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アドラファレル戦

 ガランと、功太の踏み込みで砕けた瓦礫が転がり落ちる。

 こんな足場の悪いところで、よくあんな跳躍出来るなと感心した。

 そんな中、功太が飛んでいった方向を見ていたクレイがポツリと溢した。


「なんだか吹っ切れたみたいな顔してたな」

「うん、良かったよ」


 一時のあの酷い時と比べて、別人かなと思うほどの変わり様たった。もちろん、良い意味で、だ。

 あとは、新しくなったゴッズがちゃんと馴染んでいれば良いけど、と思ったが、ブリオンでも功太はあの剣しか盛っていなかった訳じゃないので大丈夫かなと思い直した。

 日本刀みたいなのもあったし平気だろう。


 そういえば、とアスティベラードが話し始めた。


「お主の友が何か言っておったな」


 アスティベラードが首を傾げながら言う。


「確かバフを盛るとか」


 バフという言葉に馴染みが無いからなのか「バフとは?」とノクターンに訊ねて首を横に振られていた。

 ああそうだった。

 さっきそれで後悔したんだった。


「ノクターン」

「は、はい…」

「先に魔法を掛けてくれないかな?万が一到着した時に魔法を使えないほどになってたら困るし」

「……んフッ…!」

「それはそうですね…。分かりました…」

「ねぇ、クレイ。思いだし笑い止めてくれない?」


 さっきの光景がフラッシュバックしてツボに入ったのかクレイが俺から全力で視線を外していた。

 聖戦中だぞ。真面目にやらんと死ぬぞ。

 いや、受け流しを付けていなかった俺も悪いか。


「それでは…」


 ノクターンの魔法でバフが次々に盛られていく。

 といってもいつもの攻撃力増加と防御力増加なんかのものだけど。

 あらかた基本のものを掛けて貰い、少し考えてノクターンに訊ねてみた。


「高温耐性上げるのってある?もしくは耐熱耐性とか」

「一応ありはしますが…、火までは防げませんよ…?」


 火までは無理かと思ったとき、クレイがそれでも良いと賛同した。


「こんな環境だ、無いよりもあった方が良いだろう」

「分かりました…。

 熱砂の腕、鉄の脚、赤く燃えたる空の瞳よ、今ひとたび目蓋を閉じ、夜の帳を下ろしておくれ…。深き果ての海に身を委ねて、君とまた手を繋ごう…。《ノウオビエール》」


 体全体に冷たい膜が覆った。

 なるほど、こんな感じなのか。確かにこれだと火は防げないか。

 でも暑いなか動き回るには問題がない。

 クレイが早速盾を展開した。いつなんどき何が出てくるかわからない。


「よし!行こう!各自警戒は怠らないように!」

「「「了解!」」」





 ごうごうと燃え盛る街を走る。

 その前方、瓦礫と化した街の中央部分が燃え上がっていた。

 湧いてくる人形を風や盾で遠くへと吹き飛ばしながら功太が跳んだ衝撃で道のようになった瓦礫の隙間を進んでいき、ようやっと敵いると表示されている広場へと辿り着いた。

 既に広場なのかもわからないほどに破壊し尽くされていたけれど。

 功太の姿がないのが不思議だったが、俺はまず目の前に居る存在に釘付けになった。


「あれが今回のボス…」


 地面は黒く焦げ、ひび割れから赤いものが顔を出していた。

 その地獄のような場所に旅装束の女性が立っていた。

 いや、ただの女性ではない。明らかにおかしい見た目をしている。

 上半身は女性なのだが、下半身は鳥のような、馬系の前半分のような形だ。その背中部分からはまるで孔雀の尾のような巨大な羽が生えており、それがパレオのように女性の後方を覆い隠していた。

