ドワーフはシャイである
帰り際、モンドではない近くの顔見知りドワーフが言った。
「はぁー、まさか一日で終るとは…」
もしかして本来はこれ数日掛けてやる予定案件でした??と思わず言いたくなってしまったが、飲み込んだ。
ドワーフも俺もたくさんの素材が手に入ってウハウハなので水を差すつもりはないのだ。
帰ってきたら、町はちょっとした宴会になっていた。
広場には机か並べられて、ツクギーバのお肉、ツクバングが山盛りで置かれてバイキング状態になっていた。
もちろん肉だけではなく野菜や果物も盛りだくさん。
「うおっホホッ!!最高じゃあー!!!」
そしてあちらこちらでドワーフのおっさんが酒を飲んで騒いでいる。
楽しそうで何よりだ。
「そういえばディラは酒は飲まぬよな」
「未成年なもんで」
「ディラの国の成人は遅いのだな」
「こっちが早すぎると思う」
15才ないし、地域によっては10才らしい。
小四で成人は地獄だと思う。
「あれ?ノクターンは?」
いつの間にかノクターンがいない。
「先に宿に戻っておると言っておったわ。門近くの二階建てのが宿と」
「あー、彼処か」
なんだろうと思ってた。
「アスティベラードも先に行ってて良かったのに」
「私が先に行っておったら、誰がお前に伝えるのだ。ただでさえドワーフに引っ張られてあちこち連れ回されていたであろう」
アスティベラードのいう通り、確かに俺はさっきまでドワーフに引っ張り回されていた。
主にグラーイの件である。
「残ってくれてありがとう、アスティベラード」
「うむ」
「じゃあ…とりあえず、なんかつまんで宿に行こうか」
「ただいまー!果物たくさん貰ったよー!」
「おかえり。遅かったな」
「なんだ皆も持ってきてたんだ」
部屋の中にある机の上には俺達の持ってきた果物と同じものが置かれていた。
考えることは同じらしい。
じゃあ仕方がない。
これは保存用に仕舞っておくか。
俺達が剥ぎ取りに行っている間クレイ達は買い足し完了したらしい。
「ちゃんと買えた?」
「おう、なかなか良いもの揃いだった。特に──」
「なぁなぁなぁ!!!ディラ!!!見ろよこれ!!」
クレイの発言中にドルチェットがクレイを押し退けて俺に不思議なものをみせつけてきた。
「なにこれ」
見た目は金属の筒だ。
「見とけよぉ」
そう言いながらドルチェットが思い切り振るとその筒が伸びた。
見た目は警防のようであるが、なんだろう。
何に使うんだろう。
普通に考えるなら殴るための護身具だけど、ドルチェットに至っては今さらな気もするけど。
いや、なんなら本人が殴ったほうがダメージ入るんじゃなかろうか。
色々考えてみたけど、どれもしっくり来ない。
答えはなんだと思っていると、ドルチェットはその警防を予想外の使い方をしだした。
ゴリゴリとその警防で剣の刃を擦っていた。
擦ってるっていうかスライドさせている。
「……もしかしてそれ砥石??」
「せーかい!これだと緊急で研ぐ時に楽だっつーんでな。
一応刀剣再生補助っつースキル持ってんだけどよ、かっこよかったから」
「それは分かる」
不要でもなんとなくかっこよさで買ってしまうのは分かる。
というかそんなスキル持ってるのか。
毎度思ってるけどドルチェットすげーな。
あれ今レベル幾つなんだっけ?
「僕も一通り揃えられてホッとしてます」
と、ジルハが会話に参加してきた。
「そういえば武器折られたんだっけ」
「そうなんですよ。さすがに折られた剣はどうにもなら無かったので買い替えました」
机には新調した武器が並べられた。
見た目で言えば前のと似たようなデザインだ。
「愛着とか無かったの?」
「うーん、アレも咄嗟に持ってきたものだったので…。ああでも使いなれていたって点では少しだけ愛着はありますね」
「こいつ、あんまり愛武器作らねーんだよな」
職種の違いなんだろうか?
