表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/200

終わったかと思いました。


 隠密スキルを発動してフードを深く被った。

 これで余程注意深く見られないか、もしくはそれ専用のスキルでないと見抜かれにくくなった。


 とはいえ油断はできない。

 教会の人達がどんなスキルを持っているのか、知らないからだ。

 それでも変に走ったりすれば不審がられる、だからできるだけ自然に、他の冒険者に溶け込むようにして出口へと急ぐ。


「……」


 そういえば、と思い、クレイに問い掛けた。


「ねえ、この迷宮の出口ってどこに続いていると思う?」

「…もしこの迷宮の出口が中央都市だった場合、入口から出てすぐ、わりと近くに大きな教会がある。

 しかも今回は聖戦の関係でもしかしたらその軍の無事な奴らが残っているかもしれない」


 考え得るなかで最悪の答えが返ってきた。


「最悪のケース過ぎない?」


 最悪戦闘になると非常に不味い。

 圧倒的物量で押される。

 一般人関係なく暴れられれば関係ないけど、そういうわけにもいかない。


「まぁな。とはいえここの他に出口は結構な距離がある。しかももうこれは使えないだろうし……」


 と、ワープの鍵である地図を示す。


「運に任せるしかないだろうな。…とりあえずオレの服着とけ、それだけでもすぐには特定されないだろう」


 ほれ、と手渡された予備のクレイの上着を自分の服の上から羽織る。

 盾職用の服だからか厚みがあって、重い気がした。

 生地の中に防刃や防弾みたいに攻撃を当さない素材でも入っているんだろうか。


 そうこうしている内にだんだんと廊下が上り坂に変わっていく。


「出口まではあと少しだな」

「なんだか人が増えてきたね」

「というか怪我人多くねーか?」


 出口が近いからか一般の冒険者が増えてきた。

 それだけならなんとも思わないのだが、今回の聖戦場所のせいもあって、ドルチェットの言うとおり怪我している人が多いように見えた。

 耳を済ませば「酷い目にあった」だの。「一体なんだったんだあれ」との声が聞こえてくる。

 もしかしてだけど、聖戦が始まったことを一般人は知らないのだろうか?






 とうとう外の見えるエントランスのような広い空間へとやってきて、俺は目の前の光景に絶句した。

 広い空間の壁際に大量の人が転がされている。

 大怪我をしている者。体の一部が凍り付いてしまっている者。発狂している者もいる。

 その中に混じって教会の人のような服装の人が忙しなく手当てを行っている。

 教会の本来の役割なんだろう。非常に手際が良い。


 といっても俺が出会ったのは殆どが凶悪な奴ばかりだったけど。

 始めの奴しかり、念入り男しかり。


 そんなわけで、俺は教会にディラ、もしくは小野寺朝陽だとバレやしないかとヒヤヒヤしながら歩いた。

 とりあえずできるだけ壁際から離れて──


 ドンと何かにぶつかった。


「あ…ごめんなさい」


 見事な銀色の髪の少女がぶつかった拍子によろけて手に抱えていた荷物を一つ落とした。


「いえ、こちらこそ…」


 いや、声が思ったよりも低い。少女じゃなくて少年だったようだ。自分の足元に転がってきた瓶を拾って手渡した。

 服装は教会のもので一瞬固まったが、少年は俺を見ても特になんの反応もしない。

 教会関係者だからといって、みんながみんな俺の顔を認知しているわけではないようだ。

 まぁ隠密スキルも発動しているからのような気もしなくもないけど。


「あの…、しつれいしますっ」


 それだけ言うと少年は去っていき、壁際の怪我人のもとへと向かっていく。

 なんとなくその姿を目で追いかけてしまった。


「……」

「おい、何してんだ早くいくぞ」


 ドルチェットに小声で急かされて、ハッとして歩みを早めた。次の瞬間──


「……!」


 急に視線が突き刺さった。

 エクスカリバーから送られてくるような視線ではない、もっと明確に突き刺すような、それこそ“探知”され、“特定”されたかのような嫌な種類の視線だ。


「おいそこの赤錆色のマントの奴、止まれ」

「!」


 突然の呼び掛けに俺の心臓が大きく跳ねた。


 俺のマントは赤錆色だ。もしやバレたのか?


