空飛ぶ鮫という映画なかった?
燃える魚の襲撃を迎え撃ちながら、アドラファレルも空中をイルカのように泳ぎながら口から火炎放射機のような炎を放射してきた。
「またきたぞ!!!」
幸いにもクレイの盾のおかげで誰も丸焼けにはされていないけれど、小回りの利く炎の魚はすり抜けてくる。
矢で魚を射ながらアドラファレルを観察し、ようやく宙を泳ぐ仕組みが判明した。
ずっとなんであんな動きが出来るのか疑問だったけど、俺の上を通過した時にアドラファレルの尻尾が馬ではなくイルカのようになっている。
こういうタイプは知っている。
限られた空間を支配空間と設定し、その中での場合のみ水中を泳ぐように空中を泳いでいるモンスターを見たことがある。
邪見持ちで配下もいて支配空間もあるなんて、属性盛りすぎではないか?
いや別にいても良いけどね、居たし。でもそれはゲームの中だけにして欲しい。
「あーもう!!キリがねぇ!!」
いつものごとくドルチェットがキレている声が響いてくる。
ジルハが淡々と処理をしている横で、ドルチェットが大剣を野球バットのように振り回していた。
結構な速度で魚を処理しているのだけど、いくら切っても元が炎だからか、破壊された際に余計なものを周囲にばらまくし、際限はないとでもいうように裂け目から次々に沸いてくる。
明らかに物量で押されているのがわかる。
今までの聖戦では大活躍だったクロイノだが、クロイノの尻尾での凪払いもあまり効果があるようには見えない。
けれど、クロイノ自信はヒラヒラと視界を泳ぐ火の魚に大興奮していて実に楽しそうに追いかけ回したり猫パンチを繰り出して遊んでいた。可愛い。
こんな状態じゃなかったらゆっくりと眺めていたかった。
アドラファレルが大きく旋回して一気に距離を詰めながら顔に孔が開いていく。
いつ見ても不気味すぎる。
『水が欲し───「せいやァ!!」
隙を見てはあの呪い──勝手に技名を邪見とした──を発動しようとしてくるので、その度に功太と二人がかり。いや。
「どりやぁあああ!!!」
ドルチェット含め三人掛でアドラファレルへと猛攻撃を仕掛ける。
すぐさまアドラファレルは孔を閉じて回避行動をとり、逃げ切れない場合は魚を集めて盾にしていた。
猛攻の度に目玉が削られていき、遂にラスト一つになった。
「残り一個!!」
畳み掛けていくぞと意気込んだ矢先、離れた箇所からクレイの警告が飛ぶ。
「おい!!そっちでかいの行ったぞ気を付けろ!!!」
「!!」
オオンと不思議な音を立てて、巨大な炎のホホジロサメが突進してきていた。
「うおっ!?なんだあれ!?」
「やばっ!!」
俺の矢で消し飛ばすにしても、ドルチェットの大剣で切り裂くにしても、功太のビームで薙ぎ払うとしても、その後の余波まで凌ぐほどの距離が残っていない。
「ルカ!」
功太が叫んだ瞬間、ガシッと何者かが腕を掴んだ。
誰だと思う間もなく、次の瞬間には景色が一変した。
目の前にいた鮫が少し遠くに、しかも横向きで見えている。
これは、ワープ…いや、瞬間移動か。
功太が俺の後ろに声をかける。
「ルカ、ありがとう!」
「ぜ、はっ、お、お安いごよう、です、!」
振り替えれば、足元でルカが物凄い息切れ状態で俺とドルチェットの服を掴んでいた。
もしかして瞬身で三人一気に跳んだのか。
「瞬身の達人じゃん…、そうそう複数人で出来るもんじゃないのに…」
「お前小さいのに凄いな!見直したぜ!」
ドルチェットが賞賛している。
瞬身は高速移動が出来る反面、体力がごっそり持っていかれる。
一人でもそんななのに、更に二人追加されるとどうか?
相当な使い手じゃないと出来ないことだ。
そんなルカは俺に向かってこう言う。
「こ、これで、チャラですから…!」
「?? わかった」
一体何のことだろうか。よくわからないけど頷いておいた。
「それにしても数が減らないなぁ」
改めて見てみれば魚の数が凄い増えている。
どおりで手が回らなくなってきている筈だ。
「ねぇ、朝陽」
功太が話し掛けてきたのでそちらに視線を向けると、なにやら“イイコト”を思い付いたような顔をしていた。
「ん?なに?」
「僕が時間を稼ぐからさ、アレやってよ」
なんだろうと思ってると、功太が不適な笑みを浮かべた。
「氷結系最強スキル、“アイスエイジ”」
「!」
アイスエイジとは俺が持っている氷結系最強スキルだ。溜めが必要であるが、一気に冷却できる環境干渉型スキルだ。
だけど、なんで?
「あの魚、斬ったところで数が減っているどころか増えているし、破壊した時に飛び散る火の粉とか溶岩みたいなのでこっちがダメージを受けている」
それな、と俺は全力で同意した。
「受けても壊してもダメージ入るのはクソだと思う」
「それで観察していたんだけど、どうもあの魚は地面の赤い割れ目からしか出てこないんだよね」
「ほぉー?」
毎回思っていることだけど、戦いながら観察するとか器用すぎると思う。
「じゃあつまりは裂け目を塞いだりすれば出てこなくなるかもって?」
「端的に言えばそう。しかもあいつらはどうも冷却系、氷属性や水属性に弱いっぽい」
言われてみれば確かに、属性的にも冷やすのは有効なのは確かだった。
功太の説明が続く。
「弱いといっても水は少量だと蒸発させられるから、氷結が良いかも。水だとあのくらい必要」
言いながら功太がとある方向を指差していた。
その方向では、アリマがまるでし消防士のホースを振り回すように、杖から勢いのある水で魚を攻撃していた。
見てみれば確かに効果があるようで、水を避けるように動いていたり、水を被った魚が水蒸気を撒き散らしながら小さくなりつつ逃げ出しているのが確認できた。
なら、アイスエイジなら一気に片が着くのではなかろうか。
「おまえ天才か」
「そんじゃ任せたぞ!」
「おう!」
早速準備に取り掛かろうとした時、ドルチェットが回り込んでくる。
「おい!自分にも説明しろよ!!」
しまった。ドルチェットにも説明するの忘れてた。
ルカも説明がいるのかと思ったら、すでに姿が消えていた。
復活が早い。
「えーと、物凄いことするから俺のこと守ってください?」
今はこれくらい簡単な説明が良いだろう。
ドルチェットもとりあえずはなにをすれば良いのか分かってスッキリしたみたいだった。
「よっしゃ任せろ!!クレイ!!盾ェ!!」
遥か遠くからクレイからスキル盾が飛んできて、俺の回りに配置された。
察しが早くて助かる。
「さぁーて、やりますか!」