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二段構えは卑怯だと思います


 地図と買い物メモを交互に見つめる。

 買い終わったものは✕印を付けていき、買い物リストは残りひとつになった。


「んー、あとはドライフルーツだけか。あるかなぁ」


 荒廃した大地に果たして果物があるんだろうか。

 いや、もしかしたら魔界特有のものがあるのかもしれない。


「……」


 階段を下りながら何とも無しに天井の穴付近に視線を向けると、そこには見たことのない鳥が飛んでいた。


 なんだろうなアレ。

 今までは普通にブリオンにも出てくるものばかりで分かりやすかったのに、段々と知らないものが増えてきた。


「…まぁ、そりゃそうか。ゲームの中じゃないもんな」


 むしろ今までが変だっただけだ。

 そう思うとしっくりくる。

 さて、目的の店はもうすぐだ、急ごう。






「ふむ、思ったよりも種類があったな」


 袋に詰められたドライフルーツを揺らす。

 思ったよりもはるかに高値だったけど、こればかりは仕方がない。

 ドライフルーツはこの世界でのビタミン剤らしく、これさえ定期的に食べてれば血が壊れないのだとか。

 血が壊れるっていうのも意味が分からないけど。


「せっかくだし何か買い足そうかな。グラーイの要望の素材も考えなきゃだし」


 単純に口を作るだけだったらなんとかならないこともない。

 問題はベロだ。

 別になくても良いじゃんとは思うけど、せっかくだし作ってあげたい。


「布はありきたりなんだよな。かといっても思い付くものもないし」


 後でマーリンガンにでも相談してみようか。

 魔法具製作のプロならば、何か面白い意見をくれるに違いない。


「あ、でも此処で手に入らない素材を勧められても困るな」


 そんなことはないと思うけど、何気に凝り性のマーリンガンなのだ。

 万が一ということもある。


「ん?」


 前方がなにやら騒がしい。


「んーー?」


 何だろうかと目を凝らしてみると、子供のような人達が慌てた様子で駆けてくるのが見えた。

 あれは確かハーフマンだったっけ。

 スリに気を付けろとの、クレイの言葉を思い出す。

 俺は前にも財布をスられたことがあるから、特に気を付けないといけない。


 鞄をさりげなく抱え込む。

 これで大事なお金の心配はない。

 いつでも引っ張ってこい。絶対に離さないからの精神で踏ん張る。


 しかし予想外にハーフマンはただ俺の横を素通りしていった。

 あれ?

 誤情報だった?


「邪魔だ退けニンゲン!!」

「うわっ!?」


 油断したところに巨体が突っ込んできてなす術もなく吹っ飛ばされて地面に転倒した。


「ってぇー…、絶対に青タンできた…」


 起き上がりつつ打ち付けた膝を擦る。

 一瞬見えた突っ込んできた相手は牛だった。

 正確に言えば人形の牛。

 ミノタウロスとか言うんだったっけ?

 牛の突進は卑怯すぎると思う。


「あたたた。……ん?」


 違和感を覚えた。

 なんだこの違和感。

 とりあえず抱えたままの鞄を確認する。

 鞄は無事だった。

 手を突っ込んで財布を確認すると、それも無事。


 なんだ?何が違和感なんだ?

 視線が突き刺さる感覚で、俺は嫌な予感がして腰元を確認すると、エクスカリバーが消えていた。

 ザッと下がる血の気。

 エクスカリバーが盗られた。

 とするとこの突き刺さってくる視線はエクスカリバーのもの!!


「まずいまずいまずい!!!!」


 なんで千里眼が発動しなかったんだの疑問はさておき、俺は視線がやってくる方向へと全力で駆け出した。


 焦っているせいなのか体が重い。

 いつもよりも息が切れる。


「ちょ、すみません!すみません!」


 相変わらずスキルのマーカーが発動しないけれど、エクスカリバーの視線は問題なく追えている。

 人を掻き分けながらエクスカリバーを追っていると、人混みの間にさっきのミノタウロスと大きな蜥蜴の獣人が誰かと話ながら裏路地へと向かっているのが見えた。

 話している相手は走ってきていたハーフマン。

 アイツらぐるだったのか。


「あっ」


 ミノタウロスの手には俺のエクスカリバー。

 やっぱりあの野郎が盗ってたのか!

