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確かに死活問題だ

 誰か道案内か、同行をしてくれる人がいないかを探していると、ちょうど村の出口辺りで色んな道具を纏めているケンタウロスを見つけた。

 作業も終わりそうな様子だ。

 あの人なら話し掛けられそうだと目星を付けて、俺は声を掛けた。


「すいませーん!」

「ん?」


 ケンタウロスが作業の手を止めて振り返る。

 俺を確認した瞬間に驚いた表情をした。


「ワンドか!体はもう大丈夫なのか?」

「ニンジンゴのおかげで良くなりました」

「そりゃよかった」


 ニンジンゴの単語を出した瞬間、一瞬ケンタウロスの顔が酸っぱそうな顔をしていたのを俺は見逃さなかった。

 もしかしたらケンタウロス事態が酸っぱいのが苦手な種族の可能性が出てきたな。

 さて、本題に入ろう。


「あの!俺も連れていってください!火事の様子を見に行くんですよね!」


 するとケンタウロスは何やら考えてから答えた。


「そりゃあいいが、言っとくが背負ってやれねぇぞ。持ってく荷物が多いからな」


 言いながら纏めてあるスコップやらよくわからない道具を指差した。

 もしや俺がケンタウロスの背中に乗っかって同行するとでも思われたんだろうか。

 それなら問題ない。何故なら俺も“足”は持っているのだ。


「大丈夫です!ちゃんと付いていけます!!」




 村の中を勝手気ままに放浪していたグラーイを捕獲して説得し、納得してくれたグラーイに乗って全力疾走するケンタウロス達に付いていく。

 最近こうやって全力で走らせることが出来なかったからか、心なしかグラーイが喜んでいるような気配がする。

 たまには走らせないと可哀想だなと反省した。


 ケンタウロスの健脚に余裕で着いてくるグラーイに荷物持ちのケンタウロスが感心したように言う。


「なんだその馬、結構イケる脚だな」

「ありがとうございます!!!!」


 正直乗せてくれるか分からなかったけど頼んでみるものだ。

 前乗ろうとしたときに嫌という感情を向けられたから避けてたけど、良かった。

 それにしてもこんなにも乗り心地が良くないとは思わなかった。お尻が痛いから体を浮かせているんだけど、足がパンパンになりそうでしんどい。

 まぁそれはそれとして、グラーイは本当に早かった。

 実際、思った以上に早く街らしきものが地平線の方に確認できた程だ。


「う…っ」


 風に乗って悪臭が漂ってきて、俺は思わず顔をしかめてしまった。

 なんの匂いかなんて考えなくたってわかる。

 色んなものが焼け焦げた匂いだ。

 それが街が近くなるに連れてどんどん強くなってきていた。

 もうすぐ川に着くというので前方に注意していれば、何やら困惑の声が上がった。


「なんだぁ!?」

「どういうことだ!?」


 前方でケンタウロス達の驚いた声が聞こえる。

 なんだろうとぶれまくる視界の中前方を見ると、地面が無くなっていた。

 いや違う、地面がひび割れたような崖になっていた。

 こんな崖あったかなと思っていると、ケンタウロス達が困惑している声が聞こえてきた。


「なんで水が枯れてるんだ」

「今の時期は増水の時期だろ?」

「昨日までは川だった。意味が分からん」


 結構大混乱しているらしい。


「どうしたんですか?」


 訊ねると、ケンタウロス達は困惑の表情を浮かべたまま答えてくれた。


「川の水が消えてるんだ」

「そりゃもうもうすっかりと!」

「へー。……、…あっ!」


 そうなんだーと呑気に考え、思い出した。

 確かにここは川だった。確かケンタウロス達と遭遇したのはこの川の側だ。

 思い返して改めて見回すと、見覚えのある景色だ。

 唯一違うのは川が谷になっているだけ。

 谷を見下ろせば、そこの方に川だった痕跡のようにチョロチョロと少量の水が小川を作っていた。


「川って、水がなくなると谷になるんだ…」


 なんか変な感じだ。

 そんな感じで谷の観察をしている俺の後ろで、ケンタウロス達が意味がわからない、水はどこ行ったんだ、と相変わらず議論を繰り広げていた。

 遂には「魚が獲れん!!!」の叫びでようやくケンタウロス達にとっては重大事件ということが理解できた。

 とはいえ無いものは無い。

 せっかく川を渡る用だった組立式小舟も使用できなくなってしまった。

 さて、どうやって渡れば良いのか。


 その時、遠くから声が聞こえてきた。

「おーい!」と今度は明確に声が聞こえたのでん?とそちらに目をやると、遠くから一緒に来たのではないケンタウロスがやって来ていた。

 なんだかやたらと煤だらけになっているケンタウロスだった。


「お前達!向こうの橋は無事だ!そこなら渡れるぞ!」


 煤ケンタウロスの登場で川の問題は一旦無かったことにされた。

 そして彼の案内のもと、無事に向こう岸まで繋がっている橋を渡る。

 その最中、他の橋の状態を訊ねると、どうやら急激な水圧の変化で一部破損とかヒビとか、とにかく危ない状態になっているらしい。

 環境の変化が凄まじい魔界って怖いな。




 橋を渡り対岸に付いた瞬間に空気がさらに変わった。

 焼け焦げた匂いどころじゃない。とにかく酷い悪臭が押し寄せてきたのだ。


「ワンド、これで鼻と口を覆っていろ」


 荷物持ちのケンタウロスから布を差し出された。


「多少はマシなる」

「ありがとうございます」


 渡された布を教えられた通りに装着した。

 簡単なマスクだが、布には香油でも染み込ませたのか強烈なハッカの匂いで鼻が麻痺しそうだ。

 すると、察したケンタウロスが笑いながら教えてくれた。


「ハッカの匂いで鼻がバカになるが、その代わり吐き気などを押さえてくれる。だから安心して動き回れるぞ」


 嫌な警告が入った。

 もしかしてこの先更に酷いのだろうか。


「うわっ!」


 突然地面がぬかるみ出した。

 雨が降った形跡はないのに広範囲に渡って泥の地面が続いていた。

 しかもそれは目指している街に近くなればなるほど酷くなっていき、それにともない不思議な黒い物体が増えてきた。

 なんだろうと思いながら眺めていて、ふと、今の光景を見たことがあるのに気が付いた。


「……あ」


 慌ててグラーイから降りた。


「どうしたワンド」

「ちょっと……」


 黒い物体の付き出した部分に触れると、触った箇所はあっという間に崩れて泥に混ざってしまった。

 掌に付着した黒い炭も、風で飛んでいく。


「…………」


 湿気った地面に触れているのに乾燥しているなんて──


「…助けられなくてごめん」


 誰に言うでもなく呟いた。どうすることも出来なかったと分かってはいるけど、やっぱり罪悪感に苛まれる。

 グラーイに再び騎乗すると、待っててくれた荷物持ちのケンタウロスに心配された。


「大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「体が痛むならちゃんと言えよ。先行隊はもう行ったから、俺達はお前の速度に合わせてやれるから」


 彼のいう通り、数名残してみんな先に街へ向かったらしい。


「いえ、問題ないです。ありがとうございます」


 まずはやれることをやらないとな。


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