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実はニンジンゴは高級食材の一つ

 深い眠りから浮上していくのを感じる。なんだか結構な物音がしたような気もするけど起き上がれずに寝ていれば、ちゃんと目が覚めると昼になっていた。窓の外から差す光が強い。

 戦いと魔力贈与の疲れからか、思い他ぐっすり寝ていたようだ。


「体が重ォー…」


 まるで酷い風邪を引いた後のように体がダル重い。

 そしてなんだか頭も少し痛い。けれどこの症状は知っている。知っているというか、聞いたことがある。魔力が枯渇した時の症状は酷い倦怠感と頭痛なのだとノクターンから教わった。

 それら全てに当てはまっているから魔力欠乏に間違いない。

 昨日は疲れすぎていてよくわからなかったけど、寝て起きたらこれだもんな。

 魔力は休むと治るとか言っていた割には全然そんなことはないように思う。

 体が辛すぎて全く動く気になれないけど、起きた瞬間から鳴り続ける腹と空腹感が凄い。

 ついでに喉も乾いているし、腕も痛い。


「ん”ー……、起きたくないけど寝れもしないィー……」


 眠いけどお腹が空きすぎて眠れもしない。モゾモゾと動いて駄々をこね、諦めて起き上がった。

 辺りを見回すとシンとしている。


「……んー。いない…か」


 てっきり誰か居るもんかと思ったけど誰もいないようだ。

 ノクターンすらいない。まだ起きてないのか。

 本当に居ないのかとクレイの寝床をもう一度覗き込んで訂正する。


「…いや、クレイはいる」


 まだ寝ているらしい。あまりにもくるまりすぎて藁に埋もれて見えなかっただけだった。


「ふぁぁ、お腹減ったぁー…」


 何か食べるものを貰えるか聞きに行こうと振り返り、予想外の光景に固まった。


 机の上に山になったニンジンゴが鎮座していたのだ。

 ボウルという名のバケツに昔話のお米よろしく山と積み上げられているニンジンゴの威圧感は凄まじく、いじめなのかと疑うが、その実完全善意である地獄の光景を眺めながら感想をこぼした。


「……逆に怖いなこれ」


 その裏にはすりおろしジャガイモもあった。最初はマッシュポテトと思っていたのだが、どう見ても生である。


「さすがに生はちょっと…。ん?」


 横に手紙らしきものがあった。

 火傷薬布浸して貼れ、と書いてある。


「なんでわかったんだ」


 グローブしていたから見えなかったはずなのに。

 お湯のなか流されている最中に熱された何かに接触したみたいで腕の内側を火傷していたらしい。

 あの時は戦闘の興奮で痛みはなかったし、その後もアスティベラードの事とかあって忘れていたのだ。

 袖を捲ってズキズキ痛む腕を確認すると案の定な状態になっていた。


「うわー水ぶくれになってる」


 しかも結構な範囲に及んでいる。


「あれ、反対側もだ」


 気づかない内にあちこち火傷していたらしい。

 何故本人も気が付いていないのにケンタウロス達は気付いていたんだろう。

 昨夜のウロとスクアドの医者の姿が脳内再生された。


「これが噂の医者の勘…ってやつ?」


 ドラマとか漫画で見かけるこれを体験するとは思わなくて軽く感動したが、気付いた瞬間に物凄く痛くなってきた。

 やばい。痛い。


「えーと、ジャガイモをどうするんだろ?」


 とりあえず説明書き通りにジャガイモの液を浸した布を宛がって包帯で巻いたけと、本当にこれで良いんだろうか。

 火傷ならアロエと聞いたことあるけど、本当にジャガイモで良いのか?

