相手にしてみたら弾幕音ゲー状態
ドルチェットと功太がアドラファレルへ猛攻を仕掛けていく。
俺の矢と違い、攻撃範囲も攻撃速度も桁違いの二人はまるで竜巻のようで、早さだけでなく威力も折り紙つきの二人の攻撃によって、思った通り外装は張りぼてで容易く抉れていった。
しかし、容易く抉れる代わりに水で固めても流体なので他からすぐに這い上がって塞いでくる。
あの瞬間再生よりは遅いけど、時間がたてば元に戻ってしまう。
それに───
功太の剣が突然下から現れた溶岩の壁によって阻まれた。
結構な厚みのある壁は容易に刃を通してくれないばかりか、止まったところを狙うように溶岩の雫を飛ばしてくる。
そのせいで攻撃回数が減ってしまい、アドラファレルの再生が進んでしまっていた。
俺も射ち込みつつアドラファレルを観察した。
確かに防御力は高いけれど、動きが遅い。自動的に防御しているのではなく、明らかにアドラファレル自信が操っているんだろう。的確な防御が出来ているが、その代わりフェイントや同時攻撃に弱いように見える。
「功太!!クイック、ダブルだ!!」
「わかった!!」
ブリオンでは目を離すと即死する戦闘中に素早く意志疎通をしなければならない。
だからこの二単語だけでも功太は即座に理解し、攻撃方法を切り替えた。
俺もすぐに【動作加速】スキルを発動して駆け出しながらノクターンへと指示を飛ばした。
「ノクターン!!あいつに遅くなる魔法か、俺達に早くなる魔法を掛けて!!」
ノクターンはすぐに魔法を発動した。
しかし遅くなる魔法は不発、その代わりに俺達が早くなる魔法が発動した。
更に早く、同時に攻撃することによって壁の妨害を潜り抜ける作戦だ。
溶岩の壁が呼応するように速度を上げたが、ただ速度を上げただけじゃあ俺達の動きに付いていけない。
こちとら三桁以上協力プレイしているんだ。
「こっちだノロマ!!」
そんな俺達の動きにドルチェットはなんなく対応し、しかもあっという間に功太との連携をものにしはじめた。
前から思っていたけど、ドルチェットって戦闘面での天才だな。
アドラファレルも複数壁を立ち上げ始めたが、それを上回る速度で攻撃しているからか、補強が追い付かなくなって本体らしき色が出てきている箇所が増えてきた。
だけど楽観視は出来ない。何せその間にも目玉が破裂しているのだ。口を形成する余裕もないようで無言で爆発させているけど、こっちに被害はない。
クレイが本当に全部引き受けている。
それでも少しでも負担を押さえるためにジルハとルカが俺達の隙間をぬって目玉を破壊してくれている。
アスティベラードとクロイノのおかげで影から影へ移動ができる二人は本当の忍者みたいだった。
こんなにも混戦状態なのにフレンドファイヤーがない。
あっという間に残機という名の目玉が無くなったが、アドラファレルはすぐに補填するだろう。
そう思った瞬間に、アドラファレルの足元から溶岩の雫が飛び出してきた。
待ってましたとばかりに雫が飛び出してきた瞬間に【複数同時捕捉】スキルと【同時射出・大】で穿つ。
目玉になる前に破壊すればクレイの助けになる。
「うっしゃああ!!」
遂にドルチェットの大剣が薄くなった溶岩の外側を潜り抜けてアドラファレルの本体にヒビをいれた。ずっと固くて削れ切れなかった箇所だ。
そこへジルハとルカの攻撃がヒビに突き刺さり、本体に大きなヒビが入る。
明らかに脆くなっている。
畳み掛けるなら今!!
ノクターンから攻撃補佐の魔法が飛んできた。この状況なら一か八かを試してみる価値はあるのではないか?
攻撃力強化のスキルを全掛けした。
改めて千里眼で核の場所を確認する。やっぱり見えないけど、微かな気配のある。
「せりゃあああ!!」
アドラファレルの目に向かって射る。
轟音を立てて放たれた矢は、アドラファレルの見開かれた空洞の瞳に突き刺さる寸前に見えない壁に阻まれた。
矢は壁に阻まれながらも直進しようとしている。
間違いない。絶対にあの中に核はある。
「ビン、ゴォォォーーーー!!!」
すかさず放った矢が、壁に阻まれていた矢の矢筈へと突き刺さり、篦(※矢の棒部分)を弾き飛ばして見えない壁を突破した。
バァンッと破裂音を立てて壁が弾け飛んだ。
矢が核にぶつかったが、威力が足りなくて弾かれてしまった。
けれど、すぐに追撃すればいい話だと矢をつがえた瞬間、アドラファレルが悲鳴のような咆哮を放った。
地面の氷がカタカタと震える。
それがどんどんと大きくなり、同時に四方八方から地響きがやってくる。それと同時に地平線に広がる赤い色が大きくなってきている。
なんだ?
千里眼が、音のする方から大量の何か接近してくるのを感知した。
なんだか嫌な予感がする。
「朝陽!!!」
近くで重いものが落ちて転がってくる音と同時に功太の悲鳴のような声が俺を呼んだ。
「!」
チリ、とアドラファレルの方から変な音がして振り替える。
青い光の玉が視界いっぱいに広がっていた。
「……、あ、やば──」
恐れていた青ビームが炸裂した。
あ、これは死んだなと何故か冷静に思った。
しかし、ビームが俺を消し飛ばすことはなかった。
当たる直前にクレイの盾が斜めに出現し、ビームが盾を削りつつヒビを入れながらも滑って後ろへと流されたのだ。
ビームの発動時間は短かったけどクレイの盾上半分がビームの形に焼失していて、しかも全体にヒビが生じている。
「クレイ!」
「クレイさん…!」
クレイを見るとこちらに手を伸ばしながらも膝を吐いてしまっている。
「クレ───」
名前を言い切る前に轟音の正体が現れた。
4体の燃え盛る巨大な鉄の塊だった。
まるで汽笛のような爆音を発しながらやってきた鉄の塊は、最初に見た子供が閉じ込められているあの人形の集合体だった。
「嘘だろ…」
ドルチェットすら絶望のような感想を漏らす。
それらの炎が一段と燃え盛り、空へと集まっていく。
ちょうどアドラファレルの真上にまるでマグマの球体、いや、太陽のようなものが形成された。
「まさか…」
にひ、とアドラファレルが笑みを浮かべた。
太陽が落ちてくる。
こんなにもまだ距離があるのに放たれる熱が容赦なく肌を焼いていく。
こんなの直で食らったら助かるわけがない。
どうする?どう対処すれば──
「『換金』だ。姿を変えよ」
その時、知らない声が響き渡った。