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戦闘狂蔓延る平和な世界…??

「私はルカ、いえ、ルーカ・スーニャ。教会に古くから仕える影の一族、スーニャの一員です。…この印はスーニャの印、そして一生を教会に捧げると誓った証でもあります」


「ちょっと…!」と、アリマがルカを止める。


 その顔は本気で驚いているように見えた。


「それ、話しちゃって良いの…!?だって、それを話したら貴女が……」

「これで私がどうなろうと構わない」


 ルカが凛とした声で言い放つ。


「コータの武器が粉々になっているから、きっと感知も鈍い。もし感知されたとしても私はこのパーティーを抜けて一人で最期を過ごします」


 ルカがそう言えばラピスが悲しそうな顔をして俯いた。

 どうやらこれからルカが話す内容は本当にヤバイ事なのだろう。


「その前に一つ貴方に訊ねます。コータから“何か”聞きましたか?」

「何かって…」


 どれの事を言っているんだろう。いや、一番驚いた事実があった。


「…………、功太の無銘の神具(武器)が偽物だって話しのこと?」


 皆がどよめく。

 ドルチェットが「ハァ!?どういうことだよ!!」と今にもルカに詰め寄りそうな雰囲気になっているのをクレイとジルハが体を張って止めていた。

 そりゃ驚くだろう。だって俺も驚いたし。


「やはり聞いていたのですね」

「でも、なんで偽物を功太に?そもそもゴッズの偽物ってなんなの??そんなの出来るの??」

「…………、…コータに渡された武器は、教会からゴッズの一部を混ぜ込んだ、“聖具”と呼ばれるものです」


 ルカの言うことでは、功太の武器は教会から渡されたゴッズを混ぜ込んだ、神具ではなく“聖具”と呼ばれるものらしい。

 ソードのゴッズ、本物はまだ教会が保有していて、誰の手にも渡ってはいない。

 前々から教会はゴッズを利用して、ゴッズに似た性質の武器を量産できないかと長年研究をしていた。

 功太のその武器はその成功品の一つ。

 聖具を持つ功太が問題なく聖戦に参加できているのが、ゴッズの性質を武器に宿らせる事に成功したという証、ということらしい。


「なんで量産化しようとしているの?」

「分かりません。けれど、もしかしたら教会はゴッズの特性を利用して超人を増やし、戦力として使おうと思っていたのかもしれません。……ゴッズは夢に手が掛かる鍵ですので…」


 一瞬意味が分からなかったが、すぐに聖戦でのメリットを思い出した。夢というのは恐らくレベルの上限突破の事を言っているんだろう。

 この世界の人間のレベル限界上限はかなり低い。だから聖具を使って聖戦に参加すれば強い駒が量産しやすくなるってことなんだろう。

 レベルが低いよりは高い方が言いというのは分からなくはないけれど、それはあまりにも功太に対してあんまりじゃないだろうか。

 勝手に召喚して、勝手に勇者に仕立て上げたかと思えば、命を預ける相棒は贋作とか。

 フツフツと怒りがわいてくる。


「コータはそれでも戦ってくれていました。自分の武器が本物ではないと確信を得た後でも、人々の為に理想の勇者に成るためにと頑張ってました。

 だからこそ、……だからこそ堪えられなかったんだろうと思います」

「期待とか、そういうの?」

「いいえ…。………、あなたの命を奪うように命令された事をです」

「!」


 そうか、俺のエクスカリバーを取り戻そうとするならば、俺を殺すという手段が出るのは当然の事だった。

 思えば、初めに捕まった時も死刑になる予定だったとかなんとかだった気がする。


 ルカの説明は続く。


「本来、貴方の持つゴッズは、とある名家の元へと渡される予定となっていました。ソード程の威力は無いものの、ある一定の条件が揃えばどんな武器にも変じる特殊なゴッズだったからです。

 それが想定外の余所者が持っていったとなれば死に物狂いで取り戻したいと思うのは当然でしょう」

「まぁ…、それはそうだね」


 それには同意するし同情もする。

 俺もマーリンガンに唆されなければアーサー王の真似なんかしなかったさ。けれど抜けてしまったのは仕方がないし、死にたくないから死に物狂いで逃げているだけだ。

 …………あれ?これすべての元凶マーリンガンなのでは?


