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一件落着である

「そっちを選んだんだ」


 そう言えば、功太は何処か誇らしげな顔で「うん」と返事をした。


「皆には?」

「まだ知らせてない。先に朝陽に言っておきたくて。親友だし」


 功太の言葉に、そうだな、と俺は笑う。

 憑き物がすっかりと落ちた顔だ。表情も本来の功太らしさが戻ったように見える。

 いや、それよりも少し大人びて見えるのは気のせいだろうか。


「せっかくだし、二人で歩かない?久しぶりのぶらり話しようよ」

「いいね。超久しぶり」


 二人で町の人気のないところをのんびりと歩いていく。明かりもなく暗いけど、それがまだ良い。

 見上げれば満点の星が広がっていた。

 もうすっかりと見慣れたこちらの星空だけど、功太と一緒に眺めるというのは新鮮な気分だった。

 そういえば、あちらにいた時はよく二人でこうやって駄弁りながら歩いたものだ。学校の事、ブリオンの事、バイトの事、下らないことをダラダラと話ながら買い食いしたりした。

 今ではそのどれもが懐かしい。

 思えばこの世界に来てから結構な月日が経っている。

 そりゃ久しぶりなわけだ。

 そんなことを思いながら空を眺めていると小さな光の線が生まれて消えた。流れ星だ。


「ゴッズと向き合って、決めた。多分、初めてちゃんとゴッズと向き合ったと思う」


 そう功太が切り出し、俺は功太の話に耳を傾けた。


「教会から渡されるまま受け取って、使っていていたんだ。ただの装備としか見てなかった。ブリオンに似た所だったからなおさらゲームみたいな感覚が抜けなくてさ。

 装備ではなく相棒として見るべきだったんだって、初めて気が付いた」


 装備か、と、俺は腰のエクスカリバーを意識してみた。

 俺はどうだったかな。

 あの時はマーリンガンに急かされるまま慌てて逃げてきたから記憶が微妙だけど、一人でしばらく森の中をさ迷っていたかはずっとエクスカリバーに話し掛けていたような気がする。

 気がするじゃない。事あるごとに話し掛けてたな。


「気付けて良かったじゃん」

「遅すぎた気もするけどね。だからさ、せっかく“彼”が僕を選んでくれたから、それなら僕も彼に付き合ってみようと思って」


 彼??


「僕も朝陽みたいになれるように頑張ってみるよ」


 彼とは??

