笑えない冗談である
「ふん!なんだ、たあいもない腑抜けどもが」
そんな事を言いながらイケメンが俺の横へとやってきた。
改めて見てもイケメンである。
褐色の肌にサラサラな黒髪ショートヘア、細マッチョの三点が揃えばどっかの漫画の主人公みたいな容貌だった。
そんなイケメンに俺は話し掛けた。
「ありがとう助かったよ」
ところで、と俺は話を続けた。
「アスティベラードだよね?なにその姿」
イケメンがこちらを見て、ふ、と笑う。
「なんだ、気付いておったか」
「だって後ろにクロイノがいるし」
イケメン、もといアスティベラードが後ろのクロイノを見る。
「なんだ、これでバレるとは。今までクロイノが見えていた者が居らんかったから気付かなかったわ」
納得した様子で、アスティベラードが左手人差し指に嵌めていた指輪を弄ると、途端にイケメンの姿がボヤけていつものアスティベラードの姿へと戻った。
こっちのが安心するな。
「見たことの無い魔法具だ」
「とても貴重なものだ。確か五つ程しか作られておらぬものだったはず」
そんな貴重なものを何故持っているんだろう。
「最近めっきり使う機会が減ったゆえ、忘れておったわ」
多用してたのか。
ポンと出せる大金のことも含め、アスティベラードって謎だよな。
どっかの貴族とかありそう。
だった場合なんでこんなところに居るのかって話になるけど。
「しかし派手にやられたな。お前らしくもない」
「うん、俺も意味が分からないよ。思うように動けなかったし」
目で追えはしたけど体が追い付かなかった。
こんなこと初めてだ。
言うならば、ゲームのモニターでは余裕で対処できるスピードだったのに、コントローラーの反応速度が遅くて普通に負けたみたいな感じ。
この前の怪我も治ったし、普通に元気なんだが、なんでだろう。
気になる事は幾つもあるけど、まずはエクスカリバーだ。
逃げられてしまったけど、とりあえずはエクスカリバーの位置はずっと分かる。
建物越しに視線が刺さってくるのはシュールだけど、今回は助かっている。
というか、前よりも視線が強いというか、何故はやく追い掛けてこない?という謎の圧が掛けられている感じもする。
追い掛けることは可能。
「立てるか?」
「……うん」
嫌な予感がしながらも立ち上がると、途端に強い痛みが左足に走った。
「……ッ」
この差し込むような嫌な痛み、おそらく捻挫だ。
「ごめんアスティベラード。足捻ったみたい」
お腹に受けた攻撃で転がって壁にぶつかった時に変な痛みが走っていたから多分あのときに捻ったようだ。
鼓動にあわせてズキンズキンと痛むせいで立つことはできるけど歩けない。
「どうした。痛めたのか?」
「ちょっと足首がね。大丈夫、けんけんしていくから」
途中とんでもなく長い階段があったけど、休み休み行けばなんとかなるだろう。
「バカをいうで無いわ。案ずるな、すぐにノクターンもここにくる」
そう言いながらアスティベラードが上を向くと、そこにはトクルがこちらへと飛んでくる最中だった。
そのままトクルは俺の頭に着地して、ピュルルルルと溜め息みたいな音を出した。
トクルの体重が地味に足にクるな。
しばらくすると誰かの足音が聞こえてきた。
硬い音だ。
そのまま近付いてきて、人影がこの路地へとやってきた。
「あ、アスティ……っ!見つけました…!」
かなり着込んだ男と思わしき者と、それに背負われている気弱そうな青年だった。
多分、ノクターンとロエテムだ。
「あ…あれ…?ディラさん…?」
正解である。
「あれノクターン?」
一応アスティベラードに確認を取ると、うむ!と肯定された。
「ノクターンも同じ指輪を持っておる。ロエテムは着込ませた」
「へぇ」
貴重な五つのうち二つが間近にあるって変な感じ。
そうこうしている内にノクターンも元の姿に戻り、ロエテムから降りた。
フードからはいつものロエテムの面が見える。
「ノクターン、ディラが足を痛めておる」
「え…」
不思議そうな顔でこちらを見るノクターン。
戦闘以外で俺が怪我をしたのが不思議みたいなことを思っているんだろうか。
「あの…痛めているの足だけではありませんよね…、そのお腹とか…」
なんで殴られたお腹も痛いのがバレたのか。
それともそういう魔法でもあるんだろうか?
