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適正属性というものがありまして

 ツクギーバ討伐3体目を達成し、その近くを彷徨いていたツクギーバがゆっくりと俺達から遠ざかっていくのを確認した。

 あの個体は今までのツクギーバよりも知性が高いようで、普通なら俺達を見付け次第襲い掛かってくるものだが、ヤツはこちらを用心深く観察したあと、逃げるという選択を取った。


「モンドさん、どうします?」


 今回も同行したモンドに訊ねると、モンドは遠ざかるツクギーバを見て、ふむ、と言った、


「ヤツは見逃そう。もともと一体は居たのだ。アレはいるだけで他の魔物がこの土地に入ってくるのを避けるし、アレもアレであまり調子に乗ると録な目に遭わないということを学んだろう」

「ふーん」


 そんな訳で残ったツクギーバは見逃した。

 突進するしか能がないツクギーバにも熊みたいな知性はあるらしい。






 宿に戻ると、突然ドルチェットがひまひまひまと床で暴れ始めた。

 その暴れ様にデジャヴを感じたので何だろうと記憶を巡らすと、脳裏にセミファイナルが浮かび上がった。

 そういやこの世界でセミ見てないな。


「なに?どうしたの?」


 とはいえこのまま暴れさせていても邪魔なので、暴れているドルチェットの近くのイスに座って武器の手入れを始めたジルハに訊ねた。

 ジルハはドルチェットを一瞥もせずに答えてくれた。


「討伐も買い出しも終えてしまったので暇で死にそうになっているんですよ。ドルチェットはまったりできる性格じゃないもんで」

「ああ、なるほど?」


 納得の理由であるけれど、ちょっとドルチェット小馬鹿にしてないかな。

 暇暇と暴れていたドルチェットだったが、さすがに部屋のど真ん中だったので最終的にクレイに退かされてセミファイナルは終わった。

 今はベッドに腰掛けて謎に体を揺らして凄い顔で暇潰しをしていた。

 どんだけ暇が苦痛なんだろうか。


 仕方ないと、俺はドルチェットに提案をすることにした。

 せっかくドワーフの町にいるんだから、有効活用しないと勿体無い。


「そんなに暇なら鍛冶屋とか覗いてくれば?」


 俺がそう言えば、ドルチェットが「ハァ?」という顔を向けてきた。


「鍛冶屋なんて覗いてどーすんだよ!つまらないだろ!」


 ドルチェットの反応で、俺は「あれ?」と首を捻った。

 もしかして知らないのだろうか。


「ドルチェットの相性が良い属性は火だよね。スキルもだいたい火に関連しているものが多く出てるでしょ?」


 予想外の質問だったらしいドルチェットは一瞬キョトンとしたかと思えば少し考え、頷いた。


「……まぁそうだな」

「火なら鍛冶屋に行けば新しいスキルが生まれる切っ掛けにはなると思うよ。鍛冶屋は火と鉄に深く関係するところだし、剣の成り立ちを知れば何かしら発見があると思う」

「発見?」

「うちの場合は、自分に合ったスキルを更に強くするために、一番関係のある場所に足を運んでたんだよ」


 ブリオンでは発現させたい特定スキルがあると、そのスキルの相性がよい場所に行って習得するものがあった。

 一番わかりやすいのが【釣り】スキルだ。

 いわずもがな、水辺に行って竿を購入して釣りを何度もチャレンジすれば発現する。

 それと同じように攻撃系スキルや属性スキルの習得も、それに関連する場所に赴いて鍛練すれば良いのだ。

 最もブリオンではある程度ならどこがどのスキルが発現させやすいのかを表示してくれるから助かっていたけど。


 とりあえずドルチェットが俺の話を黙って聞いてくれているので説明を続けた。


「例えばなんだけど、俺の友達の功太は風属性なんだけど、よく険しい山へ足を運んでたよ。そうしたら剣士だけど風関連のスキルが結構出てさ、ほら、あいつの斬撃って飛ぶじゃん。あんな感じで攻撃範囲が広がったんだよ」