 あまりにも的確な命令口調に思わず足を止めてしまった。しまった、とは思ったけれど、逆に歩き出すのも不審に思われてしまう。

 しかもこの声はあの念入り男のものだ。


「どうされましたか?ボルガ様」


 そうだ、こいつボルガって名前だった。

 そのボルガがゆっくりとこちらへと歩いてくる。


 どうしよう。

 どうしたらいい?

 まだここは外じゃない。

 いっそのこと暴れて逃げる?

 いやダメだ。


 色んな案が浮かび上がっては却下される。

 此処はあまりにも場所が悪すぎるのだ。

 しかもボルガが良く通る声で呼び掛けたお陰で、周囲に居る人間の視線を集めてしまっていた。

 こんなに大勢の人の視線を受けてしまえば隠密スキルは意味をなさない。あれは見えなくなるのではなく、その人にとってはどうでも良い存在にレベルを下げる、だけのもの。

 だからこうして特徴を込みでの指定は隠密スキル対策で最も有効な手段の一つだった。

 どうでも良い存在から、目で追う程度に気になる存在にレベルを上げられた。

 それこそもう隠密スキルに対するマニュアルでもあるのかと思うほど。


 コツコツと足音が聞こえる度に、みんなからぴりついた気配を感じる。


 コツンとすぐ側で足音が聞こえ、ボルガが俺の顔を覗き込んだ。


 ボルガと目が合う。

 あ、ダメだ。これ完全に隠密解けた。

 その証拠にボルガの瞳孔が開き、大きく息を吸い込んだからだ。


「貴様!!!アサヒ・オノ──うわっ!」


 ケーイケーイとトクルがけたたましく鳴いてボルガの頭に鉤爪キックをお見舞いして攻撃してきた。

 鳥にしては結構な大きさのトクルに襲われるのはさぞかし恐怖だろう。

 ボルガは必死に顔を隠しながら腕を振ってトクルを追い払おうとしていた。


「ちょっ!なんだこの鳥ッ!?」

「急げ」

「っ」


 アスティベラードに手を引かれて駆ける。


「早く後ろへ!!」


 いち早く外に出ていたクレイがこちらに呼び掛ける。


「捕まえろ!!ソイツは指名手配犯だ!!逃がすな!!」


 トクルから解放されたボルガが叫びながら命令を下す。それを合図に迷宮内にいた教会関係者と軍と思わしき人達が俺目掛けて駆け出した。


 アスティベラードと共にクレイの横をすり抜けたその瞬間、クレイがスキルを発動した。

 ズドンと盛大な音をたてて巨大な盾が出現して迷宮の出入り口を封鎖したのだ。

 こんな使い方ができるのかと感心した。


 盾の向こう側では俺達を追いかけてきていた人達がぶつかったり怒鳴ったりしている音が聞こえてくる。

 怒鳴っているのは主にボルガだが。


 俺はすかさずエクスカリバーを展開し、迷宮出入り口を飾り立てている建築物へと矢を放ち倒壊させた。

 これで盾を解除したとしても追ってくるのに時間が掛かるだろう。


「貴様ら!!!一体何をしている!!」


 さすがにこの騒動で人が集まってきた。

 しかも、近くの教会からもやってきているのだろう。ボルガの命令に従い、各々手に辞書のようなものを持って俺に狙いを定め始めた。

 いつもなら万事休すの事態だが、今の俺達には秘策があった。


「みんな!俺に捕まって!」


 俺の言葉でみんな集まり各々服やマントを掴む。

 ここでのワープの仕方は勿論知らない。

 けれど、もし、ブリオンでのワープの仕方と同じなら…。スキル発動が同じだったんだ、きっとできるはずだ。

 弓を掲げて叫ぶ。


「とべ!」


 ヴヴンと視界が大きく縦にブレ、周囲の教会関係者達から謎の光が飛んでくるのを最後に視界が眩んで消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