マーリンガンでも知らないこと
翌日、俺達はこの町を発つことにした。
功太達も落ち着いたし、俺達はお役目ごめんである。
モンドからは「もうちっと居てくれて良いんだぞ?それに昨日の戦闘での装備の痛み具合も気になるし…」と言われたが、昨日見てもらった時点では損傷は特に無かった。
功太の衝撃が貫通してきたけど、あれは功太のスキルだから仕方がない。
「そうか。寂しくなるなぁ。お前ら人間だけど、嫌な奴ではなかったから」
「そうだな」
「何だかんだと楽しかった数日だったな」
「んだなぁ」
口々にそう言うドワーフ達。
確かに楽しかった。工房も見学させてくれたし、武器を見せ合っての討論会も楽しかった。
「また遊びに来ますよ。今度は色んな調味料をもって」
「そいつは楽しみだ」
モンドと教えた約束げんまんをした。
これで聖戦やらなにやらが終わってまた遊びに来た時に、楽しい時間を過ごせるだろう。
ドワーフ達、特にモンドから色々とお土産を貰い、それを鞄に詰め込んだ。容量がでかくて助かった。
普通の鞄だったら持ちきれなかっただろう。
「半分グラーイに持って貰えば良くないか?」
「確かに。素材系はグラーイに積もう」
グラーイは普通の馬よりも力持ちだから重量を気にしなくて良いのが頼もしい。
新調した馬具に荷物を乗せていると、先に準備を終わらせたアスティベラードがやってきた。
「しばらくは食べ物の心配がなくて良いな」
「だね。お肉も野菜も食べ放題の旅とか凄いよね」
食べ物を乗せていると勘違いしていた。
まぁでも食べ物の心配をしなくて良いのは本当の事だ。特にツクバーグは大切に食べます。
支度を終え、門へと功太達が見送りにきた。
もちろん見張り付きだけど、こればかりはしょうがない。
功太達は町の修理の手伝いと、幾つか依頼をこなせば解放する事になっているから、彼らも数日の内には出発するだろう。
功太がクレイにお礼を言っていた。
主にドワーフとの交渉をしていたのはクレイだ。お礼にお金を渡そうとしていたけど断られていた。
それでも何かしらお返しがしたいと言う功太に折れたクレイは、仕方なしにお金を受け取った。とはいえ、きっとクレイはあのお金を使わないだろう。
朝陽、と、功太がやってきた。
「それじゃあ、また。ありがとう」
「ん、またな!」
そんな感じで簡潔な別れの言葉だけ述べ、功太パーティーと別れた。
どうせすぐに次の聖戦で会えるのだ。
それでも功太達は姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。
次の聖戦までに手紙を書いておくのも良いかもしれないな。
「そんで?次は何処に行くんだ?」
ドルチェットの質問にクレイが答えた。
「南の方に大きめの町があるんだ。そこで少しお金を稼ごうかと」
「結構お金使っちゃったしねぇ」
装備以外で結構散財してしまったのだ。良い買い物だったから後悔はないけど。
そしてやっぱり功太のお金は使わない事にしたらしい。
しかも何故かそのお金をクレイは俺に渡してきた。
「なんで??」
「お前が持ってた方が良いだろ?友達のお金なんだし」
「……まぁ、そうか?」
良く分からないけど、俺はクレイから受け取ったお金を鞄の奥底へと仕舞った。
ということで俺達は南下するルートを取った俺達は、のんびりと相変わらず荒れ果てた荒野を通常通り狩りながら目的の町へと歩いていく。
しかし来た時とは違うこともあった。
ツクギーバの数を減らしたことによって、本来の動物や魔物が戻ってきていたのだ。
おかげさまで探し回らなくても狩りが出来るようになって嬉しい。
そのついでで、俺達を狙っていた鳥形の魔物を射ち落とした。
ドルチェットとの約束のお肉だ。
「さすがに約束果たすの早くね?」
と、焼き鳥にした肉を齧るドルチェットに言われたが、約束は早めに果たした方が良いに決まっているだろう。
目が覚めた。時刻はまだ夜中で、皆は寝静まっている。
「……さてと」
誰も起きていないことを確認して、ちょっと抜け出すことにした。
「ロエテム、ちょっと野暮用があって、うるさいかもだから少し離れるけど良い?」
眠る必要の無いロエテムに用があって離れることを伝えると、最低姿が確認できる位置までならオーケーとの許可が出た。
最近はロエテムが火と夜の番をしてくれているから助かっている。
了解と返事をして、俺は皆から離れたところに座った。
この前やろうと思って出来なかった、マーリンガンへの相談会である。
こんな夜遅くに起きているか分からないけど、マーリンガンは見た目に反して爺だ。逆に早く起きすぎている可能性に掛けよう。
一応皆のいるところが見えるのを確認してから通信機を起動した。
マーリンガンが出るまでの間に何を聞くのかを思い出しながら石を拾って地面に書き出す準備をする。
「えーと何を聞くんだったっけ。ああ、そうだ。聖具の謎とー、功太の元に本物のゴッズが現れたのとー、あと一つはなんだったか?」
『ディラくんかい?』
最後の一つを思い出す前に寝巻き姿のホログラムマーリンガンが出た。
良かった起きてたとホッとする。
『どうしたんだいこんな夜更けに』
「マーリンガンだってもう起きたところでしょう?」
手にマグカップを持っているところを見ると、モーニングコーヒーをしようとしたところだろう。
『あのねぇ、一段落ついたからこれから寝るところだったの』
なんだ寝る前のココアの方だったのか。
