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正解は『煮込んで香草と刻んで丸めて焼く』でした。


 ケーイケーイと上空でトクルが旋回しながら鳴いていた。


「何か接近しているらしい」


 トクルの様子を見てアスティベラードが言う。


「人か?魔人か?」


 クレイが訊ねるので、俺も探知範囲で特定する。

 するとどう見ても人ではないサイズのものが結構な速度でやってきていた。


「魔物だと思う。結構大きいよ」

「わかった。皆、戦闘準備!」


 クレイの号令で各々武器を構えると、遠くから黒い塊が近付いてくるのが見えた。

 ここからでもかなりの大きさであることは窺い知れたが、そいつから発せらている地響きで結構な重量を持つものだということも理解できた。


 山のような体躯に、皮膚が鎧のように硬化しているものが重なって防御力を上げている。

 特徴的な鼻の上と、口からは三日月のような白い角と牙が生えている。


「ツクギーバだ!」


 目が悪いがゆえに、動くものを敵だと認識すれば迷いなく突進してくる。故に、ブリオンではこいつはツクギーバではなく“暴走トラック”と呼ばれていた。

 なんせ本命のモンスターと戦っている時に、全くの死角からモンスターもろとも撥ね飛ばしていくからだ。

 その清々しい吹っ飛ばしかたは最早ギャグモンスター部類の筆頭になっている。

 俺がモンスター名を叫んだことでクレイが訊ねる。


「ツクギーバ?知ってるのか?」


 どうやら皆は知らないモンスターらしい。

 魔界特有のものなのか。


「とんでもなく固い猪だよ。固い皮は刃物類も魔法も効きにくいんだよね」

「竜種な訳じゃないんだよな?」


 ドルチェットが怪訝な顔をしている。

 こんだけ属性もりもりなら竜種の可能性だって無くはない。

 だけどこいつは違う。


「残念ながら竜種じゃないんだよー」


 ただの大きな猪。

 違う点としては、猪のわりにはあまりにもでかくて固くて危険なだけ。


 そうこうしているうちにどんどんとツクギーバは接近してくる。


「そんじゃ、どうする?普通にやったんなら全部弾かれるぞ。オレの盾だって受けきれるかもわからん!」

「大丈夫、こいつの対応は知ってる。ドルチェット!!回避しながらこいつの鎧を思いっきり熱して!!」

「魔法はきかねぇんじゃねーのかよ」

「大丈夫!上手くいくから!」


 ドルチェットが「ほんとかよ」と言いたげな顔をしながらも大剣を構え、スキルを発動させた。

 刀身がみるみる内に赤く染まり、周囲の空気が熱のせいで揺らめき始める。

 前から思ってたけど、何度ぐらいに熱されてるんだろうな。


「十分に引き付けて。3…、2…、今!!」


 ドルチェットが雄叫びを上げながら灼熱の斬擊を飛ばした。

 赤い斬擊はまっすぐツクギーバへと飛んでいき、体の半分を飲み込んだ。

 ツクギーバの鎧は熱せられているが、熱は本体には届いてない。だけど、それは予想通り。


「回避だ!!」


 俺の合図と共に二手に回避。


「それっ!」


 回避しつつ俺はツクギーバの熱せられた箇所に次々と凍結属性を付与した矢を満遍なく撃ち込んでいった。

 普通なら俺の強化してない矢は、俺のレベルであっても半分は弾かれていただろう。

 だけど、ドルチェットに熱せられた箇所に矢は突き刺さり、凍結属性によって急速に冷やされていく。

 折角熱したのになぜ冷やすのか?

