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午後授業の一番の敵は睡魔


「こんなことを頼むのはおこがましいのは分かっておりますが…。お願いします、コータの傷の治療をしていただけませんか!」


 お願いします!と必死に懇願するルカに俺は困惑した。

 困惑しながら俺は視線でクレイに助けを求めると、クレイが何かをいう前にドルチェットがルカに言った。


「お前ん所にも魔術師いるだろ?」


 ルカはうっという顔をして視線を下へと反らした。


「アリマは、その、治療魔法が苦手で…」


 間髪いれずにアリマが物凄く申し訳なさそうに「…………攻撃系でごめんなさい……」と謝ってきた。


 こればかりは仕方がないと思う。

 使える魔法の素質っていうのは、その人の才能によるものが主らしいと、ノクターンに聞いた。

 例えばノクターンのような補佐系の魔法使いは回復魔法を覚えやすくなる代わりに攻撃系が発現しにくくなり、逆に攻撃系の魔法使いは補佐系の魔法が覚えられないのだと聞いた。

 いわゆる超文学系か、超運動系か。

 希に両方できる才能マンがいるらしい。

 ブリオンではそんなこと無かったから不思議な感じはするけど、多分回復や治療には肉体の構造とか作用とか知ってないといけないらしいから、その勉強が得意かそうじゃないかで分かれるんだろう多分。


 そんなルカ達を見てクレイはどうしようかと考えているようだった。

 俺の友達とはいえ、功太は町を攻撃し、俺とやり合ったという事実がある以上、パーティーリーダーとしてハイそうですか分かりましたと言えないのだろう。

 被害者のモンドもいるし、ある程度の分別は付けておかないと今後に響く。恐らくそんな感じだ。

 だけど、理由を知った俺としては助けてほしい。

 功太はずっと苦しかったろうから。


 チラリと功太を盗み見ると出血が増えていた。

 彼女達に揺すられたせいか分からないけど、これはそろそろ手当てしないとまずい。


「クレイ、俺からも頼むよ…。こいつは、功太は本当にやりたくてやったんじゃないんだ…」

「……ディラ」

「本当は俺が回復させれるんだけど、流石に疲れて眠すぎて…、……あと背中いたい……」


 今まで気にならなかったけど、ジワジワと痛い。

 血は出てないと思うけど、やっぱり受け流しスキルが発動できなかったのが良くなかった。

 ちなみにその後もスキル発動できないままだった。


「はぁー、分かった」


 俺の懇願でクレイが折れてくれた。

 襲われた本人に言われればって感じだろう。


「ノクターン頼めるか?」

「は、はい…」


 クレイに言われてノクターンが功太の治療に取り掛かる。矢を取り除いての止血だ。

 スキルで生成した矢なので抜けやすいように矢尻だけ消す。これで治療がしやすく、かつ、出血も最小限で済む。

 とりあえずは大丈夫だろう。


 ああ、そうだ。これも言っておかなくちゃと、空気に徹していたモンドへと声をかけた。


「モンドさん…」

「な、なんだ?」


 呼ばれると思っていなかったモンドが俺に声をかけられて挙動不審になっていた。


「嫌なこと承知でお願いなんですけど、コータ達に宿を一つ貸してくれませんか…?」


 その言葉でルカ達が驚いた表情で俺を見てきた。

 まさか目の敵にしている俺がこんな提案をするなんて思わなかったのだろう。

 内情を知らなかったら俺だって助けようとは思わなかったさ。でも、今回は別だ。

 ううむ、と悩んでいたモンドだが、俺が真剣な顔でじっとモンドを見ていると、一つ溜め息を吐いた。


「…………、仕方がないな。俺がなんとしよう」

「ありがとうございます…!」


 良かった。

 ホッとした瞬間、あまりの眠気に視界が大きく揺れ始めた。酷い眩暈のように視界が定まりにくい。

 おかしい。なんでこんなに眠いんだ。

 聖戦戻りでも此処まででは無かったのに。

 この異常な眠気に必死に抵抗する。本当なら秒で眠りたいレベルだが、俺まで寝てしまったら誰が功太を運ぶんだと頑張った。

 頑張れ負けるな起きろ俺。心の中で己を鼓舞する。しかし足をつねっても腕をつねっても眠気が治まらない。

 昼食後の午後一の授業、もしくは水泳後のどうにもなら無いあの強烈な睡魔と良く似ている。


 じゃあ行こうか、とクレイが言った後に俺の様子に気が付いた。

 俺の前に来て手をひらひらさせて反応を確認していた。


「…………歩けるか?」


 クレイが訊ねてきたので頑張って返事をする。


「ダイジョブあるける」

「駄目そうだな」


 クレイにダメ判定を受けた。

 そうか、そんなにも駄目そうに見えるのか。なら仕方がないな。


 ぐわんぐわんする意識のなか、クレイの声が聞こえる。「ロエテム、ディラ頼めるか?オレがそこのコータを背負うから」と。それにロエテムが敬礼した。

 何処でその仕草覚えたんだろう。


「クレイ、そこの功太の武器も忘れないでね…」

「ハイハイわかってるって」


 改めて功太の武器を見て、俺は違和感を覚えた。


「……クレイ、ちょっと待って」


 クレイが功太の武器を拾おうとするのを静止し、すぐに功太の武器のもとへ向かう。


「どうした?」

「いや、ちょっと…」


 気のせいかもしれないけど、確認をするべく折れた箇所を覗き込んだ。

 中は功太のいうとおり空洞のようで、しかしその奥にはゴッズの欠片すらない。欠片すら無いなんて思わなくて愕然としたが、ふととある疑問も沸いてきた。

 ならなんでゴッズと同じようなことが出来たんだ?


