魔界食べ歩き
トクルが茹でて柔らかくなった肉を細かく裂いたものを食べている。
「いつもありがとうトクル」
「ケイケーイ」
ちまちま裂いてはトクルに与えていると、自分も撫でてとクロイノも頭を押し付けてきた。
「うわっと」
そこそこの大きさがあるので力負けして転がりそう。
何とか踏ん張りながらクロイノの頭を撫でまわす。
「よしよーし!クロイノもありがとう!いつもいつもありがとうね!」
考えてみれば俺は何だかんだとクロイノに助けて貰っている。
隙間のトンネル役やら、着地のクッション、移動に警戒に攻撃……。助けられてばかりだな。
これはいけない。お礼をしなければ。
とはいえ何をお礼にすればいいんだろう。
考えを巡らせるも、思い付くのは“ごはん”のみ。
「クロイノも何か食べられれば良いんだけどなぁ」
クロイノは生物ではないからご飯は食べないらしい。
というか口が存在しないから食べる概念もなさそうだ。
いや、まてよ。と俺は今までのクロイノの行動を振り返る。
食べるのは出来なくとも、取り込みはできるはず。それってつまりは食べるのと似ているのではないか?
仮に飲み込むや咀嚼が出来なくても、匂いや感触を味わうだけでも出来るかもしれない。
「そういえばクロイノってさ、取り込むことは出来るんだよね?」
念のためにアスティベラードに訊ねると、うむ!と肯定された。
それならば、食べるに近いことは出来るとおもう。
それに入りすぎると吸収される可能性があるのなら、ワンチャンいける気もする。
「ねぇアスティベラード。クロイノにドライフルーツをひとつあげても良い?」
俺の提案にアスティベラードがキョトンとしていた。
「クロイノは食べれぬが?」
「取り込むことは出来るってことは、それに似た感覚はあるんじゃないかなーって思って」
「ほう。それは考えもしなかった。盲点であるな」
言われてみれば確かに、と言う風にアスティベラードが感心していた。
「というわけで、試して良いかな?」
「クロイノが良ければやってみても良いのではないか?」
ひとまずアスティベラードからの許可は出たので、クロイノ本人に訊ねてみることにした。
「クロイノ、ドライフルーツ食べてみる?味は解らなくても匂いとか、どうかな。匂いまで甘いよ、ほら」
鞄からドライフルーツをひとつ取り出してクロイノに差し出した。
お試しなので、匂いの良い黒いブルーベリーみたいなものにした。これならば駄目でも簡単に吐き出せる。
クロイノはドライフルーツにまるで匂いを嗅ぐかのように鼻先を近付けた。
そのまま食べるのかと思いきや、何故か顔を離し、代わりに尻尾の先でドライフルーツを取り込んだ。
「え、そっちなの?」
しばらく尻尾をうねうねさせていると思うと、動きが止まる。
駄目だったか?
不安ながら様子見をしていると、クロイノは大きく猫のように伸びをして、満足そうに毛繕いし始めた
「……、食べたって、ことで良いのかな」
「クロイノはなかなか良かったと言っておる。また“食べたい”ともな」
「わかった!」
食べることが出来ることが判明したので、次は違う美味しいものにしよう。
何にしようかなと考えながら、俺は再びトクルの為に肉を細かく裂き始めたのだった。
テクテク歩いて町を目指す。
ここ数日放浪して解ったことだけど、魔界の大地は基本的に荒れている。
辺り一面黒焦げていたり、ぐちゃぐちゃのドロドロになっていたり、かと思えばカサカサに乾燥していたりする
よくもまぁこんな環境で生活が出来るなと思った。
というか、ドライフルーツや野菜なんかはどうやって確保しているのかと思ったら、思いがけない方法で解決しているのを知った。
「木が歩いてる」
ノシノシノシとただの木が根を器用に動かして移動していた。
「クモノキだな。見るの始めてか?」
俺の疑問にクレイが答える。
「全然知らない。クモノキっていうの?」
「ああ。別名アルキボクっていう、アルキキノコと同じアルキ属の仲間なんだけど、根っこが蜘蛛みたいだからクモノキって言ってる」
言われてみれば、確かに根っこが蜘蛛のようだった。
何本もの根を器用に動かして歩いている。
いや、どちらかといえばタコの方が近くないか?
「へぇー、面白いね。それにしてもアルキキノコと仲間なのか。木なのに変な感じ。……、トレントとは違うの?」
動くのなら、それも同じなのではなかろうか。
そう思ったのだが、クレイは否定した。
「“元”になる生物が違うから、トレントは違うものだ。あっちはテンタクルスの仲間だし、アルキ属はスライム属に近いらしい」
頭のなかに有名なスライムが横切った。
全然見た目が違うのに、仲間とは。
「異世界って面白いな」
「オレはお前の世界の化物冒険者達が気になるけどな」
「そうかなぁ」
ごく普通の冒険者なのにな。
クモノキを眺めながら進んでいき、クモノキの群衆、通称“移動する森”を通過していく。
トレントとは違って只歩くだけのクモノキ達は、実に様々な見た目をしていた
普通の木以外にもフルーツ盛りだくさんの木もあれば、野菜が埋まっている土ごと動いているのもあった。
「これもアルキボクなの??」
「これは土ゴーレムの慣れ果てだな。元々の土ゴーレムが何らかの原因で崩れてたのを誰かが野菜の種をまいたやつだ」
酔狂なやつもいるもんだ。
「わざわざ種をまいたの!?」
「多分、畑に埋まっていたゴーレムに蒔いたのが、何かの表紙で起動したんだと思う。あとは、なんでか勝手にゴーレムが世話をし始める」
「あ、そっちか」
ゴーレムといえば怖いやつしかいみたこと無かったけど、ところ変わればって感じなんだなと俺は納得した
通り様に果実をもぎながら進んでいくと、クモノキではない本物の森が見えてきた。
その手前には石の建築物が見えてきた。
蟻塚のようではなく、人間の町のようにも見える。
それを確認して、クレイが嬉しそうに声をあげた。
「見えてきた。あれが目的の町だ」