荒野ぶらり旅
町を求めて移動していると突然マーリンガンからの通信が入った。きちんとワープが使えたかの確認だろうか。
早速通信を繋げた。
「もしもーし。マーリンガン?」
だいたい通信を繋げて数秒でちっこいマーリンガンが近くに出てくるのだが、マーリンガンのホログラムが起動しないところをみるや、今回は音声だけの通信らしい。
『あ!ディラくん?ねぇちょっと確認したいことがあるんだけど』
マーリンガンは心なしか慌てている風だった。
そういえば忙しいとか言っていたな。
『君さ、キノコの知り合いっていない?』
……うん?
今キノコとか言ったか?
聞き間違いかと思って聞き返してみた。
「え、なに?キノコ?」
『そう。キノコ』
聞き間違いじゃなかった。
聞き間違いであってほしかった。
「いない」
『本当にキノコの知り合いいないの?』
「いません」
『本当に??本当の本当に??』
「いないってば!!もう切るよ!またね!」
通信切った。
変なものでも食べたのか。もしくはお酒でも飲んでるのか。
「なんだよキノコの知り合いって」
普通に意味が分からん。
するとクレイが恐る恐るといった感じに言ってきた。
「……なぁ、お前のペットじゃね?初めて会った時に紐で括って散歩させてたじゃん」
「?」
はじめて会った時?
そんなの居たっけとクレイとの再会の時を思い出してみた。脳裏に甦ってきた足の生えた変なキノコと「きゅっ」という甲高い鳴き声らしいもの。
「……、…あっ」
思い出した。
今思い出した。
そういえばアルキキノコをしばらくペットにしてた。
完全に忘れてた。
俺が思い出している最中後ろでコソコソとみんなが「え、あいつキノコペットにしてたの?」「キノコ男ってあいつのことだったの?」などの声が聞こえてきた。
やはりキノコ男という別名が付いていたのか。
「かけ直したら?」
「そうする」
クレイの提案に従ってマーリンガンに掛け直したけどマーリンガンは出なかった。
「どう?」
「出なかった。また後で掛ける」
「そうしろ」
またしばらく歩きながら俺は、ちょっと疲れてきたなーと思った。
思えば迷宮探索で長距離を歩き回り、しかも聖戦含めの連戦続きで疲れてないわけがなかった。
それはもちろんみんなもそうで、特にノクターンが歩くのしんどそうにしていた。
今日は魔力を凄く使ったらしいからそのせいかもしれない。
特に治療用の魔法は通常の魔法よりも使う魔力が多いらしい。
その時、とあるモノを思い出した。
「あ、そうだ。みんなちょっと待って」
そう言えばみんなは「なんだ?」と止まってくれた。
俺はよいしょと地面に座り、鞄からグラーイを取り出して組み立てる。
「よし!グラーイ、起きてー」
完成したグラーイがゆっくりと少しだけ首を上げて辺りを確認する。夢から覚めたようにぼんやりとしている風だったが、立ち上がって全身をぶるぶると震わせた。
「おはようグラーイ。気分はどう?」
声をかけつつ通訳のロエテムを見ると、「問題ないそうです」と回答した。
良かった。何か不具合があったら大変だった。
グラーイはキョロキョロと忙しなく辺りを見回している。
最後に見た光景と様変わりしているから仕方無いだろう。
「隣の地域に来たんだ。馬車はまだ手に入れてないけど、ノクターンを乗せて貰える?」
疲れているみたいなんだと付け足すと、グラーイはすぐにノクターンの元へといき、しゃがんだ。
「あ…、助かります…」
よろよろとノクターンが騎乗するとゆっくり立ち上がった。
グラーイ、なんて賢い馬なんだ。
「アスティベラードは大丈夫か?」
クレイがアスティベラードを心配するが、アスティベラードはフン!と鼻で笑う。
「無論。疲れればクロイノに乗るゆえ心配は無用」
「それもそうだな」
「俺も疲れたら乗せてくれない?」
クロイノに訊ねると、クロイノは尻尾を一回だけ振った。
どっちの返事なんだろうか。