「?」


 カタカタと小さく剣の砕けた破片が動いていた。

 ひゅうと小さく風を感じ、しかもそれは剣から発せられているのに気が付いた。


「風…?」


 不思議なことに欠損した場所で小さく風が渦巻いており、それが徐々に煌めいて集まって、ゆっくりと見覚えのある金属の棒へと姿を変えていく。


「え?」


 それは見覚えのある形状のものだった。不思議な光沢を宿した金属の棒が剣の柄から生えている。

 これ、本物の無銘の神具(ノーネームゴッズ)か?

 何故何もない場所から現れた疑問はさておき、ならなおさら急いで回収しないととゴッズを掴もうとして、慌てて手を引っ込めた。

 急いでマントを外してそれにくるむ。


 これは功太のだ。俺が触っちゃいけない。

 何故か分からないけどそう感じた。


 結局俺が功太のゴッズを抱える事にした。

 この中で誰よりもゴッズの取り扱いを知っているからという理由だ。

 正直自分も良く分からないけど、功太以外が直接触れたらまずい気がしたのだ。




 ノクターンによる功太の治療があらかた済み、俺のは痛いけど大丈夫だから後でとお願いして、まずは町へと移動することになった。





 俺がロエテムの背中で爆睡していた間にモンドが必死に説得してくれたらしい。小さいながらも宿を貸して貰った。

 警戒はしているので護衛と言う名の見張りは付いているが、それは仕方がないだろう。


「ふぁぁ…、…すっげー寝た感じ」

「よくあんな状態で寝ていられたよな」

「仕方ないじゃん。眠かったんだよ」


 少し寝たお陰でスッキリな頭で功太の様子を見る。

 功太はまだ目が覚めない。

 治療は終わっているが、恐らく俺と同じように凄い睡魔に抗えなかったんだろう。


「じゃあオレは外で話をしてくるから、ここで待っててくれ」


 そう言ってクレイが部屋を出ていった。

 功太の引き起こした被害云々の話だろう。


 そんなこと知りもしない功太の仲間達はまるで死んでいるみたいに寝ているので、何度も功太の呼吸と脈を確認していた。

 気持ちは分からないでもない。


 功太の武器は近くの机に綺麗に並べている。

 目が覚めた後にマントから清潔な布に移して貰ったのだけど、その時に残された柄部分も砕けてしまったのだ。

 一瞬どうしようと思ったのだが、なんとなく大丈夫な感じもした。


「ん?」


 そこでふと足りないモノを思い出した。しばらく何だろうかと考え、ハッとした。

 あのうるさい奴がいない。

 いつもなら誰よりも先に俺に殴り掛かってくるであろう奴が影も形もないのである。何故だ。


「ねぇ、あいつはいないの?」


 話しかけやすそうな魔術師、アリマとか言ったか、その人に訊ねると、あいつ、という言葉でピンときたらしいアリマが気まずそうに目を逸らしながら答えた。


「……クビになりました」


 俺関係以外でも何かやらかしたんだろうな。


「というか、上の方に呼び出されてそのまま戻って来てないから、多分別のところに移動になったんじゃないかしら。彼、教会から派遣された人だったみたいだし」

「……なるほど?」


 思えば結構な思い込みの強い奴だったけど、裏返せば忠誠心の強そうな奴だったから教会の人間と聞いて妙に納得した。

 思い込みの強さはあの念入れ男と通じるものがある。


「ただいま」


 外でドワーフ達と話をしていたクレイが椅子を四脚担いで戻ってきた。

 その椅子をルカ達の方に置き、俺の隣にも設置。

 そしてクレイは部屋にあった椅子に腰掛けた。


「落ち着いたらところで君達に聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」


 三人は困った顔をしながらもクレイに言われた通りに大人しく椅子に腰掛けた。俺も腰掛けた。

 これから尋問を受けるのは彼女達なのに俺も謎に背筋が伸びる。


「ディラを襲った理由はなんなのか知っていたら教えて貰いたい。さすがに何もなく襲った訳じゃないんだろ?さすがにその理由を聞かされない限り、ディラはともかく“オレ達”は警戒を解くことはできない」


 そういえば襲った理由を聞いたのは俺だけだった。

 慌てて説明しようとすると「あの!」とルカがそれを遮った。


「その…、……、…………私が原因です…」


 ルカが顔を伏せながらも必死に言葉を紡ぐ。


「か、彼は優しいから、私が殺されないようにと、自身の意思をねじ曲げて教会の命令に従ったのです」


 おや?と思った。

 もしや理由は複数あったのか?


「どういうこと?」


 訊ねるとルカは上着をはだけさせ、ちょうど心臓の位置にある刻印を見せた。


「これは、服従の印です」




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