たんだ」

「なんだニンジンか」


 ドルチェットがアクビをしていた。

 やっぱり疲れてそうだ。


「ご飯は食べないの?」

「食べた」

「クレイは見てないってよ」

「外で食べたんだよ」

「ふーん」


 まぁ、食べたのならいいんだ。

 

 いまだに寝ているアスティベラードを見やる。

 呼吸は安定していて、顔色もいい。ただ、背中の包帯が痛々しい。


 ケイケーイと、窓枠からトクルの声がした。


「あれ?ここにいたのか。見張りしてくれてるの?」


 トクルが胸元を膨らませた。この仕草の意味は知っている。得意げ、だ。

 きっとノクターンの代わりに付いていてくれている感じなんだろう。

 トクルが側にいるのなら、アスティベラードが目が覚めたらすぐに知らせてくれるだろう。すごく助かる。


 蹄の音が近付いてきた。

 アクビをしながらスクアドがやって来た。


「こんばんはー」

「おお、元気だなお前」

「お陰さまで」


 大量のニンジンゴ効果はてきめんです。

 そこにドルチェットがゆっくりと立ち上がった。


「アスティベラードの容態はどうなんだ?いいのか?」


 ドルチェットの問いにスクアドは答える。


「うむ、彼女の状態はいい、呪いの効果は明日にはだいぶ薄れるから、大量の回復魔法を掛けてやれば多少濾されたとしても幾分かは浸透して効果が出るだろう」


 ドルチェットがホッと息を付いた。

 呪いが切れるのなら、ようやく俺も役に立つことができそうだ。


「分かりました。じゃあこれ渡しておきます」


 大量の回復の矢を生成して矢の束を渡した。

 これだけあれば完全回復するのは間違いなしだ。

 しかし、ドルチェットの感想は違ったみたいで、「お前矢をパスタ麺みたいにして渡すなよ」と言われた。なぜだ。

 素直に矢の束をスクアドは受け取った。


「ありがたい」


 しばらく矢の束を眺めるスクアドは俺を見て言う。


「ところでこれはどうやって使うんだ?」


 そうだった。使い方を教えなきゃだった。


「簡単ですよ、身体のどっかしらに刺せばオーケーです」

「………刺す?」

「刺す」


 スクアドは再び矢の束を見詰める。

 今回はとても複雑ような表情をしていた。


「治す事が仕事の私が患者に矢を刺して治すとは、これほど訳の分からない行動をすることになるとは」


 そう言われて理解した。

 確かに医者であるスクアドが患者を矢で刺して治すとか訳の分からない事をしていることになる。


「すみません弓職でね」


 でも剣士だって剣で刺して治すからね、そっちのが視覚的にアウトじゃないかとは思う。

 いや、けどよくよく考えればシュールな絵だよな。

 攻撃方法と回復方法が一緒って、開発陣何考えてたんだろう。


「あのーもしダメそうなら俺がやるので」

「いや、せっかくの機会だ。頑張ってみよう」



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