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この後村でパンが流行った

 ケンタウロス達と黙々と作業を続けていると、早馬で駆けていたらしいケンタウロスが戻ってきてサイに何やら報告しているのが見えた。

 ドルチェットが作業を止めてそのケンタウロスに視線を向ける。


「あれって、周辺の街に救援要請するって言ってた奴だよな」

「え、そうなの?」


 俺は知らないと首を横に振ると、あれ?とドルチェットが首を傾げて、ジルハだったかと一人納得していた。


「お前が来る前だったか。戻ってくるの明日くらいって言ってたけど」

「……気のせいかもしれないけど、なんか顔色悪くない?」


 千里眼でそのケンタウロスをズームしてみれば、その顔は青ざめていた。先程のジルハの顔色と良い勝負だ。

 大丈夫かと心配していると、サイが俺達を呼んだ


「なんだろう」

「さぁ?」


 とにもかくにもサイの元へと向かった。


「なんですか?」


 サイがなにやら難しそうな顔をして訊ねてきた。


「君達が戦った相手というのは、もしや火を使う主だったか?」

「え、はい。それがどうしました?」

「実は、隣街へ向かう道中、とんでもないものを見付けたらしくてな」


 とんでもないもの。一体なんだろう。


「端的に言うならば、炎の化け物だ」


 それからサイに聞かされたその“化け物”の話を聞いて驚愕したが、同時にどこかそうだろうなと納得した。

 だけど、実際にソレを見て考えを改めた。


 グラーイを下りて感想を述べた。


「え、キモ」


 はじめはやけにでかくて長い黒い石だと思った。

 しかし、正面に回って、ソレがあまりにも巨大な蛇だということがわかった。

 しかもまだ内部は燃えているらしく、半開きの口からは赤い炎が漏れだし、蛇の近くは恐ろしいほど高温だ。

 その証拠に、こいつが通った箇所は燃えて炭化している。


「危なかったな」と、サイが話し始める。


「もしこれが街に到達していたら」


 サイと同じく目先の街を見やる。


「同じように燃やし尽くされていただろう」


 これが後数キロ進んでいれば、あの街へと到達していた。

 間一髪だったわけだ。


 この蛇の化物、溶岩蛇は一体だけじゃなく、俺達が戦った街から放射線状に複数発見されているらしい。

 幸いにも次の街までは距離があるから被害は少なくて済んでいる。


「全部石になってる感じです?」

「ああ。それも幸いだった。石になっているということは死んでいると同じなんだろう。尻尾の方を叩いたが、びくともしなかった」

「だから陥没してたんだ」


 目撃証言によると、明け方は真っ赤に発熱していたらしい。

 いずれも冷えて黒い石になっているけれど、俺達が倒すのが遅れたら被害が広がっていたようだ。


 今さらになってマーリンガンの言葉を思い出した。


 ──ボスを倒さなければ範囲はどんどん広がる。


 ただ倒せればいいと思っていたけど、考えを改めないといけないかもしれない。


 そこでふと、ドルチェットが変な行動をしているのに気が付いた。


「なにしてんの?」


 ドルチェットが蛇の口を覗き込んでいた。

 いつ火が吹き出すか分からないから怖くないんだろうか。


「いやなんかこれ…、竈門っぽくね?」


 ドルチェットの言葉に、思わず「は?」と言ってしまった。


「え、ん?どういうこと?」

「デザインは醜悪だけどよ、形といい、熱といい、パン焼くのに良い感じじゃねーか」

「えー、……そうかなぁ??」


 確かにドルチェットのいう通り、凄く薄目で見れば竈門に見えないこともないけど、果たしてこんなもので焼いたパンを食べても良いのだろうか。

 そう思っている俺の後ろで、興味深げにサイが話を聞いていることを俺は気が付いていなかったのであった。







 村に戻る頃には真っ暗になってしまっていた。


「うへぇー…ドロッドロォ」

「疲れたぁー」


 慣れない作業でヘトヘトになりながらもようやく村に着いた安堵で盛大にお腹が鳴った。

 思えば俺は果実しか食べてなかったんだった。


「あ」


 グラーイが不満そうな視線を寄越してきた。

 その原因は分かっている。

 俺もドルチェットも泥まみれ煤まみれの状態でグラーイに騎乗しているものだから、同じくグラーイもドロドロに汚れてしまっていたのだった。

 足元だけの汚れは気にしないくせに、背中の汚れは気になるらしい。


「汚してごめんなさい。ちゃんと綺麗にするので許してください」


 ともあれ運んでもらったのだ。素直に謝った。


「先に戻っている連中がお湯を沸かしてくれているはずです。それで清めましょう」


 サイの提案でドルチェットが「やったぜ!」と喜んでいるけど、俺はあることが気になって素直に喜べない。


「でも水は大丈夫ですか?」


 川の水があんなだったから、本当なら節水ものではないのか。


「心配には及びませんよ。うちは元々貯水しておりますし、川の水も戻ってきているみたいです」

「そうなんですか、じゃあ、ありがとうございます」


 お言葉に甘えて指示された場所に向かうと、本当にお湯をドラム缶ほど用意してくれていた。

 貯水って言ったって限度があるんじゃないか。


「自分が先だ。お前はあと!」

「へい」


 公平にじゃんけんをした結果、ドルチェットが先風呂になったので、俺は渡されたお湯で先にグラーイの掃除を始めたのだった。



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