そういえばジルハよく短剣投げているし、逆に愛武器作ってしまったら駄目なんだろうな。
「クレイは?」
「オレは特に…、あー、明日装備を見にいくくらいだな」
クレイは盾職、タンカーだ。
スキルがあるとはいえ、クレイは何度も攻撃を受けてきているので俺と同じく装備が痛んでいた。
勿論盾は無事だけど。
どんな素材で出来てるんだソレ。
「ああそうだ」と、クレイが俺を見てなにかを思い出したらしい。
「モンドさんがお前に話があるからって明日の朝に門のところへ行ってこい」
「モンドさん?わかった」
なんだろうか。
何かやらかした記憶はないけどな。
朝食に出された芋パンとツクギーバのお肉を大急ぎで頬張って門のところへ向かうと、モンドと昨日剥ぎ取りの時に色々教えて貰ったアンドとガンドも居た。
「おお来たか!デンラ!」
「ディラです」
「デインラ!」
「惜しい」
ドワーフの名前の必ずつく“ン”の部分に引っ張られているらしい。
逆に言いにくそうだ。
「なんか俺にお話があるとか?」
ドワーフ三人顔を見合わせ「うむ!」と頷いた。
「お前個人というよりもお前ら、だがな」
「?」
俺ではなくパーティーに用がある、て事らしい。
何故俺を呼んだ。
モンドが話を続ける。
「お前らなら簡単にツクギーバを倒すことができるだろう?」
「まぁはい、そうですね」
現に倒したし、解体も済んでいる。
「ここらで数頭ツクギーバが彷徨いていてな危なくて敵わん」
「どっか近くの縄張りからやってきたらしいが、流石にこんなに近くに五頭も居られちゃ危険なんだよ」
「一頭倒してくれたから今は四頭だがな」
「悪いが、あと二頭倒してくれんか?」
それぞれが軽い感じで話してくるが、ツクギーバは倒し方が確立しているとはいえ普通に危険なので俺一人で「はい」って言えるものではない。
「あのー、それって討伐以来ですか?ならクレイに話した方が…」
話している途中からなんだかドワーフの表情が曇っていく。なんというか気まずい感じだ。
もしやクレイと何かあったとか。
「…いや、なんだ…解体した仲だしお前の方が言いやすくてな…」
ドワーフというものは思ったよりもシャイだったらしい。
いや気持ちは分かるけど。
「きちんと報酬は出すぞ!」
「なんなら弾むぞ!」
「ついでに好きなものを作ってやろう。幸い素材はたくさん手に入ったからな!」
これは棚ぼたというものだろうか。
次々に美味しい提案をされるが、俺は一旦飛び付くのをグッとこらえた。
ブリオンの様にフリーなら飛び付く案件だし、条件としてもパーティーの為には普通に受けるべきなんだろうが、いまいちパーティーで受ける場合での報酬の額を交渉するのが苦手だ。
やっぱりクレイを連れてきたい。
何て言ったって、クレイはパーティーのリーダーだし。
どうしようかなーと思っていると、すぐ近くの建物にトクルが止まっていた。
アスティベラードが寄越したのかもしれない。
「トクルー!」
呼べばトクルはすぐにやってきて、俺の頭に着地した。
それを確認してから俺はモンド達に言う。
「俺は受ける気満々なんですけど、報酬の云々が苦手なんでリーダー呼んで一緒にやっていいですか?
やっぱりこういうのって、専門の人がいた方がいいですし!」
一気に捲し立てればモンド達も「確かにそうだ」と納得してくれた。
「まぁワシらも交渉苦手だからな。…ファクヴァック呼ぶか?」
「だな」
「それじゃ互いに呼ぶか」
「ですね。というわけだから、トクルお願いできる?」
俺はトクルでクレイを呼び、ドワーフはハーフマンを連れてきた。
そして事情を話し、報酬を提示され、それならと正式に依頼として受けることになった。
とはいえ今日は装備を見たかったということもあり、活動は明日からということになったのだった。