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聖戦3

 ザッと青ざめた。

 すぐさま俺は矢を生成して水属性付与、近くの人形へと射ち放つ。

 当たった瞬間にもうもうと水蒸気が立ち込める。

 炎の人形は動きを鈍くしたが炎は消えることなく歩を進めてきた。恐らく炎が消えないと動きが止まらないタイプなのだろう。

 もう一射するが効き目は薄い。


「くっ」


 ダメか。

 炎の温度が高すぎるのか、通常の炎であれば消えるはずなのに蒸発するのみで意味がなくなっている。

 そんな様子にやきもきしたドルチェットが大剣を担いで前に出た。


「自分が一気に凪払う──「駄目だドルチェット!!!」──は?」

「ディラ、何言って…」

「いいから皆は動かないで!!!」


【身体能力向上・大】【筋力強化・大】【雨状放射】【属性付与/水】

 これらのスキルを発動し、空に向かって射ち放った。

 空高く上がった矢が雨状放射のスキルによって細かく分裂し、そのまま大量の雨となって周囲に降り注いだ。


 わぶっ!と誰かの声が聞こえた。

 大量の水蒸気が視界を白に染め上遮る。

 しかしそれを気にすることなく俺は次いで凍結属性を付与して地面へ射ち込んだ。地面が一瞬で凍り付き、水蒸気までもが凍って雪の世界へと変化させた。

 それまでしてやっと人形の炎が完全に消え、電池の切れた玩具のように次々に地面へと転がっていく。


 吐く息が白い。


「おい!さっきから何なんだよお前!!」

「待てドルチェット」


 わけが分からないと怒るドルチェットをクレイが宥めてくれている。

 その隙に俺は一番近くにいた人形へと駆け寄る。


 歪な形の人形だった。

 胴は人間に近い形をしていたが、足は牛のような形状で、頭は恐らくロバ。しかし何故か羊の角が生えていた。

 腕はなく、腕のある箇所から鎖が伸びており、それが胴体にぐるぐる巻きになっていた。

 炎は消えたけど、まだ相当の熱を持っているようで、人形に触れた雪がことごとく溶けて蒸発をしていた。

 俺は火傷するのも構わずに鎖を矢で破壊して抉じ開け始めた。


「ディラ!何をしている!?」

「手が焼けてますよ!」


 皆の制止の声を無視し、鎖と留め具で固定されている胴体部分、そこに鏃を差し込んで体重を掛けると、ガコンと音を立てて部品が外れる。

 途端に焦げた匂いが充満する。


「うっ…」


 あまりの臭いにえずきそうになるが、堪えた。


「なんだこの臭い」

「…………これの臭いだよ」


 クレイにコレだと示した。

 抉じ開けた胴体の空洞部分、その中には人の形をした黒焦げたものが入っていた。

 大きさ的に魔族の子供らしかった。

 ハーフマンの可能性も否めないけど。


 ソレは息は既に絶えていてもうどうすることも出来ない状態だった。


「ッ!」


 俺の後ろからソレを見たみんなが息を飲む。

 うそだろ?とドルチェットが振り絞るように言う。ドルチェットの視線は辺りに転がった人形に向けられ、怒りを含んだ声で叫んだ。


「この人形全部がソレだってのかよ!!」

「……たぶん」


 たぶんとは言ったけど、実際そうだ。

 しかも何でだか知らないけれど、燃えている間は子供達は生きていた。それが火を消したとたんに死んだ。

 これは今回のボスの能力なのかもしれない。


「なんて悪趣味だ」


 クレイが絞り出す様に言う。

 前回の凍り付けも結構酷かったけど、今回はそれを大きく上回る外道さだ。

 これ、もしかして聖戦が始まる度に地獄が拡がっていくんだろうか。

 今更ながらに“聖戦”というものを理解した。いや、理解させられた。


 倒れた人形の向こう側から、まだ燃えている人形がこちらに向かって来ているのが見えた。


「まだまだ来るぞ。どうする?」


 立ち上がってボスの方向を確認する。

 目の前の街の中心部だ。そこに功太も居るだろうから合流したい。


「クレイ、出来るだけ盾を出して道を作ってくれる?」

「ああ、わかった」


 早速スキルを発動して盾を複数生成して周囲に配置した。


