さようなら、キノコ
キノコリアンに見送られ、今度こそと店に入ると、店員が少しだけホッとした顔をしていた。
さて目的を果たしますかとディラはカウンターへ向かい、訊ねた。
「ここってとってきたのを売れたりします?」
「ああ、売りに来たのか。ビックリしたぜ。てっきりあの魔物で店荒らししに来たのかと」
「大人しいですけどねぇ」
「とりあえずあんたの頭がおかしいのは分かったが、仕事は仕事だ。何を持ってる?」
「えーと、まずこれと」
草各種。
「これと」
キノコ各種。
「これ」
襲ってきた獣の皮。
それらをカウンターに並べた。
状態は全て良いはずだ。なにせちゃんと村で教えられた通りに処置したのだから。
「……」
意外そうに俺を見ていた店主が、カウンターに並べられたものの鑑定を始めた。
鑑定はすぐに終わった。
「とりあえずみんな買い取れる。価格はこのくらいだな」
机の上に置かれる32マルダ硬貨。おかしいなとディラは首を捻った。
「ナッツ村で教わったよりも大分安いな」
というよりも、ブリテニアスオンライン価格の半分しかない。
あれ?計算間違えたかなと思っていると、店員が突然キレてきた。
「はぁ!?俺がぼったくっているってのか!?」
あ、この焦りかた、もしかして。
「確認していい?この睡眠作用によく効くシツミン草っていくら?50ゼイン?(マルダよりも下の単位)じゃあこの胃薬になるセーロン草は?割りと高値で取引されるって聞いたけど」
色々確認していくと、ついに店主が盛大に舌打ちして、追加で硬貨を叩き付けるように置いた。
「降参だ。なんだよアホのふりしやがって。ほら、持ってけ。文句ないだろ?」
数えたらブリテニアスオンラインよりもちょっと低いけど、ナッツ村で教えて貰ったのと同じ値段になった。
ぼったくり未遂か。
じとっと店員を見詰めながら脅してみた。
「繋いでいるアルキキノコをここでダンスさせていい??」
「上乗せしてやるから早く帰れよ」
追加が机に置かれた。これでゲームと同じ価格。
ありがたく追加報酬をポケットに仕舞う。
「ありがとうおっちゃん。また来るね」
「来なくて良い!!」
店を出ると繋いでいたアルキキノコをほどく。
蝶々結びでもほどけた様子はなく、それどころか一ミリも動いてないキノコリアンに感動した。忠犬か。
こんなに大人しいのになぁ。
チラリと後ろをみると、みんなが一斉に顔を逸らす。
なんとなく感付いてたけど、このキノコリアンでもアウトらしい。マスコットみたいな見た目なのにな。
「なんか君連れて歩き回るとみんな吃驚するみたいだから先に離そうか」
「…キュッ」
仕方がないと一旦街を出て、キノコリアンの綱をほどいた。
なんだどうしたと、キノコリアンがディラを見上げた。顔があるかは知らないけど、笠を反らして見上げるような姿勢を取った。
「勝手に捕まえたり離したりごめんね。これ、選別」
くびれているところにお試しで作ったなんの効力もないただのアクセサリーを着けてあげた。
雄なのか牝なのかもしらないけれど、何かの役にでも立ててくれ。
「じゃあ、またどっかで会ったらね」
バイバイとディラが手を振ると、アルキキノコは頭をユサユサ振って森の中へと消えていった。
さらばキノコリアン。元気でな。
「戻るか」
次に目指すは図書館だ。
町に戻って、ようやく図書館を見付けて入ろうとしたら、『身分証がないと入れない』と追い返された。
何でと問い詰めたら、余所者は信用ならんから信用の証を持ってこいと言われた。正論である。
ため息をつきながら花壇のヘリに座り込んで空を見上げる。
「身分証…」
どうやって手に入れるの。
村人の証のように魔術師でも探すのか。それとも役場にでも行くのか。
ブリオンではなかった事態なのでどうしようか考えていると、すぐ近くに誰かがやって来た。
「さっきキノコ散歩させてた人じゃん。どうした?キノコに逃げられたのか?」
人の良さそうな緑髪の青年だ。服装から見て、村人っぽくはない。言うならば町の外へと出ていきそうな、そう、冒険者的な服装である。
「キノコは、森に返しました」
「そうなんだ。落ち込んでいるから逃げられたのか盗られたのかと思ったぜ」
モンスター盗られたりするんだ。
「図書館に入りたかったのに身分証がないと入れないと言われたんです」
「…なに?お前流民?」
流民とは、定住しない、国を渡り歩く渡り鳥みたいな人達を呼ぶ名称。
特徴は生まれた国が不明なので出生証明書がない。
以上、マーリンガン雑学。
「……みたいな感じです」
ブリテニアスオンラインではアカウントが証明書代わりだったから誤算だった。荷物もなくてとても楽なのはマーリンガンお手製の魔法の鞄で同じだけど、その情報もくれたら良かったのにとか思ったが、もしかして長年村に引きこもっていたせいで情弱だったのかもしれない。
実際マーリンガンは村の外に出ることはほとんどなかったし、そういう話しも村人から聞いてもいなかったから。
もう一度ため息を吐くと、青年はあっけらかんと解決案を提示した。
「じゃあギルドで冒険者登録してくれば良いじゃないか。これだよ」
そう言って青年は首から下げたタグを見せてきた。
見た目はただの長方形の宝石の付いたネックレスだけれど。
青年は疑う俺に丁寧に説明をしてくれた。
「これが身分証代わりになるし、自分がどんな状態なのか数値化して見せてくれるから色々楽だぜ」
「へぇー、こんなのが…」
マーリンガンの魔法具とはまた違うようだ。
「金が少しいるけど、一食抜けばなんとかなるくらいだ」
「その冒険者ギルドってどこにある?」
「すぐそこ。ついてこいよ」
先を歩く青年の後についていく事にした。
今は藁にでもすがるしかない。この青年が善人なことを祈って信じよう。
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