 功太の恐ろしく広い攻撃範囲はその属性スキルによる恩恵が間違いなく大きい。

 理由としては同じ剣士でも火の属性が強い人だと破壊力が爆上げするし、発火以外にも爆発や閃光などの関連スキルが増える。

 風だと功太のような攻撃範囲が弓並みに広がったり、瞬間移動のようなものや不可視の攻撃のスキルが増えたりする。

 俺がドルチェットにアドバイスするのは、ドルチェットが火の属性に相性がよい剣士と同じスキルを獲得していたからだ。


「へぇー!おもしろいな!」


 上手い感じにドルチェットが食い付いてくれたので、このまま大人しく鍛冶屋見学に向かってくれると良いのだが。


 そう思っていると突如として会話にクレイが参加してきた。


「じゃあお前も山登りとかしてたんだな」

「? 俺はあんまりしてないよ」


 というかする必要がない。

 するとクレイが何故か驚いていた。いやクレイだけではなく聞き耳を立てていた皆が「してないんかい」と言わんばかりの視線を寄越してきていた。

 あれ?俺なにかおかしいこと言ったかな。


 謎はすぐに解かれた。


「風じゃないのか?弓なのに?」


 クレイのその言葉に、ああ、なるほど、と納得した。


「と思うじゃん」

「違うのか?」


 普通はそう思いたくなる気持ちもわからなくはない。

 でも残念ながら俺の相性が良い属性は風ではない。


「実は火属性が相性がいいんだよね、色んな付与属性持ってるけど、多分火炎が一番出現したの多いかも」

「でもお前が火を使うのあんまりみたこと無いぞ」


 そりゃそうだろう。

 俺はあえてこの世界では使わないようにしているんだから。


「ここで使うと危ないんだよ」

「危ない?」

「そう、だからできるだけ使わないようにはしてる」

「意味が分からん」


 うーむ、と考えた。

 たしか百聞は一見に如かずみたいな言葉もあった事だし、実際に見せた方が話が早そうだ。


「分かった。じゃあ一つだけ見せるよ。ただし本当に危ないから人のいないところに行こう」


 危ないから門番に事情を話して町の外へ移動し、かつ生き物の気配があまりない場所へと向かった。

 先日ツクギーバを討伐した場所だ。

 未だにツクギーバの残り香があるため、まだ生き物が寄り付かない為である。

 念のために千里眼で確認してから、俺はエクスカリバーを展開した。


「じゃあ、見ててね」


 一番弱い火炎属性付与ではなく、火属性関連でのスキルを使う。

【鳳穿花】という、俺の持ってる火炎関連のスキルの中では安全なスキルを発動した。


 つがえた矢が七色の光を纏い、それを空へと射ち上げた。

 ヒューンという独特な音を発しながら矢は空高く飛び、次の瞬間、爆発音と共に大きな花火へと姿を変えた。

 夜でもないのに綺麗に見える花火だ。


 この世界に花火があるのかは知らないけど、このスキルで生み出された花火は格段に美しいと自負している。

 皆も空に花咲く大輪に目を輝かせていた。

 そう、ここまではただの綺麗な花火を咲かせるスキルなのだ。


 花火の先端が勢いを無くして重力に従って大きく弧を描きながら落下してくる。


 本来ならば燃え尽きる頃だろうが、このスキルは燃え尽きること無く、重力を味方に付けてグングンと速度を増し、見渡す限りの地面へとミサイルのごとく無数の炎の雨を降らせた。


「一応これが俺の持ってる火炎関連の一番弱いスキル。

 これを森とか迷宮で放ったら危なくない??」


 普通に森が火事で消失の危険がある。


「確かにこれは危ないな」

「使うのを止めよう」


 クレイとジルハが俺に同意してくれた。

 アスティベラードとノクターンは言わずもがなだろう。


「すげぇー、自分もこれ出来るようになりてぇ…っ!」

「「「えっ」」」


 ドルチェットだけはこのスキルを発現させてやると謎の決意を固めてしまったようだった。







 俺のスキルを見てやる気を出したドルチェット鍛冶屋見学へ赴いていった。

 習得できるといいな。


 ジルハはハーフマンの工房、アスティベラードとノクターンは道具屋へいった。

 なんでも面白いものがあるんだと。

 そしてクレイはいつの間にか消えていた。

 どこ行ったんだろうか。


 そして俺はというと。


「うーーーん」


 グラーイの口を作るために四苦八苦していた。

 机に並べた素材と試作品を並べて思わず唸る。

 約束したとはいえどうすれば良いのかわからない。

 せっかくなので色々素材があったので試してみたものの、どうにもしっくりこない。

 口の開閉は出来るようにするけど、なんというか“らしくない”のだ。どうしたものか。


 隣を見てみれば足以外を組み立てたグラーイが仕切りに口許をモゴモゴさせていた。グラーイもしっくり来るものが無いみたいに見える。

 もうちょっと色々試してみるしかないな。



 そういう感じで各々気楽に過ごしている内に指定された日になった。


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