だいたい忘れた頃に拾ったモノが出てきて驚くやつ。
「これが印の正体…」
中を見ると黒いドロッとした液体がまるで意思を持っているように動いており、時折印と似た模様が見え隠れしている。
近付いて見てみると、こちらに向かって飛び掛かろうとしたが、珠の中からは出てこないらしく、内側の円に沿って滑っていった。
俺を少し押し退けながら同じく覗き込んだドルチェットが「うええっ」と顔をしかめた。
「なんだこれ、気持ち悪!」
「なんだかスライムっぽいよね」
お互いに感想を言い合っていると、背後にいるクレイがぼそりと一言。
「こんなスライム嫌だろ。きしょい」
そういえばこの世界でスライムを見たことないけど、こんな感じではないのか。
俺とドルチェットとは反対方向からジルハが珠を観察しはじめ、こちらも感想を言う。
「確かにこれは植物っぽい匂いはしませんね。どちらかと言えば油のような…」
匂いなんかするか?と嗅いでみたけど分からなかった。
珠をまじまじと観察する俺達と対照的に、功太パーティーが引き気味になっている。まぁ向こうはこれのせいで散々な目に遭っているから仕方がないだろう。
振り返ってアスティベラードに訊ねた。
「これもう無害化してるの?」
「うむ、クロイノの膜によって封じ込めてある。どんなに足掻いたところでそこから出られはせぬ」
「凄いなクロイノ」
さすがはチートのクロイノ。もはや驚かなくなってきた。
当のクロイノはアスティベラードの隣で得意顔をしていた。
全身真っ黒だから見えないはずなのに、なんだかそう見えてしまう不思議だ。
「観察はもういいのか?」
皆を見るとすでに興味を無くしつつあった。
「うん、もういいよ。ありがとう」
「そうか。クロイノ砕いてよいぞ」
ぐ、とクロイノの尾が軽く蠢き珠を呑み込む、次の瞬間リンゴが砕けたような音がしたかと思えばクロイノの尾の先からドロリとした液体が零れてきた。
そのまま床に広がるのかと思いきや、床に着いた瞬間に蒸発していった。
「ん?」
そのなかで一つだけ蒸発しなかったものを見付けた。くたびれたヒモみたいなものだ。
試しに触ってみるけど、黒い液体に浸かっていたから色が着いたヒモかと思いきや、感触はぐずぐずに腐った根っこのようだった。
それにしては滑りもなく指先も濡れない。
なんだろうこれ。
「おっと!大丈夫か?」
ガクンと力が抜けたらしいルカを近くに居たクレイが支えた
ルカは突然体に力が入らなくなって驚いているようだった。
「ルカさん!大丈夫ですか!?」
心配そうにしているウサギ少女にアスティベラードに言った。
「呪いとの繋がりが切れた反動であろう。しばらくは体がフワフワするとは思うが、数日で戻る」
「そ、そうなの?じゃあダイジョブなのよネ?」
「しっかり食べて寝れば回復も早い。のう、ノクターン」
「はい…」
下がっていたウサギ耳がぴんと立ち、表情が明るくなった。
「わ、わたし!なにか食べるモノがないかたずねてきまス!」
そういうやウサギ少女が部屋を飛び出していった。
「ちょっとラピス!一人は危ないわよ!」
そしてそのウサギ少女を追い掛けてアリマも部屋を飛び出していった。具合の悪そうなルカは放置されているんだが、いいんだろうか。
そう思いつつルカを見るといつもの事なのか自力で用意されたベッドへ行こうとしているのをクレイとドルチェットに支えられていた。
なんだろうな。功太のパーティーって自由人が多い気がする。
それにしてもと俺はアスティベラードを見た。
今はノクターンと共にクロイノを撫でて誉め誉めタイムに突入していた。
なんでアスティベラード達はこんなに呪いに詳しいんだろうな。いや、クロイノがマーリンガンいわく呪獣というやつで、アスティベラードが呪獣使いだから詳しいのかもしれない。
「さてと」
それにしてもなんだろうこれ、と、足元の根っこを見やる。
あの珠を割ったら出てきたモノだから、印に関係ある事なのは間違いない。
なんともなしにその黒いぐずぐずを拾い上げた。
やはり根っこは湿っている見た目をしているくせに乾燥をしていた。
こういう時に鑑定のスキルとかを持っていればなにか分かったのかもしれないけれど、残念ながら俺は盗賊でもなければ商人でもなかったので分からなかった。
手で解せるかとやってみたけど、不思議なことにびくともしない。なんだろうこれ。
「マーリンガンに聞いてみるか」
その方が早そうだと、根っこをポケットにしまいながら功太を見ると、安心して気が抜けたのかベッドに横になってた。
「功太、一応念のためにもう一度印確認してもいい?」
「うん、もう何でも調べてよ。任せる」
本人からの許可を得たので、ノクターンに頼んで功太にもう一度罠看破を掛けたけど、今度は何も浮き上がらなかった。
本当に呪いは解除されたようだ。安心した。
「功太も反動きてる?」
「みたいだな。眠くはないけど、体に力が入らない。インフルエンザに掛かったみたいなダルさ」
「あのしんどいやつかぁ。寝とけ寝とけ。食べ物は運んでおくよ」
「何から何までありがとうな、朝陽」
「親友だからな!」
そう言うと、功太は小さく笑ったのだった。