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人参ずくしの人馬村

「うわっ!」


 ケンタウロスの村に到着した早々にケンタウロス達に囲まれた。

 主に先程の発言のせいだと思うけど、一斉にこちらを向いたかと思えば、馬の足で一気に距離を詰められてしまったのだ。

 反射的に逃げようとしたら後方には案内してきたケンタウロス達の壁で逃げ場がなく、あっという間に四方をケンタウロスで埋められてしまったのだ。


 どうしようかと泣きそうになりながら辺りを見回すと皆が居ない。

 ケンタウロスの間から皆の姿が確認できた瞬間理解した。

 突然の囲い込みに反応が遅れた俺に比べ、仲間は一斉に退いて囲いから脱出していたのだ。


 行動がはや過ぎやしないか。

 ていうか俺を助けてくれ。

 馬圧で潰されそう。


「これがワンドか人参みたいだな」

「ワンドにしては細くないか?」

「大丈夫かこれで?」

「ちゃんと弓を扱えてるのか?」


 2メートル半の壁に圧迫されてなす術もなく心配されている心境を答えよな気分。しかし段々とケンタウロス達の言動が変わってきた。


「人参食べたくなってきた」

「そうだな。なんでか人参が食べたくなるな」


 人参という単語の登場率が増えると共にケンタウロス達が少しずつ去っていき、ようやく最後の一人……一頭?も人参食べに行こうと言って去っていった。

 一体なんなのか。

 近くにいたここまで案内してきた内のケンタウロスに訊ねた。


「俺バカにされてました?」

「いえいえそんなことは」


 というが、顔は苦笑いである。


 子供ケンタウロスに髪の毛掴まれて危うく食まれるところだった。

 子供なのに背丈が俺と同じなのが災いしていたと思う。


「…ないのですが、なにせ以前来られたワンドが結構体格が良かったと聞いていたものですから」

「以前のワンド…」


 前回の勇者、そして弓を使うといえばワンド。

 多分シャールフさんの事だよなと思い返してみた。

 確かにあの人は背も高かったし鍛えられたって感じの人だった。

 改めて自身の腕を見る。そう考えてみるとモヤシのような俺とは大違いだ。

 そう思うのもしょうがないなとは思いつつも、とはいえ、俺がワンドなのは仕方がないだろう。

 なんていったって、抜いちゃったのだから


 最後のケンタウロスも「じゃあまたな」と去っていくと、ようやく皆が戻ってきた。


「いやぁ凄かったな」


 そういうクレイに恨み言を吐いてみた。


「置いていったの酷くない?」

「気付いたらお前だけ居なかったんだから悪くないだろ?」


 つまりは単純に俺が逃げ遅れただけだったと。

 そう言われればそんな気もする。するけど解せない。


「待たせたな」

「!」


 初めに俺に話し掛けてきたケンタウロスが戻ってきた。

 ちなみにこのケンタウロスの名前はエンシンバイのサイオーノマというらしい。


「サイさん」


 長いのでサイと呼ぶことになった。

 サイが村の奥を指差す。


「族長のおよびだ。ついでに挨拶していくといい」






 話し合いの結果、クレイと二人で謁見することになった。 

 残りのみんなは船を渡してくれる人へ連絡を取るのに2日掛かるというので、泊まる場所を確認しにいく為に二手に別れた形だ。

 最近この交渉組と散策組とに別れることが多くなってきた気がする。

 もしやクレイに交渉術を見て覚えろとでも言われている??


「今回はディラが交渉だな。なんだかケンタウロスに好かれてるし」

「さーいぇっさー」


 自信ないけど頑張ります。

 一段大きなテントに案内された。辺りのテントに比べれば大きさも装飾もひと味違う。

 入り口に掛けられた布をサイが捲って中へと入り、俺達も中へと入った。


「族長!ワンドが来ました」


 入ってすぐのところで初老のケンタウロスが待っていた。

 ゆったりと座り、寛いでいるように見える。

 我々の肘掛けですまないがと、椅子のようなものを用意され、失礼しますと腰を掛けた。

 そこでようやくケンタウロスの長が口を開く。


「はじめまして。私はケイロナ族の長、ケイロナ・バンバグンセのウロノバンカ。ウロ、もしくは長と呼んでくだされ」


 クレイが視線で次はお前だと促してきた。


「は、はじめまして。ディラと言います。こっちはパーティーリーダーのクレイ」

「はじめまして」

「短い間ですが、よろしくお願いします」


 これで良いのかなとチラチラとクレイの様子を見る。

 とりあえずは大丈夫そうだ。

 自己紹介を終えたことで、ウロが「うむ…」と返事をする。

 そして俺を隅々まで見ているのがわかった。

 きっと事前に俺がワンドなのだと知らされていたんだろう。


「それで、今回のワンドが君か。なんというか……」


 何を言われるんだろう。


「人参が食べたくなるな」


 また人参!!!!

