数値がバグったみたいです
前を行く青年を観察した。腕に変な装備つけている。ガントレットかと思ったが、ガントレットではない、なんだろう。
じっと見ていると、青年が話し掛けてきた。
「お前名前何て言うんだ?」
「俺?」
「そうお前」
どっちで言おうかと迷い、こっちで良いや。
「ディラ」
「へぇー、ディラか。おれはクレイ。お互い初心者、助け合っていこうぜ。 っと、着いた。ここだ」
クレイが止まり、とある建物を示す。煉瓦造りの大きな建物で、入り口にはグリフィンのシンボルが付いていた。
ブリテニアスオンラインの記憶を引きずり出す。
ブリオンのギルドのシンボルは帽子を被った狐。建物のデザインは近かったけど、惜しい。
「ここの中で登録出来るんだよね?」
「おう。中にクリーム色の髪の可愛い娘がいる。その子に訊ねれば教えてくれるさ」
「ありがとう」
「どーも!また縁があったらな!」
そうしてクレイが去っていった。
とんでもない善人だった。信じて良かった。
「いい人だったな。エクスカリバー」
返事をする訳がないエクスカリバーに話し掛ける。
「さて行くか」
ありがたいアドバイスに従い、クリーム色の髪の毛の女の子を探すためにギルドの中へと進んだ。
内部はかなりシンプルで、まるで役場のような雰囲気だった。
その中でクレイに言われたクリーム色の女の子を探すと、すぐに見付けられた。
受付の看板には登録処とあったからあれで間違いない。
よーしと無駄に気合をいれ、クリーム色の女の子へとまっすぐ向かった。
「こんにちはー!」
「はいこんにちは」
クリーム髪の女の子、もとい受付嬢は、俺の挨拶に素敵な笑顔で返してくれた。
クレイの推薦は、ナイスだった。
受付嬢は笑顔のまま、お約束の言葉を投げ掛けた。
「本日はどんなご用でしょうか?」
そうだったそうだった。
女の子で癒されに来た訳じゃなかった。
「冒険者の登録をしに来ました」
「分かりました」
受付嬢がカウンターに番号付きの札を置いた。
整理番号だろうか。
「こちらの札を持って、あちらの三番カウンターへ向かってください」
「はーい」
この受付嬢とはここで終わりかと少し残念に思いながらも、素直に案内された通りに三番のカウンターへ行く。
今度はピンクの髪の受付嬢が「こんにちは」と挨拶してきた。
「こんにちは。案内されてきました」
「札はお持ちですか?」
「はい」
これですと渡された札をカウンターに置くと、それを受け取った受付嬢が、
「確認しました」
と、色んな機械を取り出して並べ出した。
「以前に何かの登録などはされましたか?」
「いえ」
「では初回料をいただきます。20マルダです」
ポケットから道具屋の人から貰った追加報酬をカウンターに置くと、それをチャッチャと確認する受付嬢。手際が良いと感心する。
きちんと20マルダあったようで、小型金庫のようなものに仕舞うと、再び向き直る。
「はい。ではこちらの水晶へと手のひらを乗せてください」
差し出された水晶へと手を乗せると、水晶の中が白く濁り、すぐに真っ黒になった。
それを見た受付が「あれ?」と焦る。
「すみません失礼しますっ!」
わたわたしながら水晶が取り上げられてしまった。
もしかして壊してしまったとか?とディラは受付嬢の反応に内心冷や汗流していた。
「少々お待ちください」
受付が水晶を手に後ろにいた別の職人に声をかけてヒソヒソと何かを話し掛けている。
「……先輩、あの…」
「どうした?」
「測定器が壊れたみたいで」
「壊れた?どんな風に?」
「表示されたレベルがおかしくて…」
全部聞こえてる。
良いのかなぁ、聞こえちゃって…。
というか、もしかして俺冒険者になれない??
不安になりながらも二人の成り行きを見守り、ようやく進展があったのか二人してこちらへとやってきた。
「失礼します」
今度は男の人が担当するらしい。受付嬢が相談していた“先輩”とやらだ。
女の人の受付は後ろでハラハラとしながら先輩の対処の仕方を見守る事にしたようだった。
「もう一度手を乗せてください」
「…はい」
言われた通りに手を乗せると、また水晶は黒へ。
「うーん、バグってるのかな…。仕方がない」
男の人は水晶に繋がった隣の機械のキーボードへタイピング。
すぐに作業が終わり、男の人が営業スマイルで「お待たせしました」と言ってきた。
案外呆気なくてビックリして訊ねた。
「なにしたんですか?」
「少し数字がおかしかったので訂正しておりました。こちらが冒険者登録証になります」
とうぞと渡されたのは、先ほどクレイの首に下がっているものと同じもの。
まじまじと見て、首から下げてみた。
「じゃあ後はよろしく」と、男の人から受付嬢へとチェンジ。
受付嬢が席に着くと、ようやくいつもの仕事ができると安心した顔でこう言った。
「登録証の説明などをお聞きになりますか?」
そんなのあるんだ。
聞いておいて損はないだろうと思い、聞くことにした。
「お願いします」