「ディラさん。その前に火傷を治さないと」

「そうだった」


 ズキズキと痛む火傷をノクターンが治療してくれた。

 さて、と、エクスカリバーを風属性専用形状弓の“天龍”へと変えた。

 細かく捻れて、まるでしめ縄のような弓は風属性付与の矢しかつがえられない。しかしその代わり、風属性ならば通常以上の威力を発揮してくれる。


「今から道を開くから、その瞬間に配置お願い」


 すぐさま【弓矢生成】で作った矢に【風属性】付与。

 つがえて狙いを定める。

 出来るだけ当てないように慎重に調整をすると、射ち放った。


 矢が通過した箇所が竜巻となり、人形を巻き込んで遠くへと吹き飛ばしてくれた。

 これは雑魚モンスターに囲まれたときによく使っていたやつなんだけど、今回は子供。

 火を消すと死んでしまうからこうしたけど、本当はどうしたらいいのか分からない。

 大変申し訳ないと心のなかで謝りながらクレイが盾で作ってくれた道を全力で走り抜けた。


「くそっ!今回のボスも胸くそ悪いぜ!!一体どんな神経してやがんだ!!」


 ドルチェットがブチキレてた。

 それをジルハがなだめてはいるが、俺たちの心境はドルチェットと同じだ。

 火がついている間は痛みに悲鳴を上げ続け、消せば死んでしまうなんて。

 ふつふつと怒りが湧いてくる。


 クレイの作ってくれた未知を駆け抜け、開きっぱなしになっている門をくぐれば当然のように街は燃えていた。

 正確には燃え尽きた後のように残り火があるだけだが、壁も道も黒ずみ、その中に大きな黒いものがゴロゴロ転がっていた。


 焼死体だ。

 それも大人ばかり。人形に襲われたんだろうか。

 そう思ったとき微かに呻き声が聞こえた。

 ジルハが近くの瓦礫の下を覗き込む。


「この下です!」

「ま、任せてください…!ロエテム…!」


 ロエテムがノクターンの魔法によって強化され、崩れた建物の瓦礫を持ち上げて退かした。

 俺達でも苦労するであろう大きさの瓦礫を、ノクターンに強化されたロエテム一人で黙々と退かしている。

 基本戦闘中もあまりロエテムを気にしていなかったけど、実は物凄く強くなってる???

 最後の瓦礫を退かす途中で、呻き声が先程よりも鮮明に聞こえた。

 すぐさま瓦礫の下を覗き込んで声をかけた。


「大丈夫ですか!?」

「う……」

「一緒に退かそう!」


 せーの!と最後の瓦礫を退かしてみれば、ようやく呻き声を上げていた人の姿が露になった。

 魔人の男だった。

 種族は分からないけど、頭からは角が生えているところを見るに人間じゃないのは明らか。


 ひどい火傷と、何より悲惨だったのは腰から下の損傷。炭化している上に瓦礫に押し潰されて粉々になっていた。

 おそらくもう痛覚すら無いに違いない。


「ディラ…、こやつはもう…」

「……うん」


 治療したところで無駄だっていうのは分かってる。

 男はうっすらと目を空けて、目の前にいた俺を見た。

 ああ…と酷く掠れた声が男の口から漏れる。


「あ…あんたら、もしかして勇者か…? …たのむ…俺の息子が、空から降ってきた卵に取り込まれて……。おれは……、なにも出来なかった……」


 男の指が欠けた手が俺の服を掴む。


「お願いだ……息子を、助け…………」


 服から手が外れて地面に落ちた。


 最後の力を振り絞って俺に頼みごとをしたのか。

 開きっぱなしになっている目蓋を下げてやる。

 なんでいつもいつも関係ない人がこんな目に遭っているんだ。


 その時、すぐ近くの建物が吹き飛んで崩れた。

 もうもうと立ち上る煙が晴れ、影が瓦礫を押し退けて立ち上がる。

 その人物がこちらを向いた。


「やっときたか、朝陽」

「功太!」


 服装も何もかもが新しくなった功太が広場の方向、飛ばされてきた方向へと指差す。


「ボスはあっちだ。結構厄介なやつだから、今のうちにバフ盛っとけ!」


 そう言い残すと、功太は一瞬にしてボスの元へと向かっていった。



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