 実はツクギーバの鎧は弱点がある。

 なんとこの鎧、反対属性の攻撃を連続で感覚で受け続けると、対応しきれなくなってしまうのだ。

 回避したすぐそばをツクギーバが走り抜けていく。

 良い感じに鎧は矢によって霜がついていた。


「ドルチェット!!もう一回!!」


 ツクギーバが大回りで戻ってくる。


「オラァ!!もういっちょー!!!」


 ドルチェットが再び灼熱は斬擊を飛ばし、熱せられたのを確認すると俺がすぐさま凍らせる。

 次の瞬間、ツクギーバの鎧が粉々に砕け散った。

 その衝撃でツクギーバの速度が落ちた。


「クレイ!盾で転ばせられる!?」

「任せろ!」


 クレイのスキルで生み出された盾が、ツクギーバの足元に出現した。

 その盾にツクギーバの足が勢いよく衝突、その衝撃で残った鎧にもヒビが入り巨体が前転した。


 普通に転倒してくれればいいと思っていたから、こんな宙返りみたいになるのは完全に予想外だった。


 巨体がゆっくりと、それこそスローモーションでひっくり返り、地面へと叩き付けられた。

 起き上がる前に追撃しようと矢をつがえて狙いを定めたが、ツクギーバはピクリともしなかった。


「死んでる…」


 いくら鎧が強くても、それがなければ中身は自重で天に召されるほどに脆弱だったようだ。

 ゲームでこんな倒しかたしたことなかったから知らなかった。


「……圧巻の光景であったな」


 アスティベラードが感想を漏らした。

 ちなみにノクターンは宙返りしたツクギーバにびびりすぎて気絶したらしい。


「ねー、凄かったね」

「狙ってたのか?」

「うーん、ここまでとは思ってなかったけど」

「いいじゃねーか!上手くいったんだからよぉ!さっさと解体しようぜ!ジルハ!」

「はいはい」


 ドルチェットがジルハと共にツクギーバへと向かっていく。

 さて、大仕事だ。






 ツクギーバを何とか解体した。

 といってもでかすぎて1/4しか出来なかったけど。

 まさか脆弱だと思っていた中身があんなだなんて誰が想像できようか。


「肉固すぎない???本当にこれ肉??」


 信じられないくらい固い。生肉なのに。

 例えるならばタイヤ。または固めのゴムの塊である。

 しかもやや空気の抜けた方のタイヤである。

 脆弱といってすみませんという感じである。


「焼いてみるとかどうでしょう?」

「やってみるか」


 ジルハの提案で焼いてみると、お肉は縮んでかりん糖になった。

 それをつまんで石にぶつけてみると硬質な音が響く。


「肉とは思えない音がするんだけど」


 コンコンと木片みたいな音がする。

 絶対に肉ではないだろう。

 試しに齧ってみたのだが、食感が石だった。


「せっかく解体したのに食えねぇーのかよぉー」

「生で食べるわけにもいかないですしね」


 焼いたことによって水分が抜けてこうなったのだとしたら、逆に水分まみれで熱を通すのはどうだろう。


「煮てみるのは?」

「やってみるか」


 クレイが俺の案を採用し、もう一塊を沸騰させた水に入れて煮込んでみた。

 焼くのとは違い、煮込むのは時間が掛かるので調理はクレイに任せて俺達はツクギーバの角やら牙やらを剥ぎ取って時間を潰した。


「出来たぞ。さっきよりはマシじゃないか?」


 クレイが茹でた肉を皿にとり、ナイフと二股フォークで裂いてみた。


「すげぇ!肉が裂けた!」

「弾力があります!」

「石じゃない!」


 口々に感想を言ったところ、後ろからアスティベラードが「どんな感想だ」とボソッと言われた。

 確かにそうだな。

 肉だもんな、これ。


 煮込めばマシになることが判明したので、グツグツ煮込んで味付けしたものを咀嚼する。

 やたら噛みごたえのある肉だけど、食べれないことはない。

 むしろこのくらいのが好きかな。


 咀嚼しながら俺は煮込まれた肉を見詰めた。


「これ、売れないかな?」

「これか…? ………どうだろうな」


 煮込んだとはいえ、まだ固いのは変わらない。

 しかし思い返せば先の町の肉も固かった気はする。


「次の街で試してみるか?」

「どうやって保存するんだよ。悪くなんぞ」

「んー、そうだねぇ。じゃあ、お試しでやってみようかな」


 前から考えていた事がある。

 弓矢生成で凍結属性付与して、良い感じの肉ブロックに刺してみた。

 戦闘では地面を凍らせたり、敵を凍らせたりするこれだけど、よくよく考えたら日常的にも使えるのではないかとふんだのだ。


「かんせーい!」


 矢の刺さったお肉はあっという間に冷却され、ものの数秒で冷凍肉の出来上がり。

 これを矢を刺したまま紙に包んで鞄に入れる。


「これでいけると思う!」


 矢を抜かなければ凍ったままだ。


「ほんとかよ」

「ちょっとでも傷んだら捨てるんだぞ」

「へーい」


 クレイに言われたのでちょこちょこ確認するけど、肉は凍ったままだった。

 今さらだけど、この凍結属性付与のスキル、便利だな。


「……」


 あれ?これもしかして使える技増やせるかも?

 ぱっと思い浮かんだ組み合わせを後で試してみようと画賛しつつ、俺達は日が暮れる前に夜営の準備を始めたのだった。



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