 なんなんだケンタウロスは!!!口を開けば人参人参!!!

 そんなに俺が人参に見えるのか!!!?

 思わず叫びそうになったが、すんでで耐えた俺を褒めてほしい。

 横からはクレイからの同情の眼差しを向けられている。


 バチンとウロが人間の太ももを叩くように馬部分の前足付け根部分を叩いた。


「よし!今夜は大盤振る舞いをしよう!良いか?サイ」

「了解しました」


 その後、何故か人参パーティーの内容の議論がなされ、それが大方纏まるとようやくテントから出してもらえた。

 隣に居るサイに訊ねた。


「…これ滞在しても良いって事なんですか?」

「ああ!大歓迎するってな!」

「なら、良いのか?」


 個人的には良くないけど、パーティー的には良いことだと思う。


「髪色人参でよかったな」

「キャベツには言われたくない」


 お前だってまだ時たまドルチェットにキャベツと言われているの知ってんだぞ。


「では、私は今宵の宴の準備をしてくる」


 夜までは好きにして良いと言い残し、サイも去っていった。


「とりあえず村ぶらでもするか?」

「そうだね」


 特にやることもなく、皆と遭遇するまで適当に歩いていると子供ケンタウロスが寄ってきた。

 思わず身構えてしまった。


「お前なんでこんなにケンタウロスに好かれるの?」

「さぁ?なんでだろ」


 頭の中に人参頭という単語が過ったが全力で無視した。


「ねぇー!ワンド!」


 ケンタウロスの子供が話し掛けてくる。

 もしかしてワンドが名前だと思われてるのか?


「俺はディラって言うんだよ」

「えー、でもワンドじゃん!」

「ワンドはワンドなんだよー!」


 なんだろう微妙に話がずれるな。

 あとワンドワンドと言われ過ぎて、俺の中でワンドという単語がゲシュタルト崩壊仕掛けていた。


「もうワンドで良いです」

「自分の名前を諦めるな」


 クレイにそう言われた。

 良いんです。既にディラの時点で本名と違うし。


「ねぇねぇ、ワンドは今回も弓なの?」

「弓だよ」

「じゃあ弓上手いよね!見せてよ!」


 はい、と弓を差し出された。

 どうしよう、俺エクスカリバー以外の弓を射てるんだろうか。

 これでノーコンだったら引かれる、いや、ワンドではないと言われて追い出されたりとかされたらまずい。

 チラリと弓を差し出した子を見てみると、その子以外の子供ケンタウロス達の目がキラキラしていた。

 どうやっても断れる雰囲気じゃない。

 ものは試しかな。


「大丈夫か?」

「大丈夫だとおもう。多分」


 腰越しにエクスカリバーから念が送られているけど、今回は許してください。

 大丈夫かなと心配しながらも弓をつがえてみた。

 あれ?思ったよりもちゃんと弓が引けるな。そう思いながら子供ケンタウロスが示した的を狙う。

 千里眼も発動してない。正真正銘俺自身の能力はどんなもんだろう。


 ビッと耳元で弦が弾ける音がして、軽い音をしてど真ん中へと突き刺さった。

 クレイが口笛吹いて「さすが」と褒めてきた。

 良かった。失望されずにすんだ。


「すげー!!!やっぱりワンドだ!!」

「ど真ん中だー!!!」


 子供達は大喜びをしていた。

 ふぅと安堵の息を吐く。


「なんだ、やっぱりちゃんとワンドだったのか」

「うわっ!」


 突然の声に振り替えると、そこには大量の人参を入れた荷物を背負ったサイがいた。


「疑ってたんですか?」

「まぁ、ほら、細かったし」


 サイの視線が腕に注がれている。

 何も言うな。言いたいことはわかってる。


「それは申し訳ありません?」


 なまじレベルが高いせいで体格と身体能力が釣り合ってないのは自覚がある。


「ねぇー!ワンドの弓見せてよ!」

「僕もみたいー!」


 そんなに見たいのか?

 なんとなくサイを見ると子供のように目をキラキラさせていた。

 お前もかい。


「見せるだけなら良いんじゃないか?」

「それもそうだね」


 クレイの許可を得て、エクスカリバーを展開すると、何処に居たのか瞬く間に大人ケンタウロスにも囲まれた。

 しまいにはさっきみたいに射ってくれと言われたが、さすがにエクスカリバーだと威力が桁違いで危険だからと断った。

 普通に射っただけでも木を余裕で貫通するんだ。

 危なすぎるわ。







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