エクスカリバー救出作戦開始!!
やることを終えて、俺達は宿に戻ってきた。
「皆さんに報告があります!」
「?」
「現在の所持スキルの確認ができました!」
帰って早々俺がそう宣告すると、一瞬なに言っているんだという顔から「!?」という驚いた表情に変わっていく。
「本当か!?」
詰め寄るみんなを押さえながら、俺は腕のレベル測定器を示す。
「うん、これで出来るみたい。レベル表記だけかと思ったんだけどスキル表示も出来るみたい。さっき知った」
「どうりで帰ってるときあちこちぶつかってると思ったよ。危ないんだから前見て歩け」
「さーせん」
あまりにも衝撃的だったので、色々弄りながら歩いていたのだ。
「んで?そんなかに使えるのはあったのか?」
クレイがそう投げ掛けるので俺は答えた。
「確認したら隠密あったよ。いつ取得したのか分かんないんだけどね。もっと早く見つけられれば良かった。女装する必要無くなったもん」
隠密には匂い感知の妨害の効果が含まれている。
だからこれが見つかった以上、変装しなくて良くなるのだ。
という建前で、本音は俺の尊厳の問題だ。
もう一度女装させられたから尊厳もくそもないんだけど、多分もうやらないだろう。つかれたし。
「むしろそれで歩き回ったからスキル表示の切っ掛けがあったって結論で良いんじゃないか?」
ドルチェットがそんなことを言ってきた。
「んーーーーーっっ」
ドルチェットのその意見は理解できなくはないけど納得したくない。
でも香水云々の件もあるからと、無理やり納得した。
「ところでいつまでその格好でいるんだ?」
「あ、忘れてた」
クレイの言葉でまだ変装したままだったと思い出した。
早速指輪解除して、貴重な指輪を貸してくれたアスティベラードにお礼を言う。
「これ、貴重なのに貸してくれてありがとう」
「……」
俺から受け取った指輪をアスティベラードはじっと見つめ、次いでこちらを見る。
なんだろうか?
そこで俺はハッとした。
あれ、もしかしてしらない間に傷付けた??
もしそうだったら大変だとドキドキしながらアスティベラードの言葉を待っていると、予想外の言葉を投げられた。
「なんだ楽しくなかったか?」
「えっ…、いや、そう言う訳じゃないんだけど…」
これがコスプレみたいな感じだったら楽しかったろうさ。
しかし出来上がりはガチもんだった。
「そのー…なんか恥ずかしかったというか?」
ぶっちゃけそんな感じでした。
状況が違ってたら楽しかったと思うのは本音だ。
「ふむ、そうか。新しい反応だ」
俺の返答に特に気分を害した様子もなく、アスティベラードは指輪をいつもの指に嵌めた。
もしや俺の他にも被害者が居たのか。
いや、なんか怖いので聞かないでおいておこう。
そんな俺の後ろでクレイがドルチェットに訊ねていた。
「ところで場所の特定は出来たのか?」
「あったり前よー!」
ドルチェットが机にバンっ!と地図を叩き置いた。
そして線が結ばれた場所を指差す。
「此処だ」
ここと言われた場所を覗くと、そこには何の建物もないただの空き地だった。
「ここって…、どう見ても空き地だが」
「いや、まって?これってもしかして──」
考えられる可能性は、地下アジト。
地下アジトといえば、と、脳裏に過るバルバロ盗賊団。
あれも地下組織だった。
もし今回のやつらのアジトがバルバロ盗賊団並みのでかさがあるとするなら、この町飲み込むくらいか。
バルバロ盗賊団アジトはでかすぎて、全部を把握できなかった。
といっても俺の行動範囲は限られていたけど。
「もしかして地下、とか?」
俺が答えるとドルチェットがニヤリと笑う。
「ご名答。試しにここの近くに行って確認してみたから間違いねぇ。
な!ジルハ!」
「ええ、いくつもの地下から音がしました。間違いないでしょう」
こういう時、ジルハレーダーは助かる。
パンっ!とクレイが手を打った。視線をクレイへと向ける。
「そんじゃそれぞれの指示を出す。
現場を見てきたドルチェットとジルハは引き続きアジトへの侵入経路を調べてくれ。
アスティベラードとノクターンは二人の補佐。
そして──」
クレイの指がびしりとこちらに向けられる。
「ディラは今すぐに使えるスキルの確認だ」
「あいあいさー!」
スキル一覧が表示される。
改めてちゃんと確認すれば意外なものが残っているものだ。
例えばこの隠密もだけど、謎の掃除、整頓、聞き耳と使いどころの微妙なスキルが並び、縄脱け、解錠、受け流し、魔法具生成という身に覚えのあるものが並ぶ。
しかし、なんというか残ったスキル…アレっぽくないか?
