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これが万能鍵でした




 アスティベラードside




 ズンズンとクロイノがゆっくりと歩いていく。

 揺れは極力減らし、乗り心地を優先させる。


 全力で走っても良かったけれど、あの後すぐにディラが寝てしまったから起こさないように配慮しているのだ。

 どういう道のりだったのかは知らないが、相当疲れていた。

 きっと精神をすり減らすような罠が多かったのだろう。

 ディラと合流出来たことにより急ぐ必要が無くなった事もある。


 とはいえ流石に揺れはゼロには出来ない。

 後ろを振り返れば、ちゃんとロエテムがディラを支えている。

 あまりにもぐっすりと眠っていて、これならどんな揺れでも起きなさそうだが、聖戦では最後まで頑張ってくれてたと聞く。ならばこういう時くらいはゆっくりさせてやりたい、と、思うのだが……。


「…………」

「アスティベラード、どうしましたか?」

「……いや」


 ノクターンの問いになんでもないと前を向く。

 ディラに感じた違和感は、きっと気のせいだ。








 ◼️◼️◼️




 いつの間にか寝ていたらしい。


「んが?」


 はっと目が覚めたら妙に頭がスッキリしていた。

 前にいるクレイがこちらに気付いて振り返った。


「おお、起きたか」

「…寝てたの?」

「疲れてたんだろ?ロエテムに感謝しろよ。ずっと支えててくれてたんだから」

「ロエテムが?」


 後ろを見るとロエテムがガッチリと俺の体をベルトで固定していた。

 さながらシートベルト。いや、体制的にチャイルドシート……。

 まぁ、そっちの方が安定するから安全ではある。


「ありがとう、ロエテム」


 お礼を言えば、ロエテムがいつもよりもシュンとした様子で答えた。


『こんなことしか役に立たなくてすみません』


 さっきの聖戦を引き摺ってるらしい。

 元気が無いのはそのせいか。


「いやいや、迷宮内のゴーストで大活躍だったじゃん。正直いってロエテムいなかったら迷宮湖まで来れてなかったよ」

『…そうですか?』

「うん。ていうかそもさ、人によって得意も苦手も違うんだし。しかもロエテムの呪いは無理だよあれ。毒盛られた俺とおんなじ状態だし」


 なんならロエテム以上にみんなに迷惑掛けていた。

 ああ懐かしき無力な誘拐事件。


「それに、氷対策なら多分俺が何とか出来るから、迷宮抜けたらやってみよう」


 すると、ロエテムから喜んでいるような気配が流れてきた。


「ディラ腹へってねーか?これ食べとけ」

「おおー、ありがとう」


 クレイから渡された携帯食糧を頬張る。

 疲れた体にごはんが染み渡った。






 そんな感じで進んでいると、ふと気が付いた。


「脇腹が痛くない…」

「ノクターンにお礼を言っとけよー。治してくれてたぜ」


 ドルチェットが教えてくれた。

 まじか、ノクターンだって疲れているだろうに。


「ノクターン!ありがとう!でも大丈夫なの?疲れてるでしょ?」


 前方にいるノクターンがこそこそとドルチェットに話すのが見えた。


「結構な時間休めたから少しくらいなら大丈夫だってさー!」


 ノクターンの代弁をドルチェットがしてくれた。


「お前30分寝てたからな」


 とクレイが言う。


「あれ?そんなに寝てたの?」

「爆睡だったぞ」

「そっかー、どうりでスッキリしていたはずだよ」


 肉体的っていうか、精神的に疲れてたのだろう。


 後ろのロエテムにもたれ掛かった。


 そりゃあんなの見せられたらな。と、心の中で愚痴る。


 脳裏に過るのは一面赤に包まれた世界。しかもただの赤じゃなく、様々な“赤”。

 あれは文字通りの地獄の光景だった。


“世界の真実”かぁ。


「…………どうすっかな……」









 最後のワープを経て、辿り着いたのは綺麗に舗装された道ではなく、岩の道だった。

 しかも光らずに暗いままで、部屋の中の光で見えている範囲だけでも今までの通路とは違うのがわかる。

 もしかして廊下が光る範囲って限られていたりするのかな。


「ねぇ、本当に道あってる?」

「間違いない。ほら、此処が最後だ」


 クレイに見せてもらった地図は、確かに最終目的地の最後の道を示していた。


