伝説の始まり
マーリンガンに連れられて、気になっていたあの森の中へと入っていく。
そこには道はなく、マーリンガンが雑草を踏みしめて道を作るレベルで森であった。
それなのに、なんでか俺はまだ森の中にいる。
「なんで森の入り口に戻されないの?」
通常であれば、俺は今頃入口ワープ完了しているはずだ。
「ボクがそう望んでないからね」
「意味わからん」
「わかんなくて良いよ」
ザクザクと草を掻き分けて進むマーリンガンの後を付いていく間、ずっと感じていた視線が強くなってくるのを感じていた。
なんだろう。体がソワソワする。
「そら、着いた」
マーリンガンのその言葉と共に森が開けた。
森の中に突如として現れた開けた場所に、地面に半分程埋まっている岩があった。
その岩から少し視線を上げて、思わずテンションが爆上がりした。
「うおおおおおおーー!!!!なにこれ凄い!!!」
岩には金色の棒が突き刺さっていたのだ。
大きさは一メートルほど。
例えるならば金色の鉄パイプである。
「エクスカリバーだ」
このシチュエーションならば、きっと誰もがこう言うだろう。
残念ながら刺さっているのは剣ではなくパイプであるが。
「ボクはノーネームゴッズって呼んでる。君んところではそう言うのかい?」
「岩に刺さった武器はエクスカリバーなんですよ」
「へぇー、そうなんだ。はじめて知ったよ」
岩に駆け寄り、そのパイプを上から下へと舐め回すように観察した。
この刺さり具合、まさしくエクスカリバー。
むしろエクスカリバー以外の何者でもない。
「これ抜けます?」
「さあね、でも簡単には抜けないんじゃないかな?」
やってごらんとマーリンガンが促した。
なら一回だけ試してみよう。
気分はアーサー王。
さっそく腕捲りをすると、よーしとパイプをしっかり握りしめて集中する。
そんな俺を傍目にマーリンガンはなおも説明を続ける。
「何せこれは選ばれたものしか抜けないものだからね。例えば勇者とか、英雄とか、武器の精霊に愛されたものとか」
呼吸を整えて…。
「君が変に気にしてたから連れてきたけど、まさか抜けることなんて「ふんっ!!」──」
いけると思った瞬間、一気に引き抜いた。
きれいに抜けた棒がキラキラ煌めき、マーリンガンが驚きのあまり口をあんぐり開け、天からは光のスポットライトが俺を照らした。
「……抜けちゃった」
「戻しなさい」
「はい」
ヤバイヤバイと慌てて棒を戻そうとしたが、何故だか岩にあったはずの穴が無くなっていた。
「………」
「………」
マーリンガンと無言で見つめ合う。
お互い顔は青ざめていた。
「あの、ごめんなさい?」
解決策が何一つ思い付かず、とりあえず謝る以外思い付かなかった。
頭を抱えたマーリンガンが、ゆっくりと顔を上げた。
「そうか、そう言うことか」
「何がです?」
「君も一応勇者として召喚された事になっているのか」
巻き添えなのに?それでも勇者判定とか、基準ガバガバじゃない?という突っ込みを飲み込む。
せっかくマーリンガンが思い付いた“抜けた理由”の考察なんだ。
聞かなきゃと、先を促した。
「というと?」
それとこの棒に何か関連が?
「そのノーネームゴッズは勇者の為の武器なんだ。だから勇者の資格がないと抜けないはずなんだ」
「ほうほうほう」
「その武器を守る役目がボク」
「ウンウン」
「面白半分で見せたらまさか抜くなんて思わないじゃん!!」
じゃんじゃんじゃん…と、エコー。
森の中なのに。
それは本当に申し訳ないと思いつつ、抜いた俺も悪いけど抜けた棒も悪いし促したマーリンガンも悪いと俺は開き直った。
「どうします?立て掛けておきます?」
「抜いてしまったからにはそれは君の所有物だ。きっと何処までも追いかけていくだろう」
「なにソレ怖い」
呪いの人形みたいじゃん。
内心びびりながらもどうやって追い掛けてくるのか少し興味もある。
飛んでくるんだろうか。跳ねるのか。
ちょっと見てみたい気もする。
「仕方がない。ボクは見なかったことにするしかない。君もあれだ。さっさとそれを何かの武器に変化させて村を出た方がいい」
「なんで?」
「近くの教会が察知して来るはずだ。ボクは全力でこの村を守るけど、どうしても生まれたてのソレの気配は隠しきれないだろう。やつらは君のお友達に持たせたかったはずだからね」
「というとつまり?」
「この村から逃げるしかない。嫌だろ?君の嫌いな兵士がたくさんやって来て、君からソレ奪うだけじゃ飽きたらずに、多分消されちゃうぞ」
「それは嫌だな」
一番嫌だ。
なんせ俺はこの世界に来て教会と兵士という言葉が大っ嫌いになっていた。
第一印象って大事よ。
たぶん一生好きになることはない。
「今なら抜いたという気配で、移動するソレの気配を誤魔化せる筈だから、明日くらいには村を出た方がいい。ボクの責任でもあるから、何とかして旅に役立つ物をかき集めよう!」
「俺もおばあちゃんに言い訳考えないと…」
あーあ、この村好きだったんだけどな。
穏やかで、田舎のばあちゃん家に似ていて親近感が沸いていた。
でも俺が此処をでないと、この村はもっと大変なことになってしまうのは嫌でも分かる。
あーやだやだと心の中で子供のように地団駄を踏む。
しかしマーリンガンはそんなの関係ない。
「とにかく武器に変化させてやれ。今のままだと可哀想だ」
「わかった。どうやるんだ?」
「念じるんだ。変われ!って」
あまりにもシンプル過ぎるアドバイスに心配になったが、やってみるしかないと棒を持ち直して念じた。
すると棒がぐにゃぐにゃ動いて姿が変わっていく。
「おお…!」
ものの数秒で、仕込み弓に変化した。
しかもブリテニアスオンラインで使い慣れた仕込み弓そのままだ。嬉しい。
色合いも重さも全く同じで、軽く感動しながらあちこち確認していると、何故か得意顔のマーリンガンが微笑む。
「名前は決めたのかい?」
名前か、伝説の武器には確かに名前が必要だ。
だけどこいつは考えるまでもない。
「名前はもう決まっている」
弓を天に突き出した。
キラキラと陽光に照らされた弓に言い放つ。
「お前の名前はエクスカリバーである!!!」