「おー??」
「使えるのあったか?」
「クレイ。俺、しばらく忍者になるわ」
「は?なに?ニンジャ?」
これならみんなに迷惑を掛けずにいけるぞ!!
夜も更け、人通りが少なくなった頃にエクスカリバー救出作戦が結構した。
「こっちだ」
ドルチェットの先導のもとアジトへと向かう。
じゃあ作戦通りに、自分とアスティベラードで大暴れするからクレイとジルハとディラはその隙に侵入してエクスカリバーを奪取、という予定。
「準備はいいか?」
「おう」
「いつでも行ける」
陽動組がそれぞれが武器を構える。
「そんじゃぁ、いくぞ!」
大剣を振りかざして雄叫びをあげてドルチェットが突撃して扉を蹴り破り門番や用心棒を薙ぎ倒し、その後ノクターンがはじめからクロイノを全開で追撃。
「…い、行って参ります…!」
そしてノクターンを横抱きにしたロエテムが追い掛けていった。
うまくいくといいけど。
しばらく怒声が響いていたが、徐々に悲鳴に変わりつつあるアジトの入り口を見つめた。
「ほら、今のうちに隠密掛けとけ」
「そーでした」
クレイに言われて早速スキルを発動した。
いつもよりは頼りない感じがするけど、無いよりかはマシだ。
遠くから争う音が聞こえてくる。
それは段々と激しさを増していき、凄まじい破壊音が轟いてきた。
予想はしてたけど、その倍はヤバそう。
大丈夫かな。
違う意味で心配になってきた。
もちろん建物が崩壊しないか、の方だ。
「そろそろ行こう」
「……う、うん」
こそこそと移動してアジトへと侵入した。
隠れ蓑の店の内部は全壊しており、地下への入り口であろうものが丸見えになっていた。
初手飛ぶ斬撃でも使用したのか、壁に大きな亀裂が走っている。
ドルチェットってやっぱり半端無いな。
そう思いながら階段を駆け下りた。
思ったよりも狭いな。
バルバロのアジトと比べてみると、作りが荒く狭い感じがした。
天井は高めだけど、横幅が想像したものよりも狭い。
こんなところでは戦いにくいだろうにドルチェットが大暴れした形跡が生々しく残っている。
けれどとりあえず殺してはないみたいで、あちらこちらで伸びてるけど全て峰打ち、というか剣の横原で殴られたような感じになっていた。
そういうところ、本当に器用だなっていつも思う。
一際大きく音がして、次いで高笑いが聞こえてくる。
ドルチェットと、アスティベラードだ。
陽動とはいえさすがに暴れすぎではないですかね。
「スゲーな、アジトのやつらが全然こっちに来ないな」
「完全に楽しんでますね」
「ねぇ、建物大丈夫かなこれ」
俺のなかでドルチェットにバーサーカーの称号を付与した。
ていうか本当に建物が心配である。
どうか脱出するまでは崩壊しないでくれ。
チクリとエクスカリバーからの視線が強まった。
おっといけない。
こっちも仕事をしなくては。