弓の半分はオリジナルです
来た道を引き返して進んだが、移動中であったクモノキとは遭遇しなかった。
思ったよりもクモノキは移動速度が早いらしい。
「真っ直ぐか?」
「真っ直ぐです」
先頭を歩くのは俺だけど、万が一にと武器を持って横を歩いている門のドワーフ。
門のドワーフとわかったのは鼻がまだ赤かったからだ。
そのドワーフを横目で俺はチラチラと観察した。
ドワーフを、というよりも装備をだ。
彼の装備に見とれていたのだ。
ドワーフといえば鉄製の武具や装備品が有名だけど、鎧の下に着用している革の装備に興味を注がれた。
ブリオンで活動している時、基本装備は買ったり作ってもらったりするものだが、一部の職種の人たち(いわゆる職人は含まれない)は好んで自分で装備を作ってカスタマイズしていた。
ちなみに俺も自分の弓矢や装備品をよくカスタマイズしており、弓矢生成で出てくる特殊な弓の一部は俺の作品だったりする。
実はブリオンの武器登録申請で、見た目や機能、弱点諸々を設定して運営が面白いと許可すると、なんとそれがオリジナル装備として作れるようになるのだ。
条件や制限もあったし、通らなかったものもたくさんあったけど凄く楽しかった。
そんなことをしていた俺から見ればドワーフの装備品は魅力の塊である。
思わず細部まで観察していると視線に気付いたドワーフと目が合った。
しまった。
あんまりあからさまに見てたから怒ったかな。
「なんだ?俺になんか用か」
その顔は怖い。
もともと怖いけど、もっと怖くなっていた。
「いやー、かっこいい装備だなーって…特にその革の装備が…」
ハッとした。
やば、思いっきりため口でと慌てて口をつぐんだ。
怒るかと思ったけどドワーフは変な顔をしていた。
拍子抜けみたいな、なんとも言えない顔だ。
「……お前、人間の癖に変な奴だな」
「?」
どういう意味だろう。
もしかしてドワーフには装備を誉めることは変なことなんだろうか。
いや、でも“人間の癖に変な奴”だし。と、俺は思考を巡らせた。
しばらく考え、あれ?誉める習慣が無いのは人間の方ってこと???という結論に達した。
そういえばあまり装備の話をしたことがない。
せいぜいドルチェットと互いの武器についてを語り合うくらいである。
「どうした。難しい顔して」
あまりにも真剣な顔をしていたからか、アスティベラードに心配された。
「ねぇアスティベラード、俺って変??」
「……、まぁある意味では変なのではないか??」
「そうか…変なのか…」
盛大に傷付いた。いや自分が尋ねたことだけど。
そうか俺って変なのか、自重しなきゃなと俺は静かに反省した。
「おい、もう少し早く歩かんか」
「お前が案内しなきゃたどり着かんだろう!」
「ふぇい…」
後ろから付いてくるドワーフに急かされて、俺は落ち込みながらもせっせと足を動かすことに集中することにした。
きりきり歩いたお陰で、予想よりも早めにツクギーバの元へとたどり着いた。
倒れている山のようなツクギーバの周囲に散らばる鎧を見て、ドワーフは興味津々に調べ始めた、
もしかして目的はこの鎧なんだろうか。
ツクギーバの防御力の要である鎧の調査がメインなのかと思っていると、しばらくすると数名は本体の方へと向かっていったので、鎧だけが目当てな訳ではなかったとホッとした。
俺達が倒して少し解体したままのツクギーバを見ながら、それにしてもやはりというかゲームみたいに消える訳じゃないんだなとしみじみ思う。
「……いやそれにしてもマジでそのままだな」
だとするなら普通野性動物とかに食い荒らされてても良い筈なのにそれもない。
そこで甦るツクギーバの肉の固さ。
野性動物も忌避する肉なんだろうか。
「おい人間」と門のドワーフと、他にも数名ドワーフがやってきた。
「はい」
「これは本当にお前らが倒したのか」
「そうですけど」
現物を見せたのにまだ疑われている。
「なら、こいつの倒しかたを知っているはずだ」
疑いの目を向けられながらそう言われて、そういう感じかと俺は納得した。
死体が荒らされにくいツクギーバだ。違う何かが倒したものを自分が倒したみたいに言っているのではないかっていう疑いを掛けられているのだ。
確かに、このツクギーバはアホみたいに頑丈で倒しかたも特殊だから証拠を示せってわけか。
別に教えて困るものでもないしなと、俺は倒しかたを素直に教えることにした。
「何も難しくは無いですよ、あのツクギーバの鎧はこう、急激な温度変化?に弱いんです。
だから魔法でもスキルでも連続で熱して凍らせてを繰り返すと割れて剥がれるんです」
俺の答えを聞いて唖然とするドワーフ達。
もしかして、まさかな答えだったのか。
門のドワーフはゆっくりと自身の髭を掴むようにしてなで始め、小声で、そうか、だからあんなガラスのような構造に…と独り言を言い始めた。
一体なんの話なのか。
そのままドワーフ達同士で話し始め、門のドワーフがこちらに向き直る。
「ふむ、疑って悪かったな。歓迎しよう、人間ー
そう言って門のを含めたドワーフ達はツクギーバの本体の方へと歩いていった。
「一応これで町にいれても良いってことになったのかな?」
「であろうな。しかし、あ奴らは一体ツクギーバで何をしておるのか」
「解体じゃない?」
見ている感じは普通に解体している様に見える。
ただ俺達よりもツクギーバに慣れているのか手際がよくて早い。
確かにツクギーバを解体してどうするんだろうか。
肉は固いから食べるのに苦労するし、革も驚くほど斬りにくかった。
しかし、よく見てみると骨も切り出して丁寧に筋なんかを取り除いていた。
とすると、可能性の一つはアレだ。
「もしかして加工用とか」
「加工用?」
アスティベラードはピンと来ていないようだった。
「ドワーフって武器職人多いじゃん」
「防具もだけどさ、金属だけを使うんじゃないんだ。俺のところだと革も爪も牙も使うし、骨を使って作るものもあるし」
「骨、とな」
アスティベラードが驚いた顔をしていた。
知らなかったようだ。
アスティベラードが言葉を続ける。
「しかし骨では心許なくないか?聞くところによると表面は固くとも中が空洞になっていると聞いたことがある」
なんだろう。
髄液とか入ってる場所の事かな。
「しかも結構折れるではないか」
まぁわかる。
俺も折れたからそう思うのもわかる。
「でもモンスターによっては鉄よりも固くて鉄よりもはるかに軽い骨を持つものも結構いるんだよ。俺の持ってる武器も骨を使ってるのもあるし」
「ほう、そうなのか。知らなかった」
「こういうのって関わる人しか知らないしね」
とはいえ俺のも考察でしかない。
実際は食料や薬の可能性もあるのだ。
ドワーフ達の用が終るまでは変に動かない方が良いかと思って大人しくしていたら10分程したところでお前も手伝えと連行された。
ちなみにアスティベラードはそのまま見張りという名目で待機指示が出ていた。
まぁ汚れると思うから俺もその方がいいと思う。