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四つの属性を学びましょう

 ディラ一行がワープで消え去った一時間後。

 コクマー中央都市。




「ええい!酷い目に遭った!」


 そうボルガは怒りを露にした。

 それもそうだろう。

 あんなにまで、それこそ手が届く距離にまで接近できたというのにまんまと逃げられてしまったのだから。

 おまけに迷宮内に閉じ込められ、障害物を退けて迷宮から解放されるまで一時間も時間を無駄にしてしまった。


 しかし、こう怒っていても終わってしまったことはどうしようもない。

 ボルガは大きく息を吐いて落ち着いた。

 まずは“なぜ逃げられてしまった”のかを確認して対策を練らねばならない。


「んんっ。おい、そこの」

「はっ」

「奴が逃げた瞬間の状況を報告したまえ」

「は、はい!」


 報告によると、アサヒ・オノデラに攻撃を仕掛けたが、着弾する寸前に変な光が瞬いて消えてしまったらしい。


「光が瞬いて消えた?そんな魔法あったかね?発動痕で特定は出来ますでしょう?」

「いえ…はい、あの、それが未知の痕跡でして特定が出来ないと」

「ふむ…」


 ボルガは考えを巡らせる。

 ありとあらゆる神樹術(シンキジュツ)、知っている限りの魔法、魔道具を思い浮かべたが当てはまるものはなかった。

 うっすらと頭の片隅に禁術である空間転移(ワープ)の魔法が過ったが、すぐさま現実的ではないと否定した。


 では一体なんなのか。

 唸るボルガの元へと、中央都市の司教がやって来た。


「逃げられてしまったのですかな」

「これはエルティ司教。ええ、誠に残念です」

「ははは。なに、我々にだって切れるカードはあるでしょう。期を待つのです」

「うむ…、それは確かに…」

「しかし、だからといってただ待つだけというのも味気ない。ああ、そこの君。勇者殿を呼んできてもらえんかね?」


 はっ!と返事をした兵士が駆けていく。


 今回の聖戦での作戦のため、勇者コータはこの中央都市に滞在していた。

 最も作戦は失敗してしまったものの、こうして直接相対出来る。


 しばらくして勇者コータが兵士に連れられやって来た。

 黄金の髪に金の瞳の青年は、まさに勇者に相応しい相貌をしていた。

 腰に下げられているのは神具である“ソード”だ。

 こちらも正当な勇者の神具に相応しく美しい造形をしている。


 その見た目、神具の性質も含めて完璧な配役だった。

 今回の戦いでの怪我を治療している最中だったようで、体のあちこちには包帯が見られたが、それでさえ勇者としては物語のスパイスでしかない。


「おお、来ましたか」

「お加減は如何ですか?勇者殿」


 普段ならば、この時点で人好きのする表情を見せていた勇者コータだったが、今回は聖戦の呪いの影響が残るためか険しい表情のままだった。それどころか少し不機嫌そうな顔でもある。