「そうだったのか。じゃあまた今度で良いや。お休み」
『待ちなさい待ちなさい』
眠たい人を呼び止めてまではしないと思って切ろうとしたら、何故かマーリンガンに止められた。
『君の方からわざわざ連絡してきたってことは、何か聞きたいことがあったんじゃないのかい?』
「そうだけど、マーリンガン眠いんでしょう?」
俺の回答にマーリンガンは小さく溜め息を吐いて、近くの椅子を引いて座った。
『ふー…。弟子の相談に眠いからって一蹴する師匠が何処にいますか。ほら話してみなさい。分かることは教えてあげるから』
なんと弟子思いの師匠だろうか。
涙が出る。かっこ比喩。
「じゃあ遠慮無く」
今回あったことを話した。はじめは興味半分な感じで聞いていたマーリンガンだったが、最終的には真剣に前のめり状態で聞いてくれていた。
「ということで質問なんだけどさ、まずは聖戦の件ね、そもそもゴッズを混ぜ込むなんて出来るの?」
マーリンガンは顎に手を当てて「ふむ」となにやら考え込み、唸るように答える。
「そうだなぁー…。…不可能…ではないかな」
意外な答えだった。
「そうなの?でもどうやって?はっ!もしかしてハンマーとかで砕くとか?」
『神具に対して不穏すぎる想像は止めなさい』
真剣に怒られてしまった。
マーリンガンが空咳をして俺が座り直すと、早速マーリンガン勉強会が始まった。
『ゴッズにはそれぞれ特性があるんだ。
例えば君の無名の神具は全ゴッズの中でも武器化の能力が柔軟だ。棒を基点とするものであれば、どんな形態にも成れる。君の弓形態はもちろん、槍、斧、メイスなんかもいける。
だけど一度固定されたら、さいごまでそのままの形態だね』
「へぇ」
思ったよりも万能で驚いた。
『それで、君の友達が所有しているソードのゴッズは文字通りの形にしか成れない』
「そうなの?」
『そうなんだよ。どんなに見た目が変わっても、剣以外には成れないんだ。
その代わりゴッズ状態では凄く柔軟に対応出来るらしくて、確か存在をおぼろげにしてすべての環境に適応する、みたいな?
僕も話を聞いただけだから詳しくは知らないけどね』
恐らくその特性を利用したんだと思う。と締め括られた。
俺が思っている以上にゴッズは凄いものらしい。
「ふーん。あ、もしかして俺と功太以外には見えてなかったってのはそのせいなの?」
『いやいや、それは全ゴッズ共通の特徴だよ。
適合者によって武器化されてないゴッズは、適合できる可能性のある人物にしか基本的には見ることが出来ないんだ。
万が一がないようにだね。武器化されたら別だけど』
だからクレイ達が俺の武器初期化状態を見れたのかと納得した。
『ちなみに適合者以外が見る方法もあるにはあるよ。教会の階級持ちは聖水と世界樹で作られた眼鏡やモノクルを使ってゴッズを守護しているんだ』
脳裏に浮かぶボルガの眼鏡。もしかしてアレがそうなのか。
思い出したらムカついてきたので早々に掻き消した。
その時俺は「あれ?」と内心首をかしげた。
「マーリンガンは?眼鏡持ってないじゃん。もしかして適合者なの?」
『ゴッズ守護者がゴッズを認識できなくてどうするのよ。僕はまた別の理由で見えるの』
そう言われればそうか。
守る人が守る物を見えなくてどうするんだって話だ。
「色々あるんだね。じゃあゴッズ関連でもう一つ。
聖具だったはずの功太の武器の中に、ゴッズが突然現れたんだ
それもゴッズの特性??」
『僕それ知らない情報なんだけど。え、こわ。初めて聞いたわそんなの』
まさかのマーリンガンがそう言うなんて思わなかったから驚いた。
「マーリンガンでも知らないことあるんだ」
『さすがに自分の管轄じゃないゴッズの事は知らないよ。といっても、君のゴッズも全部知っている訳じゃないからね』
「うぇい」
さすがに守護者同士でのゴッズの情報交換はやらないらしい。
とはいえ聞きたかったことの二つは聞けた。後一つ聞くのはなんだったか。
ああそうだ、思い出した。
メモをした地面を石でトントン叩くのを止めた。
とりあえず急遽必要って訳じゃないけど、もし知っているのなら早めに教えて貰おう。功太とは次の聖戦で会えるはずだし。
「ねぇマーリンガン、知ってたらで良いんだけどさ、もとの世界に帰る方法───」
突然マーリンガンの方でドタバタと忙しない音がしたかと思えば、懐かしい顔が現れた。鍛冶屋の親父だ。
なんだか困っているような焦っているような顔をしている。
『マーリンガンさん。あの、またです』
『ええー、またなのー??』
なんだろう。
親父の言葉にマーリンガンは心底嫌そうな顔をしながら「すぐに行くから」と伝えていた。
何かあったんだろうか。
『あーと、ごめんねディラくん。ちょっと呼ばれちゃったから続きはまた今度で』
「うん、じゃあまた」
通信が切れた。
ちょっと前からマーリンガンは忙しそうだ。可哀想に。
とりあえず聞きたかったことは聞けた。残りの質問はまた後日聞けば良い。
メモした地面を足で均すと睡魔がやってきてアクビをする。
「そろそろ寝よう……」
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ここまで読んでいただき
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作者のやる気がぐんぐん上がります!!
pixivにて主人公くんのイラストなども公開中です!!