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子供の頃の世界って二倍はあったよね

「それで?そいつを運ぶために呼ばれたということで間違いないな??」

「ほんとにごめんなさい、ありがとうございますアスティベラードさん」

「ありがとうございます」


 二人して頭を下げたその背後には大型の猪系モンスターが倒れていた。その額には矢が綺麗に突き刺さっている。

 俺の矢である。

 あの後結局俺のエクスカリバーでの弓さばきがみたいと詰められ、半ば拉致に近い形で背中に乗せられてクレイ共々連行された。そこで出会ったゴウロックボアという岩みたいな見た目の巨大猪を仕留めさせられたのだ。

 一撃で仕留めた事で盛大な歓声を貰って悪くなかったけど、いざこれを持って帰ろうとして誰も持って帰る為の物を持ってなかったのに気がつき、仕方なく俺の見守りとして近くにいたトクルに頼んでアスティベラードを連れてきて貰ったのだ。

 良かった。念のためにグラーイーをロエテムに預けておいて。

 ロエテムにグラーイーから降りるのを手伝ってもらったノクターンがこちらに来きた。


「あの…アスティベラードをこき使わないでください…」

「ごめんなさい」


 珍しくノクターンに怒られてしまった。

 そうだよな、こうやって運んでもらうの何回目だよって感じだ。ちゃんとお礼もしないといけない。


「まぁよい。その代わりにツクバーグの残り半分をクロイノに献上するのなら許してやろう」

「はいもちろんです!!」


 アスティベラードの案を丸々呑む。

 結局は働くのはクロイノだ、お礼は惜しまない。

 そしてそれを使役しているアスティベラードとノクターンにもお礼をしよう。何が良いんだろうか。

 一人悩んでいると、アスティベラードが早速というようにゴウロックボアの前に立つ。


「クロイノ」


 アスティベラードが呼ぶと、影からクロイノが現れた。

 影から予想外の黒い物体が出てきた姿は、相変わらずのホラーちっくだけど、個人的には可愛いと思っている。

 何故なら一番盛り上がったてっぺんに小さく羽が見えるのだ。

 クロイノの姿をみてケンタウロス達があわてふためくが、俺ののんびりとした様子で敵ではないと判断したらしい。ビビりつつもクロイノが動きやすいようにスペースを開けたりしていた。


「ごめんねクロイノ。よろしくお願いします!」


 そう言えばクロイノは返事をするように尻尾を一振り。

 そしてクロイノは長い尾を蛇みたいにうねらせ、みるみるうちにゴウロックボアを巻き付けて、接触している箇所の半分飲み込んだ。

 こうすると獲物の体重が半分になるし、なによりも運びやすくなるのだそうだ。

 ひょいと軽々とクロイノはゴウロックボアを持ち上げ、何もいわずとも村の方向へと歩き始めた。

 それを見て口々に「あの黒いの凄いな」「力持ちだな」とケンタウロス達からの称賛の声と、子供のキラキラした視線を向けられているのに気が付いて、なんでかちょっと誇らしげになった。

