大喧嘩
案内したのは昨日皆にスキルを見せた場所の、更に進んだ場所。
ここなら攻撃の余波が町に届いたとしても微々たるものだし、その前にクレイが止めてくれるだろう。
おそらくさっきまでの攻撃はクレイが止める前提での“挑発”の攻撃だったのだろうし、でなければもっと大変なことになっていたはずだ。
「じゃあ始めようか」と功太は言った。
ブリオンでのPVP(プレイヤー同士での対戦)のようにある程度の距離をおいて配置に着く。
馴染みのある距離と光景だけど、ひとつだけ違う点があるとするならば、これは力試しの楽しい対戦ではなく、命を懸けた殺し合いだってこと。
功太は既に武器を抜いていて、スキルだって複数纏わせていた。
「…………」
俺は再確認のために功太に問い掛けた。
「なぁ、本当にやらないといけないのか?」
「言っただろ、事情が変わったって。
それに…どっちにしてもその内こうなる事にはなってたよ」
言いながら功太が剣を構えた。
「朝陽もほら、構えろって。安心して良いよ。流石にPVPのマナーくらいは守るから」
見てみると、功太の剣からはすべてのスキルのエフェクトが消えていた。
本当にプリオンのPVPのルールに沿ってやるらしい。
ブリオンのPVPでは、開始と同時にスキルなどの発動をしなければならない。それ以前の発動は反則負けになるというルールがある。
良かった。流石にレベル差があるとはいえ、事前スキル発動での戦闘開始は勝ち目がない。
それなら、これも聞いておかないといけないな。
「敗けの条件は?」
「そんなの、相手が戦闘不能になったらに決まってるじゃないか」
功太が近くにあった石を拾い、上へと投げた。
それを眺めながら俺はエクスカリバーを展開した。
やるしかないか。
石は落下し、地面で跳ねる。その瞬間、俺は大量のスキルを発動した。
【身体向上・大】【筋力増加】【身体強化】【動作加速】【攻撃力増大】【千里眼】【弓矢生成】【受け流──
「!!?」
ドバァンッッ!!!と凄まじい音ともに功太の攻撃が発射された。
なんだ!?時間的にまだ功太のスキル展開は済んでいない筈!!
混乱しつつも慌てて功太の攻撃を回避すると、今まで立っていた地面が盛大に抉れている。
転がりながらも次々に繰り出される飛び攻撃をかわしながら俺も牽制とばかりに功太に矢を打ち込んだ。
弾かれたらしい甲高い音が砂埃の中から聞こえた。
「うわっ!?」
間髪いれずに砂埃を切り裂いて功太お得意の貫き特化の攻撃が飛んできた。あのレーザービームだ。
身を捩って避け、功太の居場所を探る。
あいつ、狙い撃ちしてきた。
本当に本気なんだと冷や汗が流れる。
砂埃が消えていくと、スキルを重ね掛けをしている功太の姿が現れた。
…………ヤロー、こっちはスキル発動を攻撃キャンセルさせたくせに。
「そんな卑怯は嫌いだったんじゃなかったのかァァー???」
「はっ!こんな糞みたいな世界で卑怯もなにもねーよ!!!」
俺と功太が同時に攻撃用スキルを発動し、一斉攻撃を開始した。
凄まじい音がここまで轟いてくる。
戦闘している箇所は常に砂埃が舞い上がり、その砂埃のせいでどんな戦いが繰り広げられているのかよく見えない。
かといって近付くのは命取りになりそうだ。
現に今でさえこの場所まで戦闘の衝撃がやってきてるのだ。と、前方に展開した盾で受ける衝撃を感じながら思った。
何せ普通に地面が抉れたり盛り上がったりしているのが此処でも確認が出来た。
普段近くにいるから気が付かなかったが、離れて見てみるとディラもコータという人もやはり化物じみていると実感した。
戦闘場所を睨み付けるように目を凝らしているドルチェットが言う。
「あのコータってヤツもディラと同じ世界から来たんだよな?あいつらの世界ヤバイのしかいないんだな」
「地形がめちゃくちゃになってそうですよね」
あり得そうな考察をしてくるジルハに同意する。
実際はどうなのか気になるが、今はまずディラの心配が先だ。
大丈夫だと思いはするが、変なところで気を抜くアイツだ。安心しきれない。
「ところで奴は何者なんじゃ」
ディラが心配と着いてきたモンドが訊ねる。
「友人と言っておったのに殺し合いをしておるじゃないか。本当に友人なのか?」
それにアスティベラードが視線を前に向けたまま答えた。
「……なにやら複雑な事情があるようなのだ。…私らでは解決できない事情だ」
「……そういうもんか」
「どちらにせよ、私達は見守るしかあるまい」
そうだ。結局のところオレ達は信じて待つしかないのだ。
「…………勝てよ」
「ぅらああああああああ!!!!」
「このやろうゥゥゥゥ!!!!!」
斬撃飛び交い、矢が雨のように降り注ぐ。そんな地獄のような場所で弓と剣で殴り合っていた。
本来なら功太の剣で弓であるエクスカリバーなんか真っ二つにされそうなものだが、そこはやはり神具ということなのだろう、真っ二つにされる前に何かに阻まれて弾かれた。
功太が舌打ちをする。
「やっぱりゴッズ同士は破壊できないってのは本当だったのか」
なにそれ初耳なんですがと突っ込みを入れたいが、そんな余裕はない。
瞬時に功太が切っ先をこちらに向けてビームを放ってきた。
このビームは溜めがない分威力は弱いものの連発ができ、しかもそれなりのダメージを与えてくるものだ。
長所は連発が出来る点だが、溜めの無いビームはある程度の距離を取れば威力が更に下がるという弱点がある。
軌道を読んで回避しながら距離を取りつつ、矢を功太に向けて大量に射ち放つ。
それをまともに受ければ簡単に貫く俺の矢を、功太は切り払い回避した。
その攻撃のいなし方を見て俺は考えた。
確実に功太のレベルが上がってるな。
前は俺のこの攻撃を切り払うなんて出来なかった。
「とすると、今までの功太と思って相手をしてるのはまずいか」
次の瞬間、功太の姿が掻き消えた。
「え」
ゾワリとうなじが粟立ち、咄嗟に屈むと頭上で風切り音、遅れて前方に衝撃が飛ぶ。
こいつッ!首狙ってきやがった!!!
「てめぇっ!いい加減にッッ!!」
ピンと視線が突き刺さった。
なんだ?なんで功太の方とは違うところから視線が──
「よそ見する暇あるのか!!?」
「!!」
全身に凄まじい衝撃が走る。
地面に激しく叩き付けられたみたいな衝撃だ。
受け流しのスキルの発動が出来なかった為に、もろに衝撃を受けた。
「あ"…ッ」
しまった。ソードマンお得意の高速剣だ。
いつも飛ばし攻撃ばかりで忘れていたが、本来はソードマンは近距離特化の職業だ。
良かった、ドワーフの装備がなかったらこれで戦闘不能になっているところだ。
職人ドワーフとハーフマン達に感謝しながら、歯を食い縛り気絶するのを耐えた。
それと同時に俺の中でブツリと何かがブチ切れた音がした。
わかった。もう怒った。
「ふんッ!!」
地面に向けて弓を発射した。射ち込まれた地面が砕けて足場が崩壊する。
しまったという顔の功太に笑ってやった。
「此処がブリオンじゃないって事を忘れてたな!?固定ステージじゃないから地形を変えられるんだぜ!!」
反撃とばかりに俺は中断されたスキル発動をしつつ、バランスを崩した功太へと矢を向けた。