「何の御用でしょうか?ボルガ様、エルティ様」


 表情に引っ張られているのか声も冷たく感じる。


 なるほど呪いの影響だけではない。

 確実に勇者はソードの神具の特性に侵食され始めている。

 そうは分かってはいるけれど、こうも反抗的な態度は癪に触るが、今は目を瞑ろう。


「うむ。勇者コータよ、貴殿に命令を下す」

「……」


 教会で召喚された勇者コータには、教会に従う義務がある。

 勿論、命令を下せる階級は決まっており、基本は大司教のみだが、ボルガは神具の管理責任者という立場上司教でありながら勇者に対して命令が下せるのだ。

 勿論、今回の神具喪失の失態はボルガの責ではない。

 これは前任の失態であり、ボルガはその後に任に着いた後釜だ。


「アサヒ・オノデラを始末しなさい。そして神具の回収を成功させ、あの汚らわしい偽物から尊い神具を取り戻すのです。

 勇者コータ。これはお願いではありません。教会からの命令です。理解りましたね?」


 命令を無視するのは赦されない。

 そう意を込めて圧をかけた。

 もしこれを無視するというのならば、教会の権限を使用しなければならない。

 それは勇者コータだって知っているだろう。

 若造とはいえ、そこまで頭が悪いとは思っていない。妙に察しの良い彼だ。

 この言葉の意味さえ、それこそ含めた言葉の意味さえ理解している筈だ。


 勇者コータは静かにその言葉を聞き、少し目を伏せてから「はい」と短く返事をしたのだった。











 光が終息すると、目の前の景色が変わっていた。

 一面荒れ地で、空はどんよりと厚い雲が立ち込めている。


「何処だここ?」とクレイが言う。


「えーと、確かビナー?だったはず」


 ワープする直前に目の前に現れた文字がビナーだった。

 なら此処はビナーなんだろう。

 コクマーに隣接する地域だったのは覚えているけれど、それ以外の知識がない。


「ビナーっていえば」

「いえば?」

「魔族の国だ」


 クレイの答えに俺は早速記憶を引っ張り出す。

 魔族と言えばと脳裏に浮かぶモンスター諸々だ。

 確かに魔界らしいとは思うけど、さっきまで人しかいない所にいたからかギャップが凄い。

 ところでひとえに魔族といっても他の地域にだって魔物はわんさかいた。

 どの種族が魔族と呼ばれているんだろう。


「何がいるの?」

「主に魔人と呼ばれる奴らだな。ケンタウルスや有角族、有翼族、小人のハーフマン、あとはなんだ?」

「ドワーフ族やノーム族、いはするけど殆ど見かけないエルフ族とか?」


 ドルチェットも答える。


「でもだいたいいるのは有角族のオルガとドワーフ、ノーム、ハーフマンだな」

「ハーフマン??」

「簡単に言えば小人だな。ドワーフとノームも小さいけど、ハーフマンはもっと小さい。身長が大きくても1mくらいにしかならない子供みたいな種族だ。見た目も子供そっくりだから財布とかのスリに注意な」


