もはや町の英雄扱い
「来るぞ!!」
モンドが迫り来るツクギーバを見て悲鳴をあげている。
まぁ普通に怖い光景であるが、今の俺達にとっては体の良い練習台にしか見えていない。
大激怒しているツクギーバの突進をクレイのスキルで出現した巨大な盾で受け流した。
「うん、こんなもんか」
受け流されたツクギーバが折り返してくる。
尻餅をついたモンドが、軽く受け流されたツクギーバを見てキョトンとしている。
前のツクギーバよりも一回り大きいように見えるのでクレイに訊ねてみた。
「力はどんなもん?」
「んー、正直強いっちゃ強いけど、ドゥアムングンに比べたら……」
「アレと比べたらダメじゃない?」
聖戦のボスだよ?
そうこうしている内にツクギーバが折り返し終えて、またこちらへとやって来た。
クレイのおかげで最高速度は抑えられたので余裕をもって討伐できる。
「じゃあ次は自分等の練習の番だぜ!!ニンジン!用意いいかァ!?」
「いつでもいいよー」
既にエクスカリバーは展開し終え、凍結属性も付与完了している。
「っしゃあ!!いくぜェェ!!!」
ドルチェットの大剣から炎が吹き出し、それを大きく振りかぶった。
「んでよお!!こう炎の壁から突破してきたツクギーバが一気に凍り付いてよ!!ずばーーーんと豪快な音を立てて鎧鱗が弾けとんだのよ!!ありぁー驚きよりも感動が上回ったな!!あんな無敵の装甲がこうも簡単に剥がされるのかってよ!!」
酒場でモンドが興奮気味に先ほどの討伐の様子を語っている。語るにしては声量が大きいかもしれないが、それほど凄い光景だったと強調していた。
お陰さまで俺達のテーブルにはご馳走が並んでいた。
例のアレである。
ツクバングである。
「果実はないか?」
山盛りのツクバングを前にしてアスティベラードが果物があるかどうかを訊ねていた。
理由は明白。ノクターンが大量の油分で胸焼けを起こしていた。可哀想に。
多分アスティベラードもそろそろ肉に飽きてきた感じだろう。
上手いけど連日カレーは飽きるアレである。
「うま」
とはいえ食べ盛りの俺とクレイとジルハは関係ないが。
「くううぅ!いくらでも入るぜぇ!!」
そんな男子衆に混ざるドルチェット。
俺は最近ドルチェットの性別を疑っている。
生物学的には女の筈なんだけど…と思いかけて止めた。
いや、大食いレディも居るんだ。先入観いけない。
たらふく食べ、久しぶりのサッパリ系でお腹を膨らませたノクターンとアスティベラードも満足したようだった。
トクルも小さい粒のブドウのようなものを一房完食していた。
俺も後でアレ貰おう。
食後、まったりとしていたら昨日の装備屋のドワーフがやって来た。
「おお、そこの弓使いと、タンカー。ちょっち来いや」
呼ばれるままに店にやって来ると、ハーフマン達が数名店で待機していた。
みんなそれぞれメジャーのようなものを手に持ち、お揃いの作業着を身に付けていた。
この店の従業員とかなんだろうか。
「マント取って、装備も外して」
「待ってください説明を先にお願いします」
クレイが説明を求めると、ドワーフが簡潔に答えた。
「これからお前達の装備を仕立てる。良い素材がたくさんあるからな。ワシらからのお礼だ。以上!!」
なら、喜んで協力しないと。
すぐさまマントを外して装備も外すと、するとハーフマン達がわらわらと集まってあっという間に採寸を終えた。
続いてクレイも採寸が始まる。
それを眺めていると、店のドワーフが質問をしてきた。
「時に、どこら辺の強度が必要だ?どういう動きが多いのかも教えて貰えると作りやすくなる」
ふむ、と少し考えて答えた。
「攻撃手段は弓なんだけど、結構標的に接近することが多いから胸部辺りを頑丈にして欲しいかな。実は前に肋骨を折られて痛かったから」
あれは本当に痛かった。
「うむ、わかった。任せろ」
一体どんな風になるんだろうな。
ちょうどクレイの採寸も終わり、ドワーフが俺にしたようにクレイにも質問をしていた。
それにしてももしかしてツクギーバの鎧鱗でも使うんだろうか。
一体どんなのが出来るのか楽しみだ。
出来るのを待てと言われて店の外に出ようと扉を開くと、ジルハがちょうど扉を開けようとしている最中だった。
「あれ?ジルハも採寸??」
「いえ、二人を呼びに来たんですよ。ちょうど二体目のツクギーバが出たので討伐をお願いしますとのことです」
「出現速度早くない?」
なんせまださっきのツクギーバの解体も完了していないのだ。
「おそらく異変に気付いて様子を見に来たんだろうと言ってました」
「ああ、そうか。そういうことならあるのか」
考えてみればブリオンのゲームデータじゃないんだ。
「それじゃあ午後の討伐いくか」
「だね」