 羽のせいであまり見えないけれど、アレは馬の後ろ半分か?とにかく異様な見た目をしているのは確かだ。

 身長だって、並みのケンタウロスよりもあるだろう。

 頭上には天使の輪のような王冠が浮かんでおり、ゆっくりと回転している。


 コー…ン…、と、ソレが蛇が巻き付いたような杖を地面に打ち付ける。

 ポコポコと地面の割れ目から赤い液体が浮き上がって球状に変化し、目玉のようなものへと変わった。

 何なんだろうアレ。

 嫌な予感しかしないが。


『おや、思ったよりも早くついたな』


 聞き覚えのある声が聞こえてそちらを向くと、宙に浮いたクリフォトがいた。

 その顔はどこか楽しげだ。そんなクリフォトに俺は思わず文句を言う。


「なんで毎回俺達は遠い所なんだよ」


 毎度毎度、ボスに辿り着くまでにだいぶ体力を使うのだ。文句の一つも言いたい。

 それなのにクリフォトは俺の文句に呆れた顔をしていた。

 そして一言。


『冠位順だ』

「かん、ん??」


 なんだそれ、意味がわからない。

 どういう意味なのかを問う前に、クリフォトはボスの方へと視線を向けていた。


『今回の相手はあれ、アドラファレルだ』


 俺の質問の回答は一言で終わってしまったらしい。

 腑に落ちないけど、きっとこれ以上は答えてくれないだろう。


 改めてボスを見る。あれはアドラファレルというらしい。

 大きさこそ常識の範囲内ではあるけれど、どの聖戦のボスにも共通してあった不気味さを纏っている。


『前のでもだいぶ苦戦していたようだが、こいつは更に強い。ふふ、どう戦うのか楽しみだな。

 出来るだけ長く踊ってくれよ?』


 そう良い終えるや、クリフォトが燃え上がるようにして消えてしまった。

 消えてしまったといっても、多分見えないだけで何処からかは見ているんだろうな。

 だって終わったと同時に出てくるし。


 ドルチェットがクリフォトがいた地点を睨み付けながら「ケッ!」と威嚇していた。


「相変わらず嫌な気配の女だな」

「わかる」


 さて、とクリフォトが教えてくれた今回の聖戦のボス、アドラファレルへ視線を向けると、アドラファレルがいつの間にかこちらを向いていた。

 思わず肩が跳ねる。


 目は瞑っている筈なのに、色んな所から視線が突き刺さってくるのだ。

 もしかしてあの赤い目玉、アドラファレルの視界と繋がっている?


 そう思った時、つつ…、アドラファレルの目蓋が震え、目が開かれた。


「ッッ──!!!?」


 俺は思わず悲鳴を上げ掛け、変わりに喉から「ひゅっ」と変な音が漏れた。


 顔のど真ん中に孔が空いていた。


 目だと思っていたものは目ではなく、二つの目だと思っていたものは、顔の半分ほどもある空洞を閉じた時に出来た皺であった。

 あまりにもホラーちっくな光景に絶句していると、アドラファレルの閉じられた口がニヤァと人間なんかには出来ない角度で弧を描き、笑みを浮かべた。


「…おい、なんかヤバくないか?」


 と、ドルチェットが言う。

 ゾワゾワと背中が粟立つのを感じる。


『水が欲しいか?』


 え。


「喋っ───」


 ボンッッと突然体の一部が発火した。


「うわぁああ!!!」


 突然の事に驚きながらも慌てて弓矢生成で矢を作り出して秒で水属性付与、燃えた腕へと突き刺した。

 水に姿を変えた矢が燃えた箇所へと降り注ぎ、なんとか火は消えた。

 燃えた箇所が火傷したみたいにヒリヒリと痛む。

 服は何ともないのに痛みだけがビリビリとやってくる。

 なんだこれは、ヤツの能力か?


「ディラ!こっちもくれ!!」

「!」


 クレイに言われて人数分の矢を出してそれぞれの燃えている場所に射ち込む。


「うおおおおお!!!!いってぇ!!!!」

「…………チッ」


 ドルチェットが腕を抑えながら叫ぶ横で、アスティベラードが小さく舌打ちしていた。

 聞き間違いかと思った。

 アスティベラードも舌打ちするんだな。


「盾貫通してきやがった!!なんだあれ!?」


 クレイの言う通り、俺達とアドラファレルの間にはクレイの盾が展開されていた。

 もしかしてこれも“呪い”と同じなのか?


「──おい、おい、朝陽…!」


 突然空間がベロンと剥けて功太の顔が隣に現れた。


「ぉ──!!!?」


 ビックリして声を上げそうになったが、功太が静かにと人差し指を口許に添えて「しぃ~っ!」としていたのでなんとか堪えた。

 よく見てみれば、功太の後ろにはルカやアリマにラピスもいた。

 透明化の魔法なのか、魔法具か。

 どちらにしても気が付かなかった。


「すまん、あの攻撃が来る前に合流したかったけど間に合わなかった」

「アレなに?」

「ヤツの必殺技の一つだ」


 功太がアドラファレルを見る。


「通常時はああして目をつぶっているけど、あのヤバい攻撃の時だけ目を開いてさっきみたいな見えない攻撃で体を燃やしてくる。

 ヤツの周りに浮かんでいる炎の目玉があるだろ?あれが残機だ」


 見てみると確かにさっきよりも数が減ってる。

 制限付きの防御無効の必殺技か。

 残りが分かるのは助かるけど、厄介なのは変わりがない。


「一回につき一個消費される感じ?」

「いや、一回につき人数分」


 じゃあ後いくつだとアドラファレルを見る。


「!」


 また顔に孔が空いている。

 にたりと弧を描いている口がほんの僅かに開かれる。


『水が欲し──』


 すぐさま功太が跳び出してアドラファレルへと光線を飛ばした。

 それを避けるためにアドラファレルが四つ足を器用に使って大きく後ろへと跳躍して避ける。


 身構えたが燃えなかった。

 アドラファレルの目が閉じられ、不満げに背中の飾り羽根を震わせていた。

 俺の疑問に功太が察したように答えてくれた。


「一応、あの言葉を言われる前に本体に攻撃をすれば攻撃を中断出来ることは分かったし、何なら残機だって壊せるのはわかった」

「なら、さっさと残機全部壊せば楽勝なんじゃ?」

「それで済んでたら苦労しないよ。ほら、来た」


 どぷんという音を立てて、地面の赤い隙間からたくさんの燃える魚が涌き出て来ていた。




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