 アスティベラードとノクターンがグラーイーに跨がる。


「帰るぞ。みなも待っておる」

「うぃっす」

「おー」


 帰る途中でケンタウロス達とお喋りをしていると、話の流れからシャールフの話になった。

 話を聞くに、元々ここのケンタウロス達は弓を使っていなかったのだが、以前ここを訪れたシャールフから弓を習い、それが広がったらしい。

 馬の速度で、さらに長い距離を狙える弓は相性が良く、あっという間にここらのケンタウロスの扱う武器が弓メインになったのだとか。


「凄い!さすがはシャールフである!まさかこのような所で知らぬシャールフの話が聞けるとは思わなんだ…っ」


 シャールフ関係なのでアスティベラードが目をキラキラさせながら聞いていた。

 推しの新情報で喜ぶアスティベラードを見て、自分も推しの話が関係ない所で公表されたら同じような感じになっていただろう。

 それにしても、と俺は思った。

 ケンタウロスが弓を持っているイメージが定着していた俺にとっては、弓を持っていないケンタウロスは一体なにを使っていたのか、俄然気になった。


「弓を習う前は何で狩りをしていたんですか?」

「投げ縄と投げ槍だな」

「へぇー、すごい」


 馬の速度で繰り出される投げ縄と投げ槍も、きっとなかなかの威力だったろうな。




 村が見えてくると、その前で仁王立ちをしているドルチェットとジルハがいた。

 ジルハはどうだかわからないけど、どうやらドルチェットは怒っているようだった。

 ドルチェットが口許に手を宛てる。


「おせーぞォォォ!!なにしてたんだよォォォ!!!」


 それに俺も同じようにして返事をした。


「ごめーん!!!ちょっと一狩り行ってたーー!!!」

「ずりーぞ!!!毎回お前らばっかり!!!自分にも行かせろォォォーー!!!!」


 なるほど、確かにそれはそうだ。

 次は誘うと言おうとしたところで、横にいたクレイがぼそりと言った。


「ドルチェットとディラがセットになると止まらなくなるだろうが」

「……」


 もしかしてそれで離して行動させているとかないよね??






「宿の案内されたんだよな?どうだった?」


 クレイがジルハに訊ねると、ジルハは変な笑顔で答えた。


「かなり個性的でしたよ」


 個性的??個性的ってなんだ?


「ああ、確かに個性的ではあったな」

「ですね…」


 アスティベラードとノクターンも同意見で、俺とクレイは首を捻った。

 一体どういう意味なんだ?

 そんな俺達を見てジルハが「まぁそうですよね」という顔をした。


「見たほうが早いですね、こっちです」


 ジルハの後について行くと、他のとは少しだけ色合いの違うテントにたどり着いた。

 通常よりも質素だけど、それでもしっかりとした作りのテントだった。


「ここは元々予備だったそうで、半分物置状態になっていたのを片付けて使えるようにして貰いました」


 玄関の扉代わりの布を捲ると、予想外のものばかりが設置されていた。

 まず、明らかに縦にイズオーバーな机。俺が立って使うのにちょうど良い高さの机だった。そしてどう見ても椅子代わりの肘掛け台。

 ケンタウロスにはちょうど良いんだろうな。


「小人にでもなった気分」


 それが懐かしい子供目線の世界である。


「見てみろよこれ!ベッドらしいぜ!」


 ドルチェットがなにやら興奮した様子でテントの側に行くと、布の塊を叩く。

 叩く度にザブザブと不思議な音がするそれをドルチェットはベッドと言っていた。


「ベッドなの?」


 ドルチェットの真似をして叩くと、明らかにベッドとしてはおかしい感触と音がした。そば殻とも違う。なんだろう。

 布を捲って納得した。

 布の内部は藁がミチミチに詰まっていたのだ。


「藁で寝るのははじめてかも」


 この世界に来てからは、木の床か地面か簡易ベッドのみで、藁は初体験でちょっとわくわくしていた。

 ちょっとだけ寝転がってみようかなと体重を乗せると、違うところから藁が沈む音がした。


「ん?」


 音がした方向を見ると、もう一つの藁ベッドでグラーイーが寛いでいた。

 なぜ。先程バッグに収納したはず。

 いや、出しっぱなしだったか?

 記憶を探ってみても折り畳んで収納した記憶がある。


「お前、いつバッグから出た?いや、その前にどうやって自力で組み上がった?」


 答えるわけがないのに思わず問い掛けると、グラーイーは俺を見て、なんとなく鼻で嗤ったような仕草をした。

 レベルが上がったら自力で出来たとかなんだろうか。

 人形のことは良く分からないので、グラーイーだから出来たのだと納得することにした。


 その後各々武器の手入れやら荷物の整理やらで、のんびりしつつも忙しくしているとあっという間に夕方になった。

「夕飯の用意が出来た!」とサイが呼びに来たのだった。







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