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デジャヴどころか現実


 ワープを終えると見慣れた廊下に出た。

 綺麗に並んだ煉瓦の壁と道にホッとした。


「謎の安心感がある」


 そう言えば、「だな」とクレイも賛同してくれた。

 ああいう幻想的なのも良いけど、こういう普通のが一番好きだ。

 明かりは付いてくれるし、変な石もない。最高。


「よし、いくぞー」


 地図を持つクレイに従い歩いていくと、何となく廊下が寒いような気がした。

 ややヒンヤリというよりは、明らかに冷気が流れてきているようなそんな寒さだ。

 俺だけかな、と思っていると、ドルチェットが肩を擦りながら言った。


「何か寒くねぇ?」


 良かった俺だけじゃなかった。


「確かに何かひんやりするね」

「というか、壁霜付いてないか?」


 クレイに言われて見てみれば確かに壁が白い。

 さらに歩くと廊下がバリバリに凍っており、もっと行くと雪のようなものが積もっていた。

 しかもこの雪は厄介なことにフカフカしておらず、表面がざりざりとシャーベット状になっている上に所々が固まって氷になっていた。

 気を付けて歩くものの、変な角度で凍っているせいで足が滑って危ない。


「ここめっちゃ脚が滑る」

「気を付けろ、転んだら氷が刺さるぞ」


 クレイが指差した方向には地面から突き出た千本のような氷があった。

 嫌な罠みたいになっている。


「これアスティベラードとノクターンきつくない?」


 パーティー内でも特に高い踵組は相当滑るだろうと振り返ると平然としていた。

 体幹凄すぎません??


「たわけ。滑り止めの魔法具を身に付けている」


 心のなかで言ったつもりが口に出ていたらしい。

 それにしても滑り止めの魔法具とは。


「そんなのあるんだ」

「無論、滑り止めの魔法もある」

「あの…、唱えますのでじっとしててください…。動くと変な風になりますので…」


 滑る地面の上で全力で動きを止めた。

 もっと早く言って欲しかった。


 滑り止めの魔法、キアープスの魔法を唱えてもらうと足元が安定した。試しに氷の上で片足立ちしてみても、普通の石の上で片足立ちしているのと大差がない。

 これは凄い。

 ノクターン曰く、靴のしたに物質を固める効果があるから滑らなくなるらしい。

 ちなみにこの魔法は雪、氷、砂、苔に対応するとの事。

 万能である。


 他にも体を暖める魔法を掛けてもらい、準備満タン。


「一応上の氷柱に気を付けろよ」


 残る上の危険物だけに注意を払うことになった。


 そんな感じで進んでいると、床の雪の嵩が結構増していく。もちろん滑ることもなく沈むことも無いが、突然ごりっとしたものを踏んで脚を止めた。


「ん?」


 感触は固くて長い。


「どうした?」

「何か踏んだっぽい。木みたいなの」

「木?迷宮に木なんかあるわけないだろ」


 ドルチェットにそう言われたが、感触は太めの枝だった。


「いやいや絶対に枝とかだよ。もしくは杖とか──」


 と見下ろすと、布切れが雪の間から覗いている


「──……だと思ったんだけど…。違うっぽい…?」


 何となく嫌な予感がしながらも、踏んだものを引っ張り出してみた。

 引っ張り出したものはガチガチに凍った人の腕でした。


「ひょおおおおおおおっっ!!??」

「うおっ!?なんだ!??」

「ど、どうした敵か!???」


 俺の悲鳴で前方を歩いていたクレイとドルチェット、ジルハが勢い良く振り返り、俺の手にある物体を見て同じく悲鳴を上げた。







「これあれか。聖戦の被害者か」

「みたいだね」


 掘り出してみたら冒険者の遺体だった。

 外傷はなく、死因は明らかに凍死。

 しかし傍らには剥き出しの武器が落ちていたところを見るや、ゴーストと交戦中に動けなくなって凍死したのだろう。


「こういうの見るとさ、聖戦って本当に現実に起こっていることなんだな」


 ドルチェットの言葉にジルハが「そうだね」と答える。


 始まると知らないところに転移するしあまりにも非現実な戦闘になるから“現実感”が薄かったけど、いざ被害者を目にして改めて現実に起こっていた事なんだと再認識してゾッとした。


「惨いな。とはいえ弔ってやることも出来ん」


 そう言ったアスティベラードにクレイが大丈夫だと答えた。

 何が大丈夫なのか。


「その辺は管理者が見つけて回収してくれるだろう」

「管理者?」


 なにそれ、とクレイを見ると「ん?」と不思議そうな顔をされた。


「なんだ?知らないのかお前」

「迷宮に管理者なんかいるの?」

「いやいるだろ普通に」


 普通にいるもんらしい。


「っていってもある程度の範囲だろうな。その範囲内だったら定期的に見回りをして遺品とか、まぁ遺体とか遭難者を回収してるんだよ。腐ってないのと、食い散らかされてないの限定だけどな」

「範囲外だとどうなるの?腐るだけ?」

「噂によると迷宮に取り込まれるみたいに言われてるけど、実際はモンスターに骨も残らずに食べられてるって感じだ。幸いこの人たちは幸運かもな。範囲内だし、凍ってるからしばらくは腐らない」

「不幸中の幸いってやつかぁ」


 嬉しくは無いだろうけど。


 とりあえず見つかりやすく並べて手を合わせておいた。

 安らかに眠ってください。


 それにしてもセンサーが反応しなかったなぁと不思議に思ったが、そういえばこれは生きているものしか反応しなかったんだった。







 そんな事もあり足元に注意しながら進むことしばらく、ようやく最後のワープ地点へとやって来た。


「ここが最後ってことは、地上はすぐって事なのかな」

「だろうな。とはいえ何処に出るのか分からないからディラは早めにフード被る準備しとけよ」

「へーい」


 みんな部屋に入った後に地図を持ったクレイが入るとワープが起動。

 一瞬の浮遊感の後に転移が完了した。


 扉を明け、みんな「ん?」と首をかしげる。


「ねぇ、なんか見たことない?ここ」

「確かに」

「しかもさっきよりも寒いですよ」


 目の前には完全に凍っている通路だった。

 なのに、俺も含めみんなこの通路には見覚えがあった。本当についさっき見たレベルで。


「もしかして…」

「おい、ディラ!」


 見たことのある角を曲がると、通路を塞ぐような氷が立ち塞がっていた。

 とはいえその氷は一部が破壊されて通れるようになっていた。


「ここもしかして彼処か?」

「確認してみる?」

「だな」


 気を付けて氷の壁を抜けると、つい先程まで戦っていた迷宮湖に出た。

 しかも見渡すとやはり戦闘の痕跡が生々しく残っていた。

 不思議な感じだった。


「湖が光っておらんな」

「光ってる元を俺が壊したからかな」

「ほう」


 当然だけどボスの一部とか残ってはいない。

 何となく見て回っていると、もう一つの通路から複数の話し声が聞こえてきて俺達は慌てて物陰へと身を潜めた。



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