「天井が狭いな。これではクロイノが通れぬ」

「仕方ないか。みんな降りよう」


 クレイに言われてクロイノから降りた。

 最高の乗り心地だった。

 クロイノを撫で回し、ふと、思った事を言ってみた。


「ありがとうクロイノ。次は俺が運ぼうか?」


 するとクロイノの耳と尻尾がピンと立ち、すぐさま子猫サイズに縮んだ。

 クロイノも運ばれたかったらしい。

 よいしょと抱っこすると、肩を登ってマントのフードの中に収まった。

 不思議なことに重さがない。

 なのに首の後ろでふわふわが堪能できる。

 最高である。


「愛いな。愛い」


 後ろでアスティベラードが何か言っていた。


「ケイケーイ」

「あ…、トクル…」

 

 更にトクルが俺の頭に乗ってきた。

 流石に重い。

 鳥なのにこんなに重くて良いんだろうか。

 いや、耐えられなくは無いけども。


「じゃあ行こうか。ディラ、光音叉を頼む」

「ういっす」


 クレイに言われて早速光音叉を鳴らして壁に近付けてみたが、何故か光らない。


「あれ?」

「どうした?故障か?」

「いや、そんなはずは…」


 無いとは言いきれないけれど。


 もう一度やってみたが光らなかった。


「マジで故障じゃねーの?」

「いいいいや、多分大丈夫だとおもう」


 ドルチェットに言われてちょっと焦った。

 なにせこんなにも長時間使用した事がなかったから自信がない。

 もしかしたら充電切れの可能性もあるから迷宮を出たらマーリンガンに聞いてみよう。


「すまないノクターン。頼めるか?」

「大丈夫です…、だいぶ回復出来ましたから…」


 そう言ってノクターンがエラーキフ(灯火)の魔法を唱えると、優しい光の球が頭上に集まって周囲を照らす。


「道が悪い。みんな、転ばないように注意しよう」




 辺りを警戒しながら進んでいく。

 だけど特に罠もなく、なんならモンスターの気配すらない。

 道は一本道だ。


 ひたすら歩いていけば、ひとつの扉が現れた。


「!」


 一瞬心臓が跳ねたが、似ているようで違う扉だった。

 ただ、この扉にも変な模様のような、文字だろうか?が彫られている。

 今度はカタカナの“ン”を横にしたようなものだった。

 もはや読めない。

 もしかしてさっきのもニートじゃなかったのかも。


「迷宮の最深部か?」

「さぁ、どうだろうな。だいぶ古くはありそうだけど」


 クレイが試しに門を押してみるけれどびくともしない。

 もちろんドルチェットにも開けられなかった。


「鍵ですか?」


 ジルハの問いにクレイが頷く。


「だろうな。それか此処まで古そうだとかんぬきかもしれん」

「自分が扉ごと斬ってやるよ」


 ドルチェットが大剣を鞘から取り出したのをみて、俺は慌てた。


「まってまって!俺にやらせてみて!」


 慌てて止めるとドルチェットは不満な表情になる。


「なんだよ」

「ちょっとね、試したいことがあって」


 クロイノとトクルをノクターンに預けてエクスカリバーを取り出す。

 お前も物理突破なのか?という顔のクレイとジルハ。

 違いますぅー。


 エクスカリバーを持ちながら、反対側の出て扉に触れる。

 するとびくともしなかった筈の扉が突然開き始めた。


「おおお!」

「すげーっ!どうやったんだ!?」


 エクスカリバーを見せた。


「多分これに反応してるんだと思う。一人だけ誤ワープも多分コイツが原因だったっぽい…」


 このエクスカリバー、というか、無銘の神具はいわゆる“鍵”の役割をするんだとか。

 彼が言ってたんだ。間違いない。


「? どういう事だ?」


 意味がわからないと言いたげなクレイと対照的にアスティベラードがハッとした。


「そういえばシャールフが似たような事をしておったな。神具にはさまざまな役割を担うとあった」

「それ何処詩にあったか?」

「弓神英雄譚に書いておったわ」

「そんなのあるのか」

「考古学者みたいな文献読み漁ってんな…」


 ドルチェットが呆れ返っている。

 多分、ヤバい分厚さの本とかなんだろうな。


「とりあえず中に入ろうよ」


 きっとここも変なものが浮いているんだろう。

 そんな事を思いながら、俺は扉をくぐった。


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