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泥って地味に重いよね


「うわぁ…」


 街に着くと、想像していた通りの地獄のような光景が広がっていた。

 そして確信した。ここは間違いなく昨夜戦った街だった。

 あの時は燃え盛っていたけど、建物の崩壊はそこまでではなかった気がする。

 まぁ、あの後更に激しい攻撃が加えられたから建物の損壊も激しくなったのは仕方がないか。

 荷物持ちのケンタウロスからスコップが渡されて指示を出された。

 俺の仕事はこれで泥を退かして道を作る事らしい。

 えっさほいさとケンタウロスに混じって泥を退かしていると、遠くに瓦礫に座り込んでいる人影を見付けた。


「あ」


 ジルハであった。

 俺はすぐに駆け寄って声を掛けた。


「どうしたの?大丈夫?」


 俺の声に反応してジルハがゆっくりと顔をあげた。

 その顔色はあまりに悪い。真っ青だ。


「……まじで大丈夫?」


 お腹でも壊したのかと思うほどの消耗している様子に本気で心配していると、ジルハが「それが…」と答えた。


「あまりにも酷い匂いなもので…頭が痛くて…」

「…………、あ、そうか君あれだもんね、犬系の獣人」

「狼です……」

「狼か、ごめん」


 どっちにしても嗅覚特化のジルハには地獄の環境なのは変わり無い。

 もちろんジルハもマスクはしている。それでもマスクしている状態でも、きっと普段の俺よりも匂いが分かるだろう。

 いや、もしかしたら鼻を麻痺させる方の匂いでやられている可能性もあるけど。


「戻った方が良いんじゃない?」

「そうしたいんですけどね…、僕ドルチェットの足してるんで…」

「あー…、?」


 脳内でジルハがドルチェットを背負って走っているイメージが再生されたが、それはなんか絵として可笑しいよな。

 もしかしてと思い訊ねてみた。


「あれ?ジルハって獣型になれるの?」


 呪いの時くらいしか見てないけど、もしかして元々獣形態と人形態の二つがあったとか。

 するとジルハは一瞬止まった後に、あ、という顔をした。

 あー、と一瞬だけ考えた素振りを見せてからジルハが答えた。


「…実は聖戦のあと安定して成れるようになりました」

「呪いの恩恵ってあるんだね」


 もしかしてあれでスキルレベルが上がったとか、そういうのかもしれない。

 でもまぁジルハの心配は問題ない。


「大丈夫だよ、俺グラーイと来たし」


 言いながら後ろで勝手に歩き回っているグラーイを示す。

 乗せるの嫌がる俺とドルチェットだけど、今回ばかりは大丈夫だろう。


「ドルチェットと2人乗り出来ると思うし、最悪ドルチェットを飛ばして俺が走れば良いし」


 高速移動スキルはそんなに高くないけど、俺くらいのレベルならまぁまぁ早いし。

 その時、後ろから声が掛けられた。


「どうしましたか?」


 サイの声だった。

 振り返って確認するとやはりサイで、他のケンタウロスと同様に煤だらけ泥まみれの姿だ。

 そんなサイは俺を見るなり少し驚いた顔をしていた。


「おや?ディラさん。もう動いて良いんですか?」

「はい、お陰さまで」

「頑丈なのは良いことです」


 そうはそうなんだけど、頑丈というか、高レベルの恩恵的なものではあるけれども。


「あの、ジルハが結構キツそうなんで先に帰らせて良いですか?」


 サイは俺越しに顔色が死んでいるジルハを見て色々察したようだ。


「むしろ大丈夫なのか心配だったので全然いいですよ。というより動けます?大丈夫です?」


 補佐付けましょうかと提案までされた。

 けれどジルハはその提案をやんわりと断った。


「大丈夫です、匂いが薄まれば治ると思うので」

「そうですか。帰り道は大丈夫そうですか?」

「覚えているので大丈夫です」


「それでは二人をお願いします」と、そう言い残してフラフラとジルハは帰っていった。

 心配だけど、俺達の中で一番確りしているジルハだ。

 大丈夫だろう。


 それにしてもと改めて見回す。

 炭と煤と泥とでぐちゃぐちゃになった光景が広がっている。まるで街一面が水没した後のようだ。

 なんでだろうなと不思議に思ったその瞬間に、脳裏にあのむかつく奴の脳裏で洪水が起きたことを思い出した。


「あー、あれか。あれのせいか」


 ずいぶんな量だったもんな。

 あれのおかげで助かりはしたけど、残された痕跡は厄介すぎた。


「んーーっ、地味にしんどい」


 泥さらいも一段落し、今はケンタウロス達と共に生存者の確認や燃え残りなんかの調査を行っている。

 残念ながら生存者はいなかった。

 むしろあの状態でいれば奇跡に等しい。


「そこ気を付けろ!まだ高温だぞ!」

「うわっ!?」


 踏んだすぐ近くに水蒸気が吹き出した。


「こっわぁ」


 ここらには中途半端に固まった炎岩が転がっているらしい。

 炎岩って、なんだろう。もしかして冷えた溶岩のことか。

 実際、ケンタウロスがスコップでこじ開けた炎岩は中身はどろどろに赤く熔けた液体が詰まっていた。

 危なすぎる。


 気を付けながら、広場の中心までやってくるととおくのほドルチェットがいた。

 なにやら地面を睨み付けている。

 なにをしてるんだ?


「ドルチェットォー!!」


 呼び掛けるとすぐに反応して手を振ってきた。

 ドルチェットの元に行くと変な建築物が並んでいた。

 いや、違う見覚えがある。


「これ、あの野郎が生成した道だ」


 てっきり聖戦が終わったら全て消えるものだと思ってたから、こんなに確りと残っているとは。


「まだ寝てるのかと思ったぜ」


 よっ、とドルチェットが瓦礫を飛び越えてやって来た。


「いやぁー、なんか目が覚めちゃって。あ、ジルハは具合悪いっていって帰したよ」

「あ?あー、しゃーねーか。まさか自分もここまでになってるとは思わなかったからな」


 そう言ってドルチェットが辺りを見回した。

 匂いの話しなのか、光景の話なのかは分からないけど。

 たった一晩の聖戦でこの街は全てが変わってしまったのだ。


「…………聖戦ってなんだろうな」

「!」


 ぽそりと呟いたドルチェットに思わず視線を向けたが、ドルチェットはそれ以上言葉を続けることはなく、静かに歩き始めた。


「行こうぜ。ここにあいつの残した痕跡はなかった」


 ドルチェットのいう“アイツ”とは、きっと昨晩アスティベラードを傷付けたオルトの事だろう。


「残ってたらそれを便りにぶん殴りに行きたかったけどな」

「うん、そうだね」


 今まで命を狙われる事がたくさんあったけど、今回はアスティベラードが大ケガをした。

 とうてい許せることじゃない。


「……、一発で済むかなぁ?」

「誰が一発って言ったよ」

「だよねぇ」



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