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ろくに使ってない魔力が役に立ちました

「アスティベラード!!!」


 倒れこんできたアスティベラードを受け止める。

 背中が血だらけで、傷がどうなっているのかは確認できないけど、目の前にいるオルトの持った血濡れの鎌を見ればどれ程の傷なのかは明らかだった。

 オルトは血濡れのアスティベラードと俺を見下ろしながら舌打ちをした。


「等価交換でこっそり近付けたってのに…。女め、邪魔しよって。つか、どっから現れたんだ」

「てめぇ!!!」


 思わず反撃しようとした瞬間、景色が元に戻った。

 くそっ、せめて一発殴ってやりたかった。と思うが、今はそれよりもアスティベラードの手当てをしないといけない。

 手のひらに感じる熱が、腕に伝わる液体の感触が悠長にしていられないことを物語っている。

 すぐさまアスティベラードを抱えて宴会していた場所へ戻ると、血塗れの俺達の姿を見て周りのケンタウロス達がどよめいた。

 

「ぞくちょーーーーー!!!こっちも怪我人だァァァーーー!!!」とのサイの大声が聞こえる。


「ディラ!!アスティベラード!!」

「大丈夫ですか!?」


 ドルチェットとジルハがやって来てアスティベラードを見るなり、ドルチェットはありったけの布と酒瓶を集め始めた。

 ジルハが俺の目を見て話し掛ける。


「ディラさん、落ち着いて、ゆっくりアスティベラードさんを下ろしてください。背中を横にして、ゆっくりと」


 ジルハの言われた通りアスティベラードを下ろす。

 手が滑りそうになりながらもなんとか下ろし終え、そこで初めてアスティベラードの状態が分かった。

 背中が袈裟斬りされており、そこから止めどなく血が溢れだしていた。


「アスティベラード…ッ!!」


悲鳴のような声でアスティベラードの名を呼びながら、ノクターンが見たことの無い顔で駆け寄る。


「ああ…っ!!アスティベラード!!どうしましょう…、わたし…」


 血で汚れるのも構わずに震える手でアスティベラードの体に触れ、青ざめた顔で血を止めるにはとブツブツ言いながら回復魔法の詠唱を始めた。

 そこにドルチェットが布と水を抱えて戻ってきた。


「ちょっと退け!」


 ドルチェットが水筒を開けてアスティベラードの傷を水で洗い流す。傷口が露になったのを見て、俺は首をかしげた。

 いつもならノクターンの魔法で血が止まる頃だけど、何故だか血が全く止まっておらず、水を赤く染め上げていた。

 魔力が足りないのかわからないが、どちらにしても血を止めなければとスキルで回復の矢を生成してアスティベラードにあてがった。


「なんで…」


 いつもならすぐに治るはずの傷は治る気配はなく、流れ出る血は止まらない。

 スキルは魔力とか関係がないから回復の矢は効いているはずだ、ノクターンもさっきから治療の魔法を使っているのに、なんで止まらないんだ。


「ウロ!はやくこっちだ!!」


サイに連れられた族長ウロがアスティベラードを見るなり顔色を変えた。


「これはいけない!早く処置の準備を!アスクドを呼んでこい!向こうはアレドが担当しろ!!こっちが最優先だ!!」


 バタバタとケンタウロス達が慌ただしく動き、しばらくして小柄のケンタウロスが引き摺られるようにして連れてこられた。

 寝起きなのか髪がぐちゃぐちゃでとても不機嫌な顔だったが、こちらを見るなり様子が一変。

 すぐさま駆け寄るとアスティベラードを見て「呪を掛けられている」と言った。

 呪って、一体なんで…。


 スクアドが俺の顔を覗き込んできた。


「君、おい、君。大丈夫か??」

「…は、はい…」


 なんとか答えられはしたけれど、頭が真っ白でうまく考えられない。

どうしよう。俺が油断したせいだ…。血が全然止まらないままアスティベラードがこのまま死んじゃったら──


「おい!人間、息を吸え。この人間を助けるのには君達の協力が必要なんだぞ!」

「俺たちの…?」

「そうだ。だからしっかりしろ、助けたくないのか?」

「助けたい…」


 アスティベラードが助かるのならなんでもする。

 同じく激を入れられたノクターンも「助けてください!!お願い致します…っ!」と普段考えられない声量でまっすぐにスクアドに向かって助けを求めていた。


俺とノクターンの返事に、スクアドがよし、と頷く。


「必ず助ける。他のものは外へ。みんな、いつものものを用意してくれ。それと、そこの患者は後は薬投与だけだ。静かな場所で寝かせてやってくれ」


 患者?と、スクアドの視線を辿ると、部屋から運び出されていくクレイが見えた。


「クレイ…!?あ、あの!クレイは大丈夫ですか!?」

「ん?ああ。彼もちょっと危なかったけど、もう大丈夫だ。まずはこっちに集中してくれ」

「……わかりました」


 俺とノクターン以外は出された部屋の中に、真っ白な布が張り巡らされた。

 そして、効いたこともない魔法を施される。ユクラゥ・ラクーミーンという始めて聞いた魔法名だ。なんの効果なのか訊くと、殺菌消毒の魔法らしい。


 そうだな。俺達ドロドロだったもんな。


 まだ顔色は悪いけど、何とか立て直したノクターンも杖を握り締めて指示を待つ。

 改めて服を整え髪を纏めたスクアドが、アスティベラードを用意された折り畳み式の寝台にうつ伏せで乗せると、蹄の音が近付いてきた。


「待たせたな。こっちも準備が出来た」


 布を捲って現れたのは、同じく身を整えたウロだった。

運んできた移動式の机には、手術に使うような変わった形の器具が並べられていた。


「さて、準備は整った。君たちは常にこの子の手を握って魔力を流し続けてくれ、あとくれぐれも途中で失神なんかしないでくれよ。魔力の補充をしっかりしておかないと後の回復が上手くいかずに後遺症も残る可能性もあるからな」

「はい」

「わかりました…っ」


 アスティベラードの口に何かの液体が浸された布を当てられると、苦しそうだったアスティベラードの表情がわずかに和らいだ。


「さて、助けるぞ」


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