端から見たら衝撃映像
気がついた時には荒野に立っていた。
「ふむ、聖戦が始まったか」
アスティベラードと共に。
慌てふためく事もなく俺は空を見上げると、謎の光の環っかが浮かんでいるのを見て納得した。先程のアレは聖戦に関係するものだったのか。
すぐに装備を確認した。
腰にはちゃんとエクスカリバーがある。
いつ突然聖戦が始まるか分からないからずっと装備していたんだけど、正解だったみたいだ。
同じくアスティベラードも装備を確認しており、終えた頃を見計らって声をかけた。
「とりあえず皆と合流しないと」
「うむ」
いつものと変わらないのなら、皆もきっと近くにいるはずだ。
辺りを見回すと、ちょっと離れたところに皆の姿を確認できた。
おーい!と声をかけると、向こうも俺達を探していたらしく、こちらに気が付くなりすぐにやってきた。
まず最初に大剣背負ってドルチェットがやってきた。左手にはニンジンパイ。
へぇ、手に持ってたのも一緒に転移してくるんだ。へぇー。
聖戦の新たな発見だ。
ドルチェットはたくさん頬張った瞬間に転送されたのか、ハムスターのようになっていた。
「まひかふぉ!!へっはふほえはあへぁーとモグモグらっはんに!?」
「せめて飲み込んでから話せ。わからん」
アスティベラードに言われ、ドルチェットがモグモグ咀嚼している間に続々とみんなも集まってくる。
片手に各料理を持って。
俺も片手にご飯持ちながら転送されてみたかったな。
絶対に面白いじゃん。
そんな中、ロエテムも何かを持ってきてしまったらしい。
「ロエテムは何持ってんの?」
スッ、と、出されたのが大きな鉄鍋だった。
なんで??
いち早く食べ終えたクレイが手をはたいてカスを叩き落としながら指示を出す。
「とりあえずさっさと食べてしまおう。ディラとアスティベラードは少しの間警戒しててもらって良いか?」
「仕方ない。はよう食べろ」
「あい」
まぁ、皆で食べてたら不意打ちくらう可能性もあったから、これはこれで良かったのかもしれない。
ノクターンが「すみません…」と良いながら頑張ってスープを飲んでいた。頑張れ。
みんなも辺りを警戒しながら料理を食べつつ、全員いるかの確認をしていると、空に空いた大穴から変な卵みたいなのがたくさん落ちているの気が付いた。
さっきは暗くて良く見えなかったけど、今は何故かキラキラと赤い光が反射している。
「なんだあれ」
「どうした?」
「ちょっと変なのがあるから視てみる」
クレイに見守られながら千里眼を発動して、なんとなく目元に手を当てて視てみた。
結構な距離あってあまりにも小さいから自信は無かったけど、どうやら金属のような素材の丸い物体としか分からない。
鑑定スキルとかあればもう少し詳細に分かるんだろうけど、こればかりは仕方ない。
でもなんだか嫌な予感はする。
「なんだった?」
「金属のボール?卵?みたいな感じだった」
「羽とか生えてたか?」
「いや、普通に落ちてる」
「聖戦にしては変わってるな」
今までがボス&有象無象の小型モンスターのセットだったから、ボールというのは何なんだろうかと首をかしげるのは分かる。
とはいえアレも何かあるんだろう。
残念ながら俺のブリオンの記憶にはあんな卵の情報は無かったけど。
次いで食べ終えたドルチェットが会話に参加する。
「そんで?ボスの方向はどっちだ?」
「えっとぉー」
意識を集中させながら辺りを見回すとすぐに見つけた。
なんでかいつも俺達が出現するのは端っこが多いから、恐らく結界の中心部にいるはずと、空の環の下辺りを探るとすぐに見つけた。
「いた!」
ドオオン!!!と遠くから爆発音のような音が響く。その前に見覚えのある光の戦が見えたから、恐らくだけど、すでに功太はボスとやりあっている気がする。
それを皆も確認したらしく、ちょっとうんざりしたような顔をしていた。
「……結構距離あるな…」
「うーん…」
なんでいつも俺達は遠いのだろうか。
せめて三キロ圏内にして欲しいところだ。もしや苛められてるのか。
「走っても間に合うかァ?これ」
ドルチェットの言う通り、それが一番最悪なパターンである。
どうしたもんかと考えていると、いつの間にか食べ終えたジルハが「あの」と小さく挙手した。
「ちょっと前から考えていた事があるのですが」
なんだろうかと皆の視線がジルハへと向く。
ジルハは俺を見ながら、とある事の確認を始めた。
「ディラさんの人間ロケットって、基本自分自身は飛ばせないんですよね?」
「うん。そうだね」
旅の途中で、それに似た事をドルチェットが出来るようになったので、説明をしたことがある。
「僕らを飛ばした後でディラさんを誰かとロープで繋いでボスの近い場所に一緒に飛ぶってのはどうですか?そうしたら余計な体力を削らずにいけると思うのですが」
「本気で言ってんのそれ」
この前のドルチェットよりもヤバい案である。
穏やかそうな顔して思考回路ドルチェットより酷い。
「まぁ、今回は地上だからなんとかなりはするか」
