節操無し
解体作業から戻った俺達とドワーフ、特に殴られた門番のドワーフであるモンドの様子から俺達は警戒しなくても大丈夫だということが伝わったらしい。
これは後にモンドから“同じ獲物を捌く仲”という、同じ鍋をつつく仲みたいな事からスムーズに受け入れられたらしい。
あとは俺が同じクリエイターだったから同士みたいな。
やっててよかった物作り。
ハーフマンに案内され、大きな家に招かれた。
「ここは?」
「長の家。今回ツクギーバのお肉やら素材やらがふんだんに手に入ったのでお礼に食事を振る舞ってくれるらしいっす。ちなみにお代わりいくらでも良いと言ってたんでたらふく食べるといいぞ」
に、と門番のハーフマンが笑い、自分は仕事が終ったからと帰っていった。
「……ツクギーバの肉か」
焼くと木片になったアレ。
煮るとマシになったアレ。
何で出てくるのか。無難にシチューか。
「お代わりできるかな」
クレイがぽそりと不安げに言う。
「大丈夫だって、ここのドワーフは地元民だし、美味い食べ方があるはず」
ばたんと扉が開いて、女性ドワーフが料理を持ってきた。
「おまたせしたね!!!さぁたーんとお食べよ!!」
ドンドンドンと盛大に肉が盛られた木皿が目の前に置かれた。
かなりの量に驚いたが、それよりも更に驚いたことがある。
「ハンバーグだぁ!!!」
そう、なんと出されたのはハンバーグであった。
ハンバーグにしては野性味のある見た目と多めの香辛料が混ぜ込まれているが、何処から見たってハンバーグだった。
「ツクバングだ。うちらのご馳走だ!辛さが足りないなら言っとくれ、辛味を足してくからさァ!」
「いただきます!!」
一口食べてお肉の柔らかさに驚いて、鼻を通り抜けていく素晴らしい香りに感動した。
これ、本当にツクギーバ??
なんでこんなに違うの?
「すごい…柔らかい…」
ノクターンが感動して見たこともない顔になっている。
思えばこの世界に来てからハンバーグを食べたことがない。
初ハンバーグか。
いや、ツクバングだった。
「うっまぁ!!いくらでもはいふぞこれ!!!」
「ドルチェット落ち着きなって」
「いや本当に美味い。なんでアレがこうなるんだ」
みんな頬張りながら思い思いの感想を述べている。アスティベラードに至っては「魔法か?」と新たな料理法の可能性を感じていた。
確かに魔法のような技術でこうしたのかもしれない。
「あっはっはっは!!ここまで食べてくれたら気持ちが良いねぇ!!」
情報ドワーフも満足そうでよかった。
ちなみにこの後でノクターンがレシピを聞きに行ったらしいけど、結構な工程があるらしくて夜営じゃ無理と言われてしまった。
残念である。
それにしてもこれを食べれるようにした人は偉大だな。コンニャクとフグの偉人に並ぶほどだと思う。
「三枚も食べてしまった」
ぺろりである。
ツクバング恐るべし。
香りの良いお茶で一服してから、ツクギーバ解体二回目の召集がかかった。
もちろんアスティベラードと共にだ。
ちなみに今回はノクターンも同行するらしい。
「よろしくお願いします…」
「ノクターンは見張りをよろしくね」
「はい…」
ノクターンが来ると必然的にロエテムもついてくるので見張りはバッチリである。
ノクターンの後ろにはみんなを怖がらせないようにクレイのスペアのマントで体を覆っているロエテムがキョロキョロと町を見渡していた。
「はぁー、お腹一杯。そういえばアスティベラードも結構食べたよね」
「うむ。あのような肉はそうそう食べれるものではないからな。簡単に作れるものならば毎日食べたいほどだ。ノクターンも作り方を聞きに行っていたほどだ」
「確かに。あ、そうだアスティベラード」
「なんだ?」
「今クロイノ出せる?」
呼んだ?というようにクロイノがアスティベラードの影から頭を出した。
とはいえ、今回は小さい形態だけど。
「これ、クロイノ用のツクバング」
クロイノもたくさん働いてくれているからプレゼントだ。
俺が差し出すとクロイノは意図を理解して尻尾を使って取り込んだ。
心なしか喉を鳴らされている気がする。そんな音はしないのに不思議だ。
食べた後クロイノは再び影の中へ。
ドワーフ達を驚かせてしまうので、町の中にいる間は基本アスティベラードの影に潜っていることにしたようだ。
姿は見えないとはいえ、何か“恐ろしい”というものを感じるらしいし。
「さて、組み立てますか」
鞄から退屈していたグラーイを取り出すと、自分の出番が来たことを察知したグラーイがソワソワし始めた。
さっきはドワーフに警戒されると思って組み立て無かったけど、今なら大丈夫だろう。
「はい完成。グラーイはアスティベラードとノクターンが乗ってね」
ロエテムが「自分は?」と言いたげに両手で主張をし始めた。
「ロエテムは俺と歩きだよ」
「おい!」と近くのドワーフから声を掛けられた。
なんだろうとそのドワーフを見ると目を輝かせていた。
「これはお前の作品か!!!」
「おお、なんと…」
「そう来たか…」
わらわらとドワーフが集まってきて、あっという間に取り囲まれた。
「美しいな」
「造形が良い」
「これに着ける装備を拵えたい」
物凄く褒められて照れる。
やっぱり褒められると嬉しいな。
「まさか魔導鎧技者(マーティー)だったとはな」
「動力はなんだ?」
あれ、これ勘違いされてるな。
俺はただ形を作っただけなのに。
「すいません、俺が作ったのは外装だけで、動力はこのノクターンが…」
「共作だったか」
誤解が解けてよかった。
「ほう、では駆動鎧技者(パウアムティー)か」
弓職なんだけど、今は言わない方がいいのかな。
「いや、しかしこいつ武器も自作しとると言っておったぞ」
「なんだお前、節操なしか」
「すみません」
言われてみれば節操なしな気もしなくもない。
弓矢に装備に馬に魔法具…、いやでも弓矢と装備は此処では作ってないな、そもそもブリオンのシステム無しでまだ作れるのか?
「おーい!喋っとらんでさっさと仕事終らせるぞー!」
モンドがはよしろと叫んでいる。
それを合図にドワーフ達は名残惜しそうにしながらも解散した。
「アスティベラード、ノクターン、足貸すよ」
「うむ」
「ありがとうございます…」
アスティベラードを馬に乗せ、ノクターンも馬に乗せた。
ドワーフのいう通り、そろそろ鐙作っても良い頃合いかな。そうすればもっと楽に騎乗できるだろう。
そのままぞろぞろと先程のメンツ+αでツクギーバの元へ行って皮を回収し、もう一度行って骨を回収した頃には夜になっていた。