この世界を知りましょう
「そろそろ泊まるところ探そうかな。別に野宿でも良いけど」
虫がめんどくさい。
野宿するなら虫除けの薬を買っておかなきゃいけない事を思い出した。
リアルだとこういう所が不便だよ。
まさか火を焚いても炊かなくても大型の虫が来るなんて思わない。
きっとマーリンガンの魔法具が無かったら寝不足だっただろう。
「やっぱり宿取ろう。ついでに仲間とか、どうやって集めようかな」
クエスト発注にしても、そもそもの目的がない。
今の一番やりたいことリストを脳内検索すると、とあるものがヒットした。
「……ドラゴンツアー?」
集まるかな?
日本人ならば集まってきそうなドラゴン関係であるけれど、この世界の人たちにとってドラゴンがどういう位置付けなのか解らないから今は止めておくことにした。
なんの問題もなく宿が取れた。
グレードが低いから木で作られた寝台しか無いけれど、ずっと地面で寝てたから全然問題ない。
寝台に腰掛けて、ディラは早速登録証を掴んでステータス画面を開いてみた。
久しぶりに見たレベル1の文字になんだか変な気持ちになる。
「懐かしいなぁ」
そういえばスキルとかどうなっているんだろうとそっちも見てみたけど、何も表記されてなかった。
もしや使って確認が取れてないから出てないだけなのか。
武器の欄を開くと、名前の登録が出来るところがあったので、早速『エクスカリバー』と書き込んでおいた。
「道具の欄とか、体力とか、魔力なんかのゲージはないのか…。ステータスもまだ何の表記もないし…。なんか本当に初期っぽい」
当たり前なんだけど。
「さて、そろそろ図書館にいくか!日が暮れる前にちゃちゃっと終わらせちゃおう!」
ということで図書館に来た。
またかという顔をされたが、さっきと違って登録証を見せたら入れてくれた。
登録証ばんざい。
パラパラとページを捲り、閉じる。
「……なるほど……」
なんとなく感付いてはいたけど、やっぱりここはブリテニアスオンラインではありませんでした。
似ている所が要所要所であるのが気になるけれど、偶然の一致だと思うことにした。
この世界は、一言で言えば丸かった。
地球が丸いとか、そういうわけではなく、ガチで丸い。
クレーターのような巨大な壁に覆われた内部がいわゆる人間の生活圏で、それ以外は雪と氷に閉ざされた死の世界。
草一本無く、一年中猛吹雪なのだとか。
一方クレーター内部へと目を向けると、そこは様々な生命に溢れている。
クレーター内部の構造はこうだ。
まず、円形の山脈が内側を三つの地域に分けていた。
今居るのが外縁域の、通称人間界と呼称された場所。
別に内側にも人間は居るけれど、ここは圧倒的に人間の割合が高いからそう呼ばれているらしい。
そこから内側に目を向けると、山脈の向こうは魔界と呼ばれる地域となる。
人間は居るけれど、人間よりも圧倒的に他種族が多いから魔界と呼ばれており、その名の通りに環境も結構過酷で、魔物もどんどん強くなる。
そして一番内部の山脈の向こうは聖域と呼ばれる地域。
聖域以外にも他の呼び方はあるけど、呼び名の由来はこの世界での宗教の要である世界樹があるから。
全く想像できないけれど、天にまで届くすごい巨木があるらしい。
これもブリオンには無かったので見てみたい。
残りは人間種以外の他種族の情報だけど、あんまり面白味はなかった。
唯一興奮したのがドラゴンの国があるってことくらい。
本を閉じて立ち上がった。
「お勉強おーわり」
最低限の知識さえあれば後はなんとかなるだろうと、本を元の場所に戻すと図書館を出た。
町は赤く染まっていて、もう夕方になっていたらしい。
お腹が鳴る。
「さすがにお腹すいたな。何か食べよう」
屋台も気になるけれど、せっかく異世界に来たんだから、異世界テンプレらしく定番の飲み屋へと直行した。
「あ、キノコの人」
「キノコ連れてないね。逃げたのかな」
キノコリアンのおかげで俺の名前がキノコの人になっていた。
やっぱり連れて歩くんじゃなかった。
つれ歩くのはお前だけにしておくよ。エクスカリバー。
なんとなくブラブラ歩き、目に入った飲み屋に入ると、そこは想像したよりも思ったよりも薄暗くて驚いたけど、電気がないんじゃ仕方ないわなと納得して、空いた席へと座る。
見渡すとほとんどが町の人で、冒険者らしき姿があまり無い。
この世界ではパーティーの募集は酒場ではやらないのかとちょっとだけ落ち込んだ。
現実は世知辛い。
とにもかくにもやってきた店員さんに注文をお願いした。
「鳥の塩焼きと、水と、あとどうしよう。あ、豆の煮物を」
先に運ばれてきた水をチビチビ飲みながら待つ。
しばらくして出来上がった順からテーブルに次々に食事が運ばれた。
「普通に美味そう」
頂きますと手を合わせてから、早速目についた鳥の塩焼きから手を着けた。
肉美味い。キャベツが何故か酸っぱいけどこれも美味い。
美味い美味いと食べていると人の気配がして顔をあげると、見覚えのある髪色。
「ここ良いか?」
そこにいたのはクレイだった。