町ぶらではない。
まさか強制的に指輪を装着されるとは思ってないだろう。
みんなが俺を興味深げに覗き込んでいる。
ということはもう見た目が変わったんだろうか。
「ふむ、このままでは面白くないな。髪を長くしても良いか」
と、アスティベラードがそう言う。
別に面白さは求めていないのだけど。
「なぁ、体格は?同じ背丈だと感付かれないか?」
「変えられんこともないが、あまり変えると動きに齟齬がでて怪我をするぞ」
そんなことあるんだ。と、思いながらも本人が置いてきぼりになっているので参加するべく口を開いた。
「あのさ、感覚が全く変わってないんだけど本当に変わってるの?」
「ちゃんと変わっておるぞ。鏡でも見てみるか?」
アスティベラードに鏡を渡されて覗き込んだ。
少しワクワクしていた事は認めよう。
「…」
何てことはない。
女フォルムに変更された俺の顔があるだけだった。
「なんだ、対して驚かんな」
「一度見たことあるからね」
ブリオンイベントで“あべこべ祭”という謎イベントが開催された。
三日間、普段のフォルムから無料で変更でき、性別変更や種族変更、獣型変更という初期設定で一度決定したら変えられないものが変更できるとして、わりと人気だった。
もちろん俺も参加し、色々変更して楽しんだものだ。
性別変更もやったので、見たことのある顔だった。
胸は絶壁ではなかったけど。
なんで絶壁なんだ。
……いや別に関係ないか。
アスティベラードがつまらぬなぁと言葉を溢している。
ごめんね。
「んー」
試しに胸やら腕やらに触れてみた。
実際触っても特に変わっている感じもない。
見た目が変わっているのにこれは、なんか変な感じ。
「どんな仕組みなのこれ」
せっかくなので聞いておきたい。
「うむ、私も良くは分からぬが、魔力の性質と何かをを混ぜて……外見をこう、…………聞いたのがだいぶ前だったゆえ忘れた」
とにかく、元の肉体の上から何かで被っているらしい。
へぇー。
肝心な部分が聞きたかったけど、俺も記憶力が良い訳じゃないからいいか。
そのうちマーリンガンにでも聞こう。
「とりあえず元の外見から変えるために弄るぞ」
「へいへい」
もうお好きにどうぞ。
アスティベラードの外見を変更する指輪のセットらしい。
クレイがみんなの意見を聴きつつ魔法具で調整して好き勝手に改造さた。
最終的に俺の見た目は俺とはかけ離れたものへとなったのであった。
姿見を見るとアスティベラードやノクターンの親戚みたいな見た目にされていた。
感覚は全く変わってないのに見た目がこんなだと変な感じだ。
ちなみに着たままだ。
だけど鏡の中の俺は全く違う女物を着せられていた。
「服はドルチェットっぽいんだね」
ドルチェットの服は女物だけど、動きやすいように要所要所で考えられたものだ。
それをこう、少しずつ改編してある。
俺の疑問にクレイが言いずらそうにしながらも答えた。
「……どうしてもその体格に合うのがな」
「は? ………、ああ、なるほど?」
何がとは言わないけど納得した。
「アン?」
ドルチェットは理解してないみたいだけど。
良かった。バレたら殴られているかもしれなかった。
最終調整も済んで、準備万端。
さて、エクスカリバー奪還作戦を開始する。
アスティベラードに香水を振り掛けられて擬態完了。
顔を見られてないメンバーの、特に防御力の高いクレイが護衛で付いた。
これで俺がエクスカリバーを探し回っているなんて分からないだろう。
もちろんトクルも警戒と万が一の伝令で付いて貰っているから、安心。
「此処だとどっちの方向だ?」
「あっち」
「あっちだな」
もくもくと移動しては視線を探って教える。
あまりにも視線が正確だから、これなら四点じゃなくてもいけそうだと言われた。
それは良かった。
偽物の長い髪が風に吹かれて視線を遮る。
髪の毛って邪魔なんだな。
纏められるものを持っていれば良かった。
そんなことを思いながら、なんとなく辺りを観察する。
俺に注視している奴は居ない。
もちろん人間だっていう視線はあるけどそれだけ。
いや、なんかちょっと違う視線もあるけど、警戒している視線はない。
擬態は完全完璧。
とはいえ。
「……んー」
なんだろうな、この役立たず感で凄い落ち込みそうだ。
実際歩いているとこの姿だからか変な輩に絡まれそうになったりした。
これ、性別変更しない方が良かったんじゃないか?
いやでも匂いがなぁ。
足手まといになっている、そんな言葉が頭の中をグルグル回ってだんだん落ち込んできた。
なんとなくどんよりしていると、クレイに「なぁディラ」と話し掛けられた。
「オレ達はな別にお前の強さを取り戻して欲しいから協力している訳じゃねーんだから、そこは理解してくれ」
「?」
いきなり何の話かと思ったけど、俺が落ち込んでいるのに気づいていたようだ。
「もちろん元に戻って欲しいからってのはあるさ。強さは大事だ。
でもそれよりも、このまま聖戦が始まったらお前はどうなるか分からない。最悪死ぬ可能性があるんだろ?」
「つまりは俺に死んでほしくないと」
「当たり前だろうが。お前だってオレやみんなが同じ状態になったらそうするだろ?」
「たしかに」
言われれば俺もきっとみんなが同じになったら同じように行動する。
足手まといとか、そんなのは気にしないだろう。
良くないことがありすぎてナーバスになってたみたい。
頭を切り替えた。
よし!なら落ち込んでる暇はないな!
「がんばるぞー!!」
「目立つな目立つな」
「どの方向だ?」
「あっち」
俺が指差し、クレイが地図に書き込む。
これで必要な線は揃った。
後はこれを元に位置の割り出しだけだ。
「トクル!こっちー!」
俺に呼ばれたトクルが俺の頭に降りてきた。
そのトクルにクレイが地図を小さく丸めて足の収納鞄に入れる。
「これを先に運んでてくれないか?」
「ケイケーイ」
トクルが地図を持って飛んでいく。
これで宿に居るアスティベラード達が先に位置を割り出してくれるだろう。
そうすれば帰る頃には場所が特定されているだろうから、すぐに突撃できる。
多分話し合いが通じる相手じゃないから粗っぽくはなるけど、其処は仕方ないだろう。
殴られた仕返しもしたいし。
このままだと無理そうだけど。と、自分の細腕を眺める。
これ、マッチョメンだったらどんな女性になってたんだろうか。
吉田沙○里とか?
「!!」
ピンとエクスカリバーとは違う方向から“視られている”ような感覚がして振り返った。
「どうした?」
「なんか、今……」
しかしどんなに注意深く目を凝らしていても誰かがこっちを見ている感じはしない。
視線もエクスカリバーのものだけになっている。
気のせい?
「いや、なんでもない」
多分気のせいだ。
「あれ?お前まだそのレベル測定器付けてるのか」
何のことだろうかとクレイの視線を追うと、左手首の装着に気が付いた。
「あ、忘れてた」
つい馴染みのなる形状と付け心地で外すのを忘れていた
無くさないようにさっさと外して鞄に仕舞っておこうと手を触れると間違ってスイッチを押してしまって起動した。
やべっ!と思って慌ててオフにしようとした時、ふとなんとなく、本当になんとなく小声で「獲得スキル表示」と呟いてみた。
すると、レベル表記が回転し、なんとスキル一覧が表示されたのだった。