アスティベラードはノクターンの言葉に「えっ」という顔をしているから、見た目でバレた訳では無さそう。
「あー、まぁ、そうなんだけど。今一番痛いのが足なんだ」
靴のせいで見えてないけど、多分めっちゃ腫れている気がする。
折れてはないとは思うけど。
「分かりました…」
ノクターンの治療魔法で足の痛みが引いてきた。
相変わらず凄い魔法だ。
お陰である程度の速度なら歩けるくらいには回復した。
それにしても凄い腫れていて驚いた。
あまりにも腫れていて、立てるけど折れているのかもと思ったほどだ。
「重度の捻挫でした…。とりあえず軽度までは戻せましたけど、あと一回治療魔法を掛けた方が良いです…。それとお腹は一度戻ってきちんと診てからの方が良いと思います…。多分今は足よりもお腹が痛いと思いますが、少しの間我慢していただきます…」
「さすがにね、うん。大丈夫大丈夫我慢できるよ。この前のよりかはマシだし…」
ノクターンの言う通りお腹の痛みで脂汗が出てきたけど、この前のものよりはマシだと誤魔化した。
いやマシか?これ。
こっちのが酷いような気もする。
「ノクターン…、腹からやった方が良かったのではないか?顔色が砂の色をしておる」
「……ま、麻酔の魔法を試してみます…」
ノクターンの魔法が効いて楽になった。
「じゃあ宿に戻るか」
よいしょと歩き出そうとすると突然体が浮いた。
あれ?と思っていると、あれよあれよという間にロエテムの背中に収まった。
「ロエテムが、怪我人は安静にしていた方が良いです、と…」
「ありがとうロエテム」
ここは素直に甘えますか。
スキルが使えなくなった原因も分からないままだけど、まずは体を治してから体制を立て直してからの方が良い。
それに多分エクスカリバーだって頑丈だから壊されたりはしないだろうし。
……しないよね?
宿に戻ると、俺の有り様を見た皆が驚いていた。
それもそうだろう。
ここまでボロボロなのは初めてだ。
「一人で聖戦でも行っていたのか?」
ドルチェットにもこんな事を言われるくらいだ。
しかし残念なことに聖戦で負ったわけではない。
とりあえずはと、お腹の治療を受けてから現状説明することにした。
それにしてもお腹の色もヤバかった。
紫通り越して黒いのは始めてみた。
説明を終えると、クレイが「それで」と切り出す。
「何のスキルを発動しようとしたんだ?」
「何の?えーと…、あの時は手元に武器がなかったから筋力強化と身体能力向上かな」
「今も無理か?」
「ダメだね」
発動する気配すらない。
「その他は?」
落ち着いて思い出してみる。
あの時は正常にスキルが発動しなくてパニックになっていた。
「千里眼とかもダメだった。あとは弓矢生成とか、その他はあんまり覚えてない」
「むしろ何ならできるんだ?」
「いやそれが分からないから困ってるんじゃん」
分かったらそれで対処したよ。
そこでドルチェットがふと思い付いたように言う。
「なぁ、もしかしてだけどお前レベルどうなってんだ?」
「え?どういうこと?」
スキルが使えなくなっている事とレベルの関連性が分からない。
「お前のその感じ、もしかしたらレベルリセットみたいになってるんじゃね?」
場の空気が固まった気がした。