「まぁ、だからこそ私もガンウッドも貴方の事が嫌いでしたし、教会の意向には賛成でした。……けれどコータはそうではありませんでした…。私たちは忘れていたのです。


 彼は勇者以前に 一人の青年 だと言うことを」


 ルカが眠る功太を見やる。

 先程よりも穏やかな顔になっている。ノクターンの魔法とドワーフがくれた痛み止め薬が効いているのか。


「思えばその頃からでしょうか。コータが教会に不信感を抱き始めたのは。

 いつも優しかったコータが少しずつ変わっていっていたのを感じました。教会はゴッズの影響と言っていましたが、それにしてはあまりの変わりように驚いたものです」


 聖戦での功太を思い出す。

 確かに俺も功太の様子がおかしいことに気付いていた。

 もっと早くに話が出来れば良かったけど、そんなのは結局は無理な話だった。

 なにせ俺は追われる立場だったし、もっとしっかりと向き合って話をすれば良かったと後悔しています。


「今までは命令だけでしたのでコータは貴方に接触できない事を理由にしていました」


「けれど…」と、ポタリとルカの瞳から涙が溢れた。拳は強く握り締められ、悔しそうに顔を歪めている。


「教会はいつまでたっても命令を遂行しないコータに業を煮やし、この印を使ったのです…」

「この印を使ったらどうなるの?」


 ルカの震える手が心臓の真上にある印に触れる。


「…私の心臓は、この印を刻まれた瞬間から教会の物となりました。裏切り者を許さない彼らは、コータの目の前で裏切り者はこうなると印を発動させ、見せ付けたのです…っ!」


 記憶と共に甦った苦痛で過呼吸になりそうなルカの背中をアリマが擦り、うさみみ少女がルカの手を握る。


「……心臓を握り潰される激痛は、結構辛いのですよ…。

 痛みにも苦痛にも堪えられるように訓練された私でさえ、のたうち回って悲鳴を上げてしまうくらいには…」


 後ろでノクターンが小さく「酷い…」と言っているのが聞こえた。

 まさか身内に対しても鬼畜だなんて思わなかった。

 教会のとんでもないパワハラ気質に俺は絶句したし、ドン引きした。


「その時は命拾いをしましたが…、期限以内に決行し、成功させなければ私は殺される事になっていました…。彼の足枷にはなりたくなかったのですが…」


 砕けた武器をルカは虚ろな瞳で見詰める。


「武器が無くなってしまえば貴方を殺す手段は無くなり、命令遂行は不可能。後数日で私はもがき苦しみながら死ぬでしょう。

 ……あ、違いますね。

 この事を話してしまった事を監視が教会に報告するでしょうから今夜が私の最期になります。武器が壊れたからもう少し猶予はあるかもですけど」


 ふ、と笑みを浮かべながら寝ているコータへとルカは視線を移す。


「もう一度コータの笑顔を見たかったですが、仕方がありません」


 ルカは上着を整えるその顔はいつもの飄々としたものへと戻っていた。

 ルカの話を聞きながら俺は考えていた。

 ゴッズを壊せばルカは死ぬことが決定していた。なのになんで功太は俺を使ってゴッズを破壊させたんだ?自分のせいでルカを死なせなくないのなら、それは悪手じゃないのか?

 そこまで考えて、一つの可能性に行き着いて青ざめた。

 まさか、あのスキルを使おうとしていたのか?


「すぐにでも私は此処を経ち、一人穏やかな時間を過ごします。もう二度と彼に惨めな姿を見せたくはありませんので」

「ねぇ、なんで、自分が話すと死ぬと分かっているのに話してくれたの?」


 ふ…とルカが口許に小さく笑みを浮かべた。先程とは違う、いたずらっ子がするような笑みだ。


「嫌がらせ、ですかね。生まれて始めての反抗期かもしれません。

 いくら心の底から教会を信じてきた私にだって、好きな人が此処まで追い詰められているのを見ていれば“正しさ”を疑うのですよ。

 確かに教会は世のために働き、人を導く為に汚いことも散々やってます。その為のスーニャ一族ですので。

 けどそれは全て平和に生きる人達の為と教えられてきました。誇りあることと、平和の礎になるのだと。私が汚れていくほど世界には平和が満ちていく。

 そう信じてました。だから私は良いのです。

 でも彼は、コータは“違う”でしょう?」


 聞きましたとルカが言う。


「貴方とコータは此処よりも安全で平和な世界から来たのだと」


 その瞬間「平和…??」と皆からなぞ視線を向けられた。

 なんでそんな視線向けるの?平和だったよ凄く。


「そんな方をこちらの都合で呼び出した挙げ句、このような騙すような事を平然とするのに私は失望したのです。

 だって本来ならコータはあちらで幸せに暮らせたはずではないですか。何の罪も戒めも契りもない彼があまりにも報われなくて。

 だから嫌がらせです。

 きっと教会は大慌てで次の人を送ってくるとは思いますが、私としては贋作とはいえ神具から解放された彼はこのまま隠れて穏やかに暮らしてほしいと思っています。

 幸いにもコータには武器以外に印は付けられていませんので」


 ルカはアリマとうさみみ少女の手を取った。


「コータと貴女達だけなら逃げ切れる」

「だから…なに勝手なことを言ってるんだって…」

「!」


 声の方向に目を向けるとコータが目を覚ましていた。


「功太!起きたのか!」

「少し前から意識だけは戻ってたんだよ…、動けなかったけど…」


 功太が頑張って起き上がろうとするのをアリマが手伝う。


「君一人だけ何処かに行くなんて、僕は許さないよ」

「コータ…、でも…」


 功太に言われてルカが狼狽えている。きっと功太が目覚める前に立ち去りたかったんだろう。

 でも俺にとってはちょうど良かった。功太に聞きたいことがあったから。




「ねぇ、功太。もしかして【引き取り】のスキル使おうとした?」



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