結構な危機的状況だったらしい
エクスカリバーの視線を辿って奥へ奥へと進んでいく。
進む度に階段があり、それを下っては進んでいく。
なんというか、この組織、縦に幅があるな。
バルバロの組織は横に広かったから、なんだか変な感じである。
「!」
突然ジルハが立ち止まって手で制してきた。
なんだろうか?
「……この先、ドルチェット達が居ます」
「本当か?どんな様子だ?」
ジルハが耳に手を当てる。
「楽しそうです」
それは良かったという感想が出掛けた。
タイミングを図り、ジルハの合図で駆け出す。
倉庫っぽい所でドルチェットとアスティベラードが大暴れしている所をチラ見した。
てっきり剣を使って大暴れしていると思いきや、ドルチェットは剣を仕舞って拳で殴っていた。
ロエテムもノクターンを守りながら適度に投げ捨てていた。
ぶっちゃけ端から見たらヤンキーの喧嘩のようであった。
アスティベラードはどうしているのかと思えば、後ろのクロイノが怖いのか、魔人達が遠巻きに警戒してるように見えた。
もしかして見えるんだろうか、アレ。
誰にも見付からずに通過し、また階段へと辿り着いた。
「階段です。エクスカリバーの位置はどうですか?」
「うん、下からだね」
「それじゃあいくか」
更に階段を下り、視線を確認すると、位置が変わっていた。
もしかして運ばれたのか。
「エクスカリバーの位置が変わった」
「何処だ?」
「この先の──」
「おい!!!そこで止まれェ!!!」
後ろから声、振り返ると俺が突き飛ばされたミノタウロス。その後ろから蜥蜴の魔人も走ってくる。
「まずいな」
「ヤバいよ、あの牛力が強いよ」
結構な怪力で、あんな速度で突っ込まれたら車に跳ねられたみたいになってしまう。
そこでクレイが俺の前へと出た。
「オレに任せろ」
「え、でも…」
危ないよと言おうとした時、クレイが不敵に笑ったのを見た。
「シールダーが盾無しだと何も出来ないと思ったか??」
「牽き潰すゥゥゥ!!!!!!」
ふんッ!!!!とクレイが突進してきたミノタウロスの両角を掴み、その突進を全て受け止めた。
その事にミノタウロスは驚愕の表情を浮かべていた。
「シールダーを舐めんじゃねぇぞ。これくらいの衝撃、難なく防げるさ」
あ、そうか。
シールダーは衝撃受け流しスキルを盛っているんだ。
そこまで思って、内心首をかしげた。
いや、それにしては壁も床も受け流された形跡がない。
もしかして本当に“全部受け止めた”のか??
「早く行け!!!」
「いくよ!ディラさん!!」
「あ、うん! 気を付けて!!」
「そっちもな!!」
クレイを心配しつつも俺はジルハと共に先へと駆けていく。
「あの角の先、行き止まりみたいですね。おそらく扉がある気がします」
「じゃあそこにエクスカリバーが?」
「おそらく」
角の近くに来ると、ジルハが速度を落とす。
やはり門番とか居るのだろうか。
角を曲がる前にジルハが立ち止まり、気配を探っている。
「門番?」
「いえ、ハーフマンがいます。結構な数ですね。多分避難してきたのでしょう」
ジルハが袖から覗き鏡を取り出し確認する。
そして俺にも見せてくると、確かにハーフマン達が固まっていた。
その後ろの扉からエクスカリバーの視線を感じる。
もしかしてエクスカリバーが移動したのはハーフマン達があの扉の奥に隠したからか。
よし、と言ってジルハが袖を捲る。
「僕が行って引き受けます。その間にディラさんはあの扉を抜けてエクスカリバーを取り戻してください」
そう言ってジルハは小さいポーチを渡してきた。
「鍵開けの道具です。それでは…」
俺が何か言う前にジルハはハーフマン達の前に姿を見せた。
「盗ったものを返してもらいますよ!」
突然現れたジルハにハーフマン達が怯えるが、すぐに体制を立て直した。みんなで掛かればなんとかできると息巻いているのだ。
確かに、一人一人の力は弱かったけど、物量でやられたからな。
「みんなで掛かれば怖くねぇーぞ!!」
「袋叩きだー!!」
雄叫びを上げてハーフマン達がジルハへと襲い掛かっていく。
「みんな頑張っているんだ。俺も頑張らないと」
ハーフマン達の意識がジルハに集中した瞬間に飛び出して扉へと向かう。
隠密のおかげで扉までたどり着き、扉を開こうとするも鍵が掛かっていた。
すぐに鞄に手を突っ込み鍵開けのスキルを発動した。
取り出したのは魔道具を作る器具と、ジルハに貸してもらったピッキングツールを使う。
大丈夫、俺は不器用だけどこういう細かいやつだけは得意なんだ。
カチンと鍵が外れた音がした。
すぐに扉を少しだけ開いて中へとこっそり潜入した。
「……うぉぉ……、すご…」
中に入ると金銀財宝がどっさりだった。
いや、財宝どころではない。
明らかにどっかの装飾引き剥がしてきただろっていう豪華な金でできた壁の一部や、誰が着るのかわからないドレス。一番驚いたのは教会のシンボル。
壁片つきなのが気になる。
「…………こそ泥ってレベルじゃないなこれ」
立派な盗賊団じゃん。
「じゃなかった、エクスカリバー、エクスカリバーはと」
慌てて本来の目的であるエクスカリバーの視線を確認すれば、明らかに慌てて投げ込んだような宝石やよくわからない瓦礫の山の下から感じる。
その山を掻き分けていけば、雑に投げ込まれたらしいエクスカリバーを発見した。
「良かった、エクスカリバー。もう大丈夫だ──」
何でかエクスカリバーに極太ペンチみたいなのが装着した状態だった。
近くにはハンマーも落ちている。
「──……は?」
もしかしてエクスカリバー壊そうとした???
ふつふつと沸き上がる怒り。
「もしかして殺気立ってたのこれのせい??」
もしや俺にSOS信号を送っていたのか。
「……」
大きく深呼吸した。
これは俺も一発殴らないと気がすまないな。
「お待たせエクスカリバー。待たせて本当にごめん」
エクスカリバーを手にすると、途端に本来の自分が戻ってきた感覚がした。
心なしかエクスカリバーの気配も落ち着いたように感じた。
なので俺はエクスカリバーに向かって最高の笑顔を向けた。
「そんじゃ、ちょっと一緒に殴りにいこうか!」