 不安に駆られていると、そんなことどうでも良いというようにお腹が鳴った。


「食べるかぁ」


 頭も痛いし。さっさと魔力を元に戻そう。



 盛りに盛られたニンジンゴを黙々と食べる。

 食感がモキュプニッショリプチとバリエーションがあるからそれを楽しみながら食べ続けると、少しずつ体が楽になっていくのを感じる。

 これジュースにして保存できないかな。

 そうしたらノクターンの負担を軽減してあげられるのに。


「それにしても全然起きないな」


 食べながらクレイの様子をうかがうと、額に知らない野菜が乗せられていた。なんだこれ。

 瓜みたいな形状で、内側がコーヒーゼリーのようななぞ野菜は、触るとプリンとしており、冷たい。

 冷えピタ的な感じなのかもしれない。


「魔界って知らない野菜ばっかりだな」


 このニンジンゴしかり。本当に面白い。



 無心でニンジンゴを食べ続けていると、頭の痛みも怠さも消えてきた。

 ニンジンゴ様様である。


 起きたらクレイも食べるだろうからと半分残して寝床の近くに机を移動させておいた。


「さて、アスティベラードの様子を見に行こう」







 アスティベラードはまだ意識が戻っていない。だけど、呼吸は穏やかで、顔色も良くなっていた。

 そしてその横に設置された寝具で寝ているノクターン。

 俺はスクアドに訊ねた。


「移動させるって言ってた話は?」

「熟睡しているのに手を離さなかったからな」


 見てみれば、確かにがっしりと手を繋いでいる。


「それに彼女は寝ていてなお魔力を流している。大した人間だよ」


 なるほど、それなら離したらダメだろう。

 とはいえノクターンの顔色が悪くて心配になる。


「ノクターンも魔力欠乏とか大丈夫なんですかね?」

「案ずるな。起きたらすぐにニンジンゴの砂糖煮を飲ませる」

「ノクターンもニンジンゴ攻めにあうのか」


 可哀想に。

 というかジュースにできるのか。それは朗報。

 いや何故俺はそのままで出されたんだ。


「ところでお前自身の体調はどうだ?腕はちゃんと処置しているみたいだが」

「すっかりいいです」


 むしろニンジンゴ食べすぎてお腹がパンパンになって苦しいくらいだ。


「そうか、良かった」

「ところでウロさんは?」

「族長なら寝ているな。さすがに疲れたらしい」


 そりゃそうだと納得した。

 手術は凄い集中力がいると聞いたことがあるから、その分疲労も凄いんだろう。


「それにしても、あんだけ大出血していたわりには意外だった」


 スクアドが意味深な発言をした。


「どういう意味ですか?」

「幸い出血は多かったが、内蔵は全て無事だった。まぁ、不幸中の幸いだがな。ただ傷跡は残るだろう。魔法で修復する訳じゃないから。可哀想だがな」


 胸の奥がきゅっとする。

 どうにかして傷跡を消すことは出来ないのだろうか。

 そういう魔法具とか探してみよう。もしかしたらあるかもしれない。


「それはそうと、朝からなんだか外が騒がしいんだ。お前さん、元気なら見てくるのはどうだ?」

「確かに」


 寝ているとき、やたら物音がしていた気がする。


 促されたので改めて村の様子を見ると、確かに慌ただしいように思う。主に大人達があれこれと指示を飛ばしていた。

 一体どうしたんだろうか。


 話し掛けられるタイミングを窺っていると、子供ケンタウロス三人が「ワンドー!!!」と大声で呼びながらやって来た。


「ワンド!!遅かったね!なんで今日はジャガイモの匂いするの?」

「なんで?なんでー?」


 驚いた。


「そんなに分かるもん?」

「わかるよ!」

「わかった!ワンド火傷したんでしょ?僕も火傷したときにジャガイモ貼られたよ!」

「へー」


 どうやらこれはケンタウロスの民間療法の一つらしい。

 それにしてもケンタウロスって結構鼻が利くんだな。馬ってそんなに鼻が良いイメージ無いけど。

 もしかして火傷の匂いとかも嗅ぎ取っていたのかもしれない。


「あとニンジンゴの匂いするー!」

「酸っぱい!」

「ねー、酸っぱいねー!」


 きゅっと口をすぼめていた。


「そんなに酸っぱいかな?」

「すっぱーい!」


 もしかしてニンジンゴは自分達で言うところの梅干しみたいな立ち位置なんだろうか。俺は全然平気だけど、功太は酸っぱいの苦手とか、そんな感じ。

 ああ、そうだ忘れていた。


「ところでさ、俺の仲間見なかった?銀色の髪の女の子と、黄色の髪の男の子」

「いたよ!」


 良かった。目撃者がいた。


「何処にいる?」

「わかんない」

「大人達と一緒に出てったからね」

「え、なんで?」


 予想外の返答に驚いた。


「風が火事の後の匂いしてたから見に行くって言ってた」

「朝から臭かったもんね」


 脳裏に昨日の聖戦の舞台となった街の光景が浮かんだ。そしてその前に見た地平線に発生した謎の光。

 もし、あの光と聖戦が繋がるのなら──


「それって、どっちの方向!?」


 子供達は「あっちー」と指差した。

 その方向は、昨夜見た謎の光が発生した方向と同じであった。









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