そこからしばらく歩くけど町らしきものは全く見えてこない。
しかも日がだんだん低くなって来てしまった。
「こりゃ野宿だな。早い内にしたくした方が良さそうだ」
「じゃあ枝拾わなきゃね」
「とりあえず歩きながら拾いつつ、良さげな場所で野宿の準備だ」
「うーん。これ、どう考えても足りないよなぁ」
その都度拾っていたけれど、こんな荒地じゃどうやったって足りなかった。
結局良さげな野営地を決めてからみんなで枝を探すことになった。
「んー…」
近付くなと言われた枯れ木を見つめる。
もしあれがトレントなら近付くだけて攻撃される。
けどその範囲には限りがあるのも俺は知っていた。
無言でエクスカリバーを展開する。
つまりは、その範囲以外から攻撃すればトレントか見分けられるし、攻撃も出来る。一石二鳥である。
とりあえず今はみんなよりも遠いところにいるから攻撃対象は俺だけになる筈だ。
これも野宿のためだ仕方がない。
「えいや」
矢を射った。
とすんと矢が突き刺さった幹が震え、バキバキと音を立てて変形した。
残念。この枯れ木はトレントだったようだ。
「……思ってた形態と違うな」
トレントはトレントであるが、俺の予想していた形態と違うトレントだった。
ブリオンのトレントは木の化け物だったけど、目の前のトレントは見るからに虫だった。
ナナフシっぽいような、けれどカマキリみたいにも見える虫だ。
鎌が通常の位置と、前方にとても小さな鎌の四つ。
ブリオンでは見ないモンスターだった。
トレントはギチギチと威嚇音を発しながら襲い掛かってきた。
それを一矢で仕留めると、体が硬化してただの枯れ木のようになった。
弱点は頭の部分だったらしい。
「なんか、思ったよりも弱いし狩りやすいなこいつ」
しかも関節から綺麗に折れるので集めるのが楽。
「あと二匹位倒せば良い感じになりそう」
そういう感じでトレントっぽい形の枯れ木を淡々と狩っては枝として集めたら、結構な量になってしまった。
それを持って戻ると、クレイに「なんだその量。宴はやらんぞ」と言われた。
集めすぎた。
薪にしながら、なんとも無しに枝を縦に割ってみた。
もしかしたら食べられるものがあるかなと思ったけど、中はかすかすの空洞があっただけだった。
死んだ時に萎んだんだろうか。
携帯食を食べる。
乾パン並みに硬いカロリーメイトのような携帯食だ。
ほんのりと甘いはずだけど、なんでかあまり甘くない。
「なんか味薄くない?」
「そうか?」
「粗悪品でも掴まされたんじゃね?」
「ええー」
だとしたら最悪だ。
「分けてやろうか?」
アスティベラードの優しさにホロリとした。
「いやいいよ。もしかしたらもう一本は普通かもしれないし」
しかし意に反してもう一本も無味であった。
悲しみ。
携帯食を食べながら見張りの順番決めた。
俺はちょうど真ん中だった。
眠い時間帯だ。頑張ろう。
見張りを交代し、火の管理をしながら夜空見上げる。
見上げた夜空が、あの草原で見た夜空と重なった。
轟音と共に迫り来る巨大な光が一瞬の内に何もかもを吹き飛ばした。
剥き出しの赤が空を覆って全てを焼いた。
「あれって、隕石だよな…」
あの時に見た少年たちは、こちらの世界よりも俺たちのものに近かった。
格好しかり、道具しかり。
それもろとも隕石は消し去ったけど。
隕石関連の知っている事柄は、学校で習った恐竜が絶滅したというもの。
明らかにあれよりも大きいもののような気もするけど、大きさ知らないから只の勘だ。
「世界史とっときゃよかったかな」
そうしたら恐竜絶滅の隕石の大きさときちんと比較が出来ただろうに。
いや、よくよく考えてみたら勉強嫌いな俺がまともに内容を覚えているわけがない。
ハッとした。
もしかしてそれ込みで俺の脳内に情報を流し込んできたのか。
といっても頭が悪いせいで全然飲み込めてない上に理解が出来てないのだが。
まぁ、おちおち理解が出来れば良いか。