 彼と言いながら功太は剣に視線を送っていた。ゴッズって性別あるのか。

 マーリンガンからゴッズに性別の話は聞いてないけど、視線を向けてきたり返信したりする不思議物体ゴッズだ。性別があったって不思議じゃないだろう。

 もし本当に性別があるのだとすればエクスカリバーはなんだろう。やっぱりオスなのかな。

 メスだった場合、なんともごつい名前を付けてしまったと反省しないといけないから、オスであって欲しい。


「功太がそう決めたんだったら、俺は応援するよ。応援するって言っても俺も参加してんだけど」

「だね。そうだ、ちょっと見てよこれ」


 功太が剣を鞘から抜き、全体を見せた。

 驚いたことに功太の剣の形状や色が前のと変わっていた。

 ゲームで使っている、いかにも上等な剣というよりも、もっとシンプルで、既視感のある形状をしていた。そう、例えば日本刀の刀身を背中合わせで付けた両手剣のような。

 それにしてもここまで変わるとは思っていなかったからまじまじと観察をしてしまった。

 ブリオンの剣シリーズを軽く見てみたりはしていたけど、こういう形状のものは見たことがなかった。とすると、功太のゴッズは完全オリジナルという事になる。

 何が基準でこう変化するのか興味が湧いた。


「すっげー…。日本刀みたいで超かっこいいじゃん」

「でしょ?僕もまさかこんな感じになるとは思ってなかった。てっきりブリオンでよく使っていたやつと瓜二つになると思ってたからさ」

「必ずしもゲームみたいになるということはないらしいってことかな」

「朝陽の弓はブリオンの形状のままだよね?なんかあるんかな、変化する条件みたいなの」

「なのかな?」


 とはいえ俺のエクスカリバーももとの形状から少し模様などが変わったけど。

 もしかして、俺のエクスカリバーも進化するんだろうか。だとしたらワクワクする。










 広間に到着すると、まだ皆は宿に戻っていなかった。それぞれ談話してたり、武器の手入れやドワーフ達と飲んでいた。

 功太が広間へと現れると皆の視線が功太に注がれた。

 その隙に俺は気配を消してクレイ達の元へと戻る。


「どこ行ってたんたよ」と目敏く見付けられたドルチェットに言われたが、すぐに散歩していたと答えた。嘘ではない。


「皆、聞いて欲しい」


 功太は腰の剣をベルトから抜いて掲げた。

 それだけで功太の“答え”が皆には伝わった。ド


「僕は戦う事を選択した。僕自身が相棒と向き合って出した答えだ」


 功太がそう報告すると、ルカとアリマは驚きの表情を浮かべていた。

 ルカはすぐに席を立ち、功太の前に来ると真剣な顔で訊ねた。


「コータ、良いのですか?だって貴方は逃げたかったのでは無いのですか?それなのに……」


 遅れて駆け寄ってきたアリマやラピスにも安心させるように微笑みながら功太はルカの問いに答えた。


「一人になった後色々考えたんだ。この世界に来てからの事とか、自分自身の事とか。本当は何がしたいのか。

 僕は、逃げてもきっと今までと同じことをすると思う。

 人を助けたい。

 ただの自己満足なんだけどさ、きっとそれが僕の性分なんだ。聖戦に参加することで人を助けることができるのなら、僕は最後まで剣を握るよ」


 言いながら功太は剣をベルトへと戻し、柄を撫でた。

 俺にはその行動が今度はきちんと相棒と歩むと宣言しているように見えた。


 そうだ。功太はお調子者で、それでいて凄く良い奴なんだ。

 逃げたいっていうのも、人を殺めるということから逃げたいという事だったんだろう。

 だから、そういったしがらみから解放された功太がこういう答えを出すこと事態は何もおかしくはないのだ。


 功太の答えを聞いてもなお心配そうなルカだが、彼女の気持ちも分からなくはない。

 功太が自分の仲間一人一人の顔を見る。

 先程まで浮かべていた微笑みではなく、今度は真剣な顔だった。功太は選んで。次は仲間達の番ということだろう。


「僕はそう選択したけど、三人は無理に付き合ってくれとは言わない。皆も好きに選択して欲しい。きっとこれからもっと大変になると思うし、引き返すなら今が一番だから」


 功太の問いに、三人は互いに顔を見合わせていた。


 それを見て俺はクレイに目配せした。

 ここからは功太パーティーのプライベートだ。

 俺の意図を理解したクレイは皆に合図し、こそこそと片付けをして退却した。

 もう大丈夫だろう。





 宿に戻りながらクレイが息を吐いた。


「これであっちのパーティーは問題解決って感じたな」

「なーんか疲れたぜ」


 言いながらドルチェットがわざとらしく首を鳴らす真似をした。

 色々あった1日だった。


「付き合ってくれてありがとうね」


 大事な親友を失うことになら無くて良かった。

 本当に皆には感謝していた。

 特にアスティベラードとクロイノだ。二人がいなかったら明日まで功太は生きていなかったかもしれない。

 二人には特別にお礼をしないとな。


「なんか奢れよ」とドルチェットが軽口を叩いてきた。


「じゃあなにか美味しそうなものでも仕留めてくるよ」

「鳥系で頼む」


 どうやらツクギーバは飽きてきたらしい。

 とびっきり大きいのを仕留めよう。










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