「クレイさん、何の根拠でそう言いきったの」
思わず、さん付けしてしまった。
ていうか、やることは決定事項っぽい。確かに時間はないから、これが一番早く到着できる切り札的になっているんだろう。
仕方がない、リーダー命令だから聞きますか。
とはいえ、こちらも条件がある。
「やるにしたって失敗したらまずいし耐久性の高い方とペアにならないといけないなぁー」
言いながらチラリとクレイを見る。いや、チラリではない。ガン見した。死なばもろともとは言わないけれど、何かあった時に少しでも生存率を上げたい。
俺の視線にクレイが気が付いた。
「つまりはオレか」
「そうだね」
何かあればすぐに盾が展開。安心安全。……本当に大丈夫かな?そんなやり方ブリオンでは実装してないから不安だけどさ。
まぁ、ここはゲームじゃないしやってみなきゃ分からないか。
再び地鳴りと轟音が連続で発生した。功太も元気にドンパチしているみたいだ。
さっきから光線ビカビカしてる。
あれからどうしているか心配だったけど、良かった良かった。
頑張って俺は気合いを入れた。
「よぉーし!よし!やるぞー!!」
「っしゃあああ!!!一番槍ィー!!!!」
せいやと矢を射ると、ドルチェットが人間ロケットスキルによって飛んでいった。
ちなみに何故ドルチェットが一番だったかというと、何かあった際ドルチェットなら即座に対応できるという事でだ。
一応町の手前の空いたところに指定した。ちゃんと着ければ良いけど。
「それではフォロー行ってきます」
「お願いします」
次いでジルハを飛ばす。
「ではな、先に行っておる」
そしてアスティベラード。
「ひ、ひいいいいいいっ……ッッ」
最後にノクターンが飛んでいった。
か細い悲鳴が遠ざかっていく。
気絶しそうになってたけど大丈夫かな。
本当は指定ができないロエテムとセットでしたかったんだけど、さすがに怖いのでロエテムは先にクロイノの影に収納してもらった。
万が一気絶してたとしてもロエテムは自動的行動しているから気が付くまではロエテムが頑張ってくれるだろう。
あ、先に魔法掛けてもらえば良かった。
気絶していないことを祈るしかない。
「準備は良いか?」
言いながらクレイがロープを鞄から取り出していた。
怖いけれど頑張るしかない。
「へぇーい」
どうか無事に着きますように。
思ったよりも縛りかたがプロだった。
てっきり腰だけに巻くものかと思ってたから、胴体真っ二つを心配していたけれど、絶対にそんなことはないと言える結び方をされた。
なんだろうなこの結びかた。
あ、あれにちょっと似ている。
「立体機d──「早く行くぞ」──うぃ」
クレイを指定して、人間ロケット発射。
ググンとロープが凄まじい勢いで引っ張られ、ゴムでもないのに異様な伸縮性を見せたロープは、俺を無事クレイと同じ速度で空へと引っ張りあげた。
「うぉあああああ!!!?」
「うおおおおおおお!!!!?」
凄まじいGが掛かる。
幸いクレイがちゃんと固定してくれたから胴体真っ二つは免れたけど、その代わりちゃんと固定されてしまったから、風を真っ向から受ける形になってしまった。
恐ろしい速度で視界が回転している。
気分的には子供の頃に見たドラッグシュートの気分。もしくはプロペラ。
クレイを飛ばしたと同時に体育座りをすれば良かったのだが、まさかこんな事になるとは思っていなかったのだ。
一応気合いでエクスカリバーを握ってはいるけど、そもそも風圧で四肢がもがれそうで、今じゃ手足を動かすどころか、風圧によって逆海老固めを受けている状態である。
拷問のような数秒の後、突然全身に衝撃が掛かった。
「げうっっ!!」
体が軽く跳ねたような感覚と共に、ようやく風が止んだ。
一応クレイに支えられているようだけど、あまりにも未知な恐怖体験だったもんで生まれたての子鹿のように膝がガクガクしている。
これ、体力温存のはずなのに、俺だけ大ダメージ受けてない??
「すまん、まさかあんなことになっているとは思わなかった。早く手繰り寄せれば良かったな」
さすがに飛んでいる間高速回転している俺を見たのか、クレイが心底労りの声をかけてきてくれる。
「………………俺の手足ついてる…?」
「ついてる」
「……エクスカリバーは…?」
「持ってる」
「…俺ちょーエライー……」
軽く意識が飛んでいたとはいえ、ちゃんとエクスカリバー持ってたの本当にエライと思うマジで。
「意識失っている暇じゃないぞニンジンめ!周り見ろ!!」
ドルチェットの警告で意識が一気に戻った。
慌てて辺りを見回すと、衝撃的な光景が広がっていた。
真っ赤な歪な形の人形がめらめら燃えながらこっちにゾンビのように歩いてきてたのだ。
「ば、バイオなんとかじゃん…」
燃えてる何かは叫び声に似た音を発しながら近付いてくる。
その瞬間、何故だか分からないが“違和感”を覚えた。
「……あれ?」
何かおかしい。
何がおかしいのか分からないが、俺はすぐさま千里眼を発動してその人形を視た。人形を視て、戦慄したのだ。