 小人といえばホから始まるタイプの奴らなのか、それとも北海道らへんに生息する妖精みたいなのか。

 でも子供みたいというのだから多分どちらでもなさそうだ。


 しかしまたスリか。

 下手したらまた追いかけっこする羽目になりそうだ。

 小銭入れに付けるチェーンでも付けよう。


「とりあえず町か村を探しませんか?その間にさっきの説明をすれば良いのでは?」

「ジルハの言うとおりだな。とりあえず歩こう」

「そうだね」


 とりあえず町を目指して歩く。


「何にもないって言うか、何もいないね」


 見渡す限りの一面の荒れ地で、ちょこちょことまばらに木が生えている。

 枯れ木が多いけど、生物にとってはあまり良くなさそうな土地だ。

 どんな生き物がいるんだろう。

 なんとなく近くの枯れ木を見ながら歩いていると、クレイに注意された。


「あんまり枯れ木には近付くなよ。喰われるぞ」

「もしかしてトレント混ざってるの?」


 だとしたら危ない。

 ブリオンでの奴らは自走して追ってくるし、枝を鞭みたいにして襲ってくるから普通に怖い。


「混ざってる。突然擬態といて襲い掛かってくるから気を付けろよ」

「へーい」


 思ってたよりももっと怖そうなトレントだったみたいだ。


「それで、さっき言ってた4キがなんとかっていうの教えてよ」


 後ろを歩いていたアスティベラードに声をかけると、嬉しそうに足を早めて隣に着いた。勿論その隣にはノクターンとロエテム。


「良かろう!誰もが知っているシャールフ伝記はもう知っておろう?」

「はい。知ってます」


 ノクターンの勉強会で学びました。


「実は勇者というのは一人ではない。複数いて、その内の神具に選ばれた者が聖戦へと参加できる資格を得るのだ。

 話の中にリンゴの鳥が出てきていたであろう。あれで此処ではない違う所、という場所から勇者と足り得る者を招くのだという」

「……リンゴは6個じゃなかったっけ?」


 朧気な記憶を手繰り寄せて首を傾げた。

 だとしたら勇者の数は6人になるはず。


「うむ。恐らく成功の可能性を上げるためであろう。世界樹の周りの地域は過酷ゆえ、鳥にして飛ばしたとしても幾つかは喰われたり潰えたりするのかもしれん」


 鳥でも喰われるってことは、巨大な空飛ぶ蛇でも生息しているのかもしれない。


「シャールフはその内の一つの神具に選ばれた勇者よ。最も活躍した勇者ともいえる」

「へぇ」


 弓職は結構地味な立ち位置だと思っていたけど、此処ではそうじゃないらしい


「その“キ”?ってのは?」

「神具に選ばれた勇者の数え方である。字は“基”。何故こうなのかは知らぬが、すべての物語で勇者の数え方はこう記してある」

「4人ではなくて4基か。なんか変な感じ」

「神具も同じ呼び方をするゆえ、そのせいかもしれんな」

「ふーん」


 なんだか機械みたいだ。


「神具って弓以外に何があるの?多分功太の持ってる剣も神具なのはわかるけど。知らない言葉が多くて…。ほら、ソードとかコップ?とか」


 そういえばドルチェットに呆れ顔をされた。


「カップだよ。まぁ自分達もそこまで詳しい訳じゃねーぞ。せいぜい神具4基の名称くらいだ。確か“ソード”“カップ”“ワンド”、えーと、ぺ、なんだったっけ?」

「“ペンタクル”」


 ジルハの助太刀。


「そうそれだ」

「どういう意味なの?ソードとカップはわかるけど。剣とコップだよね。……コップだよね??」


 勇者とコップがいまいち噛み合わないけど。

 想像してみるけれどシュールな図にしかならない。


「コップっちゃあコップだけど……、普通のコップじゃねーからな?」

「だよね?」


 じゃなかったら想像した通りの可笑しな図になるところだ。


「あとはそのー、ぺ、なんとか」

「ペンタクル」

「それ。それはなに??」


 今度はクレイが答えた。


「コインや護符の意味だな。換金屋の看板になってる円の中に星が描かれているの覚えてるか?」

「あー…」


 言われてみれば確かにそんな看板だった。

 何なんだろうとは思っていた。


「あれがペンタクル。ペンタクルの勇者はシャールフ伝以外の物語では何故か魔法使いで出てくるが…、多分そんなスキルが多いんだろう」

「ふーん。じゃあワンドは?そもそもワンドってなに?」

「一般的に言われているのは杖だな。ノクターンが持ってるそれもワンド」


 ノクターンの杖を見る。

 見るからに魔法使いが使うって杖だ。


「……? じゃあ魔法使いが二人いる感じなの?剣士と魔法使いが二人に……コップ持ち?? 言っちゃ悪いけどバランス変じゃない?」

「まぁそういうな。ワンドというが、その範囲は広い。恐らく一つの枝から派生したモノが対象とは言われている。ちなみにシャールフもワンドの神具だったんだぞ」


 俺は驚いた。


「シャールフが?」

「弓だって元は枝から作られたモノだからな」


 そんなもんなの?と言い掛けて、エクスカリバーとの初対面を思い出した。


「……言われてみれば最初にみたエクスカリバーは棒だったな」


 そりゃもう鉄パイプのこどき棒だった。

 凄く納得した。


「あ、じゃあ教会がワンドをどうのこうの言ってたのって」

「まぁ普通にいつも通りにお前の弓狙ってんじゃねーか?」

「なぁーんだ。つまらない」


 せっかく新しい情報にワクワクしたというのに、結局狙われるのは変わらない事が分かったので、俺の興味は急激に薄れたのだった。



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