 怒りを抑えながら俺も裏路地へと駆け込んだ。


「お前ら待て!!!」


 俺が声をあげると「アア?」とミノタウロスとハーフマン達が振り返った。


「なんだこのニンゲン」


 さっき思い切り突き飛ばしたくせに白々しい。


「俺の弓を返せ。それは俺のだ」


 ケンタウルスとハーフマンが顔を見合わせてゲラゲラ笑う。


「なーにを言ってやがる。これは俺様のだ」

「そうだスッ込んでろニンゲン」

「自分のものだって言うなら取り返してみな」


 指先で掴んでプラプラされるエクスカリバーが不憫すぎる。

 待ってろすぐに取り戻してやるからな。

 まずはスキルで身体強化を──


「?」


 何でだか分からないけどスキルが発動しない。

 何か変だ。

 使いたいスキルが殆ど発動しない


「え、なに?どゆこと?」


 スキルが発動しないとか訳が分からない。

 だけどスキルが発動しなくたってエクスカリバーは取り戻さねばならない。

 仕方がない。

 残された道は取っ組み合いだ!


「うおりぁあああああ!!!!」


 全力で走ってケンタウルスに組付くがびくともしない。

 ほんと、一ミリも動かない。

 なんだこれ、本当に色々なんかおかしいぞ。


「なんだ?こんなもんか?」

「ほーらよっ!」

「!」


 ケンタウルスが拳を振り上げる。

 もちろん俺を殴るためだ。

 一旦これを避けてから次の手を──


 頬に走る衝撃。

 あれ?なんで俺はこれを避けられなかったんだ?

 見えてはいたけど、体が間に合わなかった。

 よろけながらも何とか耐えると、ケンタウルスが体制を低くした。

 やばい。


「うぐっ!!?」


 体重を乗せた拳を鳩尾に喰らい、ふっ飛んだ。

 転がって壁にぶつかって止まる。

 ビックリするほど痛いんですけど。

 あまりの痛みにうずくまると四方八方からハーフマン達に殴る蹴るの数の暴力が始まった。


「なんだこいつ、突っかかってきたくせにヨエー」

「な~にが返せだ!反撃してみろよ!ほらっほらっ!ほらッ!!」


 小さいながらも力が強いのと、数が多いせいで反撃が出来ない。

 しかも合間に蜥蜴の獣人の蹴りで動けなくさせられる。

 本当に反撃の隙がない。

 まずい、このままだと普通に骨の一二本持っていかれる。


 あまりの暴力の数に意識が飛びそうになっていると、急に後ろからガツンッ!!!と凄まじい音がした。


「何をしているか!!!無礼者がッッ!!!」


 萎縮しそうな圧と低くて威圧感のある声に拳が止まる

 そこには色黒の超絶イケメンがいた。


「お、おい、兄貴なんかやばそうなの来たぜ」

「なんだヒビってんのか?こんなニンゲン一匹──」


 カッとイケメンが目を見開いた。

 どうやらお怒りの様子。イケメンの怒り顔は迫力がある。


「!」


 その怒りMAXのイケメンの後ろに、巨大なクロネコの虚像が見えた(気がした)。

 おや?


「退けいッッ!!!!」


 ゴウと、身に覚えのある威圧が空気を震わせて襲ってきた。

 あー、これ……、もしかして??


「ひっ、ひぃっ!」

「なんだあいつヤベェー!!!」

「あっ」


 イケメンの迫力に圧されて、スリグループが一目散に奴らが逃げていく。

 俺のエクスカリバーごとだ。


「ああ…エクスカリバー……